3 / 150
蜂蜜の吐息
01.5 ー はじまりの森
しおりを挟む
森の中には、ぽっかりと拓けた場所が多数点在している。
そこは何十年、何百年経っても草が生えるのがやっとで、その昔空から星が落ちてきた、偉大な魔術師が魔法の実験をした場所だ、等の逸話があるものの、未だになぜこんな場所があるのかは分かっていない。
銀狼は宙に浮いたヘラジカの角を咥えたまま、湖に一番近いその場所へと向かっていた。
浮いたままのヘラジカは全く重さを感じず、自身に負担がかかることもない。どこか浮かれたような足取りで進む。
目的地に着くと、すでに他の面子は揃っていた。
人数分のテントが張られており、その近くで紺色の軍服を着た四人の獣人は火を起こし、遅い昼食の準備を始めている。こちらに気付いたコヨーテ獣人の青年は軽く手を上げかけたが、銀狼の口元を見て固まった。
不審に思った他の獣人も次々に集まってきたが、銀狼を見た瞬間、コヨーテ獣人と同様に固まってしまった。
銀狼は彼らの前で止まり、ヘラジカもどきから口を離す。すると、ヘラジカもどきは重さを取り戻したかのようにドサリと音を立て、その場に落ちた。
その音で我に返った獣人達は、ヘラジカもどきと銀狼を交互に見たあと、近くの仲間達と視線を交わした。
誰も声が出ない中、銀狼はぐっと体を伸ばしてから変身を遂げる。
キラキラとした小さな粒子が舞ったあとで現れたのは、銀色の髪に同じ色の耳と尾を持った狼獣人だった。二重の切れ長なアイスブルーの瞳は、彼をより一層冷徹そうに見せている。
どこか影のある雰囲気の美丈夫が、そこに存在していた。
狼獣人は、銀の縁飾りがついている襟を少し緩めた。
「班長、もしかして一人で仕留めたんですか?」
最初に狼獣人に気付いたコヨーテ獣人が、獲物を指差しながら聞く。
「魔獣が…あれは神獣かもしれない。彼がくれた」
「は?」
コヨーテ獣人はまだポカンとした表情を浮かべている。
「レビ、この始まりの森でもどこでもいい、九本の尾を持つ狐の魔獣を見聞きしたことはあるか?」
「尾が九本…!?いや、初めて聞く話です」
なあ?と、レビと呼ばれたコヨーテ獣人は、まだ意識が半分飛んでいる他の仲間にも話を振った。やっと意識が戻った犬獣人とジャッカル獣人、熊獣人、鷹獣人は、揃って班長と呼ばれた狼獣人を見ながら必死に頷く。
「そうか…俺も聞いたことはない。けれど…」
先程のことを思い出しているのか、ヘラジカもどきを見ながら狼獣人は口の端を上げる。
「え…班長、笑ってる?」
「嘘だろ…マジか!」
「ちょっ…俺まだ死にたくない…」
他の獣人は狼獣人を盗み見ながらコソコソと話しているが、その声は丸聞こえだ。狼獣人は近くに居たレビの頭を軽く叩く。
「いてっ!何で俺…班長、俺はまだ何も言ってません!」
頭を抱え大袈裟に痛がるレビだが、誰も同情はしない。いつものことだからだ。
「この件に関しては、部隊長に報告をしてくる。お前らはサンダーエルクの解体と昼食作りをしてくれ」
「分かりました」
狼獣人はヘラジカもどき…サンダーエルクの解体を他の者に任せ、設置されているテントの一つに入る。そして連絡用の魔道具を取り出すと、先程会った狐を思い出しながら大きな溜息を吐いた。
あれは本来の自分ではない。
狼獣人は、自分のとった行動を深く反省していた。神獣だと思われる見ず知らずの魔獣に使ったのは、自分の家に伝わるマーキングの魔法だった。あれを魔獣に使うものではないことは、自分自身が良く分かっている。
あの時は酒に酔った以上に気分が高揚していた。心が満たされていた。あんな気分は、初めてだった。
しかし、自分は部下を預かる身だ。しかも自分は王立騎士団という、何よりも規律と騎士道精神を大事にしなければならない騎士だ。それが、あのような…。
狼獣人は、穴があったら更に掘り進んで埋まりたい気分になっていた。
そこは何十年、何百年経っても草が生えるのがやっとで、その昔空から星が落ちてきた、偉大な魔術師が魔法の実験をした場所だ、等の逸話があるものの、未だになぜこんな場所があるのかは分かっていない。
銀狼は宙に浮いたヘラジカの角を咥えたまま、湖に一番近いその場所へと向かっていた。
浮いたままのヘラジカは全く重さを感じず、自身に負担がかかることもない。どこか浮かれたような足取りで進む。
目的地に着くと、すでに他の面子は揃っていた。
人数分のテントが張られており、その近くで紺色の軍服を着た四人の獣人は火を起こし、遅い昼食の準備を始めている。こちらに気付いたコヨーテ獣人の青年は軽く手を上げかけたが、銀狼の口元を見て固まった。
不審に思った他の獣人も次々に集まってきたが、銀狼を見た瞬間、コヨーテ獣人と同様に固まってしまった。
銀狼は彼らの前で止まり、ヘラジカもどきから口を離す。すると、ヘラジカもどきは重さを取り戻したかのようにドサリと音を立て、その場に落ちた。
その音で我に返った獣人達は、ヘラジカもどきと銀狼を交互に見たあと、近くの仲間達と視線を交わした。
誰も声が出ない中、銀狼はぐっと体を伸ばしてから変身を遂げる。
キラキラとした小さな粒子が舞ったあとで現れたのは、銀色の髪に同じ色の耳と尾を持った狼獣人だった。二重の切れ長なアイスブルーの瞳は、彼をより一層冷徹そうに見せている。
どこか影のある雰囲気の美丈夫が、そこに存在していた。
狼獣人は、銀の縁飾りがついている襟を少し緩めた。
「班長、もしかして一人で仕留めたんですか?」
最初に狼獣人に気付いたコヨーテ獣人が、獲物を指差しながら聞く。
「魔獣が…あれは神獣かもしれない。彼がくれた」
「は?」
コヨーテ獣人はまだポカンとした表情を浮かべている。
「レビ、この始まりの森でもどこでもいい、九本の尾を持つ狐の魔獣を見聞きしたことはあるか?」
「尾が九本…!?いや、初めて聞く話です」
なあ?と、レビと呼ばれたコヨーテ獣人は、まだ意識が半分飛んでいる他の仲間にも話を振った。やっと意識が戻った犬獣人とジャッカル獣人、熊獣人、鷹獣人は、揃って班長と呼ばれた狼獣人を見ながら必死に頷く。
「そうか…俺も聞いたことはない。けれど…」
先程のことを思い出しているのか、ヘラジカもどきを見ながら狼獣人は口の端を上げる。
「え…班長、笑ってる?」
「嘘だろ…マジか!」
「ちょっ…俺まだ死にたくない…」
他の獣人は狼獣人を盗み見ながらコソコソと話しているが、その声は丸聞こえだ。狼獣人は近くに居たレビの頭を軽く叩く。
「いてっ!何で俺…班長、俺はまだ何も言ってません!」
頭を抱え大袈裟に痛がるレビだが、誰も同情はしない。いつものことだからだ。
「この件に関しては、部隊長に報告をしてくる。お前らはサンダーエルクの解体と昼食作りをしてくれ」
「分かりました」
狼獣人はヘラジカもどき…サンダーエルクの解体を他の者に任せ、設置されているテントの一つに入る。そして連絡用の魔道具を取り出すと、先程会った狐を思い出しながら大きな溜息を吐いた。
あれは本来の自分ではない。
狼獣人は、自分のとった行動を深く反省していた。神獣だと思われる見ず知らずの魔獣に使ったのは、自分の家に伝わるマーキングの魔法だった。あれを魔獣に使うものではないことは、自分自身が良く分かっている。
あの時は酒に酔った以上に気分が高揚していた。心が満たされていた。あんな気分は、初めてだった。
しかし、自分は部下を預かる身だ。しかも自分は王立騎士団という、何よりも規律と騎士道精神を大事にしなければならない騎士だ。それが、あのような…。
狼獣人は、穴があったら更に掘り進んで埋まりたい気分になっていた。
10
あなたにおすすめの小説
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
落ちこぼれ同盟
kouta
BL
落ちこぼれ三人組はチートでした。
魔法学園で次々と起こる事件を正体隠した王子様や普通の高校生や精霊王の息子が解決するお話。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
今日は少し、遠回りして帰ろう【完】
新羽梅衣
BL
「どうしようもない」
そんな言葉がお似合いの、この感情。
捨ててしまいたいと何度も思って、
結局それができずに、
大事にだいじにしまいこんでいる。
だからどうかせめて、バレないで。
君さえも、気づかないでいてほしい。
・
・
真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。
愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。
時の情景
琉斗六
BL
◎あらすじ
中学教師・榎戸時臣は聖女召喚の巻き添えで異世界へ。政治の都合で追放、辺境で教える日々。そこへ元教え子の聖騎士テオ(超絶美青年)が再会&保護宣言。王子の黒い思惑も動き出す。
◎その他
この物語は、複数のサイトに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる