35 / 42
第34話 お前、本来のボスじゃなかったのかよ
しおりを挟む「グオォォォ~~~~~~~!!!!!」
起き上がったミノタウロスは、俺達の方を向いて大きな咆哮を上げた。
「何だ、あのミノタウロスは? あんな大きさのミノタウロスは見たことがない」
フレア先生が、ミノタウロスを見て驚いている。
このダンジョンのボスの筈だが、先生は入ったこと無いんだろうか。
確認の為に先生に聞いてみる。
「見たことがないって・・・あれが、このダンジョンのボスじゃないんですか?」
「そんな訳ないだろう。このダンジョンのボスはホブゴブリン、ゴブリンより少し強いくらいのモンスターだ」
「えっ? そうなんですか?」
「ミノタウロスは、ベテランの冒険者ですら命を落とす可能性のあるモンスターだぞ。授業で使う場所にそんな危険な場所を選ぶ筈ないだろう」
(ミノタウロスって、そんな危険なモンスターだったのか。アルファに特訓でよくミノタウロスの相手させられていたから知らなかった)
「しかも、あのミノタウロスはイレギュラーだ」
「イレギュラー?」
「モンスターの中に希に生まれる存在だ。同種のモンスターに比べて、力や見た目が大きく変わる。本来のミノタウロスは、2メートルから3メートルほどの大きさだが」
「目の前にいる奴は、本来の3倍くらいの大きさになりますかね」
先生が言ったように、目の前にいるのはイレギュラーという奴なのだろう。
俺が相手にしていたミノタウロスもここまで大きくなかった。
イレギュラーを前にして、先生の表情に焦りが見える。
『アルファ、先生達のこと守ってくれ』
『承知しました。ただ、先生の方は自分が戦うつもりのようですが』
『フレア先生なら生徒を守る為に戦いそうだよね。他の教師だったら、生徒を置いていく可能性もありそうだけど』
フレア先生が、俺やリーゼ達の方を向いて口を開く。
「お前達は、急いで殿下達の元へ向かえ。私は、あいつの相手を・・・」
「あっ、あのミノタウロスの相手は俺がしますよ」
「なっ!? 何を言い出すんだお前は!?」
「親父の手伝いでモンスターと戦うのには慣れているんです。先生達が、殿下達の元に向かうまでの時間稼ぎくらいなら出来ます」
「馬鹿を言うな。さっきも言ったが、あのモンスターはイレギュラーだ。お前がいくらモンスターとの戦いに慣れていると言ってもレベルが違う」
「でも、フレア先生は戦おうとしていたじゃないですか」
「私は、教師だ。お前達を守る義務がある」
「はい、なので俺以外の生徒を守ってください。ミリアーデさんやシューエルデ様、そして殿下達を」
「お前もだ。今このダンジョン内にいる全員私が守る・・・それとも、私の事は信用出来ないか?」
「まさか、フレア先生に会ったのは今日が初めてですし、あまり会話もしていませんが、生徒想いの優しい先生だって事は分かりますよ。少なくとも、平民というだけで俺の事を馬鹿にしてくる他の教師とは違います」
「なら、何故だ」
「色々と説明して納得して欲しい所ではあるんですが、あっちが待ってくれないみたいです」
起き上がった後、俺達を見ていただけのミノタウロスが動き始めた。
斧を高く上げて、俺達に向かって振り降ろそうとしている。
「マズい! お前達、急いで逃げ・・」
「火球」
フレア先生が、『逃げろ』と言い切る前に俺は魔法をミノタウロスに向けて撃った。
魔法は、ミノタウロスの顔に直撃し爆発した。
「グォォォ~~~~~~~!!!!!」
ミノタウロスは、魔法が当たったことでよろめき、唸り声を上げた。
「よし、当たった、当たった。ダメージもちゃんと入っているみたいだ」
「シュトラウド、お前・・・」
驚いた顔で俺を見るフレア先生に、俺は頭を下げて
「お願いします! ミノタウロスの相手は俺に任せて下さい!」
「~~っ!! はあ~~~、分かった、お前に任せる」
「ありがとうございます!!」
俺が戦えることを証明したが、それでも生徒を戦わせることに抵抗があったようだ。
だが、最終的に俺が戦うことを許してくれた。
「絶対に死ぬなよ。お前が死ねば、私は私を許せなくなる」
「大丈夫です! 死にません!」
「・・・生徒にこんな事を言うなんて、どのみち私は教師失格かもな」
「フレア先生が教師失格なら、学園のほとんどの教師が教師失格になりますよ」
先生は、フッと俺に笑いかけリーゼとゼシカに3人で殿下達の元へ向かう事を話した。
「えっ? レインさんは、大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。先生、早く行かないと、またミノタウロスが攻撃してきますよ」
「分かっている。2人とも説明した通りだ。シュトラウドが、ミノタウロスの気を引いている内に殿下達の所へ向かう」
「で、でも!」
「ミリアーデ、すまないが決まったことだ。これ以上話しをしている暇はない。急いでここから離れるぞ」
フレア先生の話しを聞いて、今度はリーゼが納得いかない様子だったが、半ば強引に先生が連れて行ってくれた。
去り際に、ゼシカが
「すまない」
と言った。
その時の顔は、悪役令嬢となる人物がするようなものとは思えなかった。
俺を1人残すことを許せなかったり、それでも殿下の元に早く駆けつけたい気持ちが色々と混ざり合っているようだった。
「他の貴族達の態度が酷いから変な感じだ」
「公爵令嬢は、平民だからというだけで差別するような人間ではありませんでしたね」
「お前な、リーゼ達が居なくなったからって急に姿見せるなよ。もし、戻ってきたりしたらどうするんだよ」
「もし、戻って来るのならわざわざ姿を見せません。それに、誰もマスターの所に戻ろうとしている人達はいません。必死に王子達の元へ向かっています」
「嫌な言い方するなよ。ゼシカはともかく、リーゼやフレア先生は俺の事も心配しながら走っている筈だ・・・心配してくれてると良いな」
「どうして、そこで弱気になるのか。先程、フレア先生から言われたことを覚えていないのでしょうか」
「ちゃんと、覚えているよ! 絶対死ぬなって言ってくれた」
「マスターも、あの方達を死なせたくないからミノタウロスの相手をすると言ったのでしょう? ならば、気合いを入れて下さい」
「分かっているよ。全く、もうちょっとやる気を出させるやり方を考えてくれないものかね・・・あっ! てか、お前なんでここに居るんだよ。先生達守れって言ったじゃねぇか」
「心配しなくても、すでにこのエリアの構造は理解しました。私が、何処に居ても対処出来ます」
「う~ん、まあ、それなら良いけど」
「不満ですか?」
「いや、優秀な相棒がいてくれて嬉しいんだけど、だからこそリーゼや先生達の方にいて欲しかったというか・・・別に俺は死んでも良いけど、俺に優しくしてくれる人達に死んで欲しくないからさ」
「あの方達は、マスターが死ぬことも悲しまれるかと思いますが」
「そうだな、そうならないように頑張りますか」
足を伸ばしたり曲げたり、その場で軽く体を動かす。
「トレーニングを厳しくしすぎましたかね。今の自己犠牲の考え方は早急に直す必要がありますね」
「うん? 何か言ったか?」
「いえ、それより、また動き出しますよ」
アルファが何を言ったか聞こえなかったが、聞き直す前にミノタウロスが俺の方を見ているのに気付いた。
俺の方をジッと見た後、周りを見回し始めた。
恐らく、リーゼを探しているのだろう。
リーゼの気配を感じたのか、体の向きを変えて動き出そうとしていた。
もちろん、それを俺が簡単に許す訳もなく、もう一度『火球』をミノタウロスの顔に向けて放った。
火球に気付いたミノタウロスは、腕を顔の前に上げて防いだ。
「おっ、今度は防いだか」
魔法を撃っていた俺に気付いたミノタウロスは咆哮を上げて、威嚇をしてきた。
「グォォォ~~~~~~~!!!!!」
「悪いけど、リーゼ達の方には行かせないからな」
21
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる