それが運命というのなら

藤美りゅう

文字の大きさ
39 / 40

それが運命というのなら #39

しおりを挟む
「は……?」
 将星の言葉に耳を疑う。
「なんだって?」
「加奈子はそもそも妊娠してなかったんだよ」
 将星ははっきりとそう告げた。今度は聞き間違いではないのは確かだ。
「俺とヨリを戻したいが為の嘘だったんだよ」
「そんな……!」
 あまりの衝撃的な事実に言葉を失う。
 (あんな辛い思いをして将星との別れを決めたのに……!)
 悔しさの余り、無意識に下唇をきつく噛んだ。

「妊娠したって言えば、結婚する事になるだろう? 子供は頃合いを見て、流産したって言おうとしてたらしい」
 そこまでする加奈子の執着心にゾッとするも、そうする程に将星を愛していたのだろう。加奈子の想いも今になっては分からなくもなかった。
「けど──俺が理月との別れで凹みまくってて、そんな俺を見て嫌気がさしたみたいだ」
 そう言って苦笑を浮かべた。
「でも、本当は……別れた時の理月の涙に罪悪感を覚えたらしい」
 何も手に付かなくなるほど憔悴した将星に、加奈子は将星の隣にいるのは自分ではないのだと思い知った。
 そして──、
 別れ際の理月の涙。
 加奈子の中で、理月が将星に対してさほどの想いがないと勝手に思込んでいた。だがそれは自分の思い違いだったのだと気付き、自分はなんて事をしてしまったのだろうと罪悪感が襲った。自分の幸せの為に、二人の中を引き裂き傷付けてしまった事の罪悪感に耐えきれなくなったのだろうと、将星は淡々と話した。
「理月が日本を発ってすぐその事を告げられて、本当はすぐにでもこの事を伝えたかったし、会いたかった。けど、せっかく留学して頑張ってるのに、余計な動揺を与えて邪魔をしたくなかった」
 そう言って将星は歯に噛んだように笑みを溢した。
 一気に情報が入ってきて、理月の頭は混乱するばかりだった。
「じゃあ……俺たちは、別れる必要は…………」
「ああ……なかったんだ」
 鼻の奥がツンとなり、耐えきれず理月の青い瞳から涙が溢れた。
「そうか……」

 将星の別れから一年半──。
 将星の幸せを願いながらも将星との別れを思い出しては、悲しみを堪える日々を過ごした。
「だから……」
 将星は手に取った理月の手を更に強く握ると、

「この先の人生、俺と生きてくれ」

 そう言った。
「もう、二度と離れたくない──俺には理月しかいない……これからも俺にはおまえだけた」
 相変わらず自分に向けてくる真っ直ぐな感情は、一年半経った今も変わらなかったようだ。
 少し呆れながらも、理月は将星の手を握り返す。
 自分からの返事がない事に不安なのか、将星は泣きそうな顔をしている。

「俺と将星は──運命の番なんだろ?」
 そう言うと、将星は理月の意外な言葉に目を丸くしている。
「だったら……共に生きる事は、決められていた運命さだめなんじゃないのか? だったら、とことんその運命に付き合ってやるよ」

 その言葉に将星は、
「ふっ……理月らしいな」
 満足そうな笑みを溢した。
「早くおまえを抱きしめて、キスしてえな」
 そうポツリと呟くと、理月は不意に席を立った。
「理月?」
「帰るぞ、俺のアパートに」
 意地の悪い笑みを浮かべた理月は、
「帰って俺を抱きしめてキスしてくれるんだろ?」
 そう言ってニヤリと笑った。

 理月の言葉に将星はポカンと口を半開きにし、間抜けな表情を浮かべている。そんな将星を差し置いて、理月は足早に店の外に向かっている。
「ちょっと待て! 理月!」
 残っていたコーヒーを飲み干し慌てて理月を追う。
 理月の横に並び腰を抱く。
「将星……おまえさ、俺に付き合っている奴がいたりって思わなかったわけ?」
「チラッとは思ったけど……そうだったらどうするかは考えてたさ」
「どうするつもりだったんだ?」
 嫌な予感しかなく、理月は怪訝そうな顔を将星に向けた。
「まあ……それは、きっちり話し合いを……」
 そう言ってはいるが、将星の目は挙動不審に忙しなく動いている。
 元々口下手な将星が話し合いなどできるとも思えない。おそらく、力でねじ伏せるつもりだったのだろう。もし、本当に理月に番がいたとしたら、その相手を殺しかねないのではないかと思った。
 その上、自分に会う為に一人、わざわざこんな所まで来てしまったのだ。
「ははっ……! やっぱ、おまえこえーよ」
 半ば呆れながらも将星の自分に対する執着心に悪い気はしない。
「こえーか? でも、もう二度と離れねえから。覚悟しろよ、理月」
 そう言って将星は理月にキスをした。

 理月の部屋に帰ると、離れていた時間を埋めるように二人は何度も抱き合いキスをした。
 ヒートではない時に抱かれるのは初めてで、ヒートの時と比べものにならない痛みがあった。だが、返ってそれが将星に抱かれていると実感し、幸せにも思えた。

 愛してる、理月──。
 そう何度も愛を囁かれる度に、自分も将星に気持ちを伝えたかった。だが、言えなかった。こんな時に自分のプライドの高さが邪魔をした。いつか伝えられたら、と思う。
「もう二度と、離すんじゃねえぞ」
 今の理月にはそれが精一杯の言葉だった。
 それでも将星は自分の想いを分かってくれているのか、嬉しそうに微笑んでいる。まるで子供の様なその表情に理月の胸が熱くなる。
 (愛してる、将星……)
 そう心の中で呟くと将星にキスをした。

 自分たちが本当に『運命の番』であるかは分からない。少なくとも、将星と出会い自分は変わったと感じる。喜びや悲しみ、人を好きになる気持ち、そして幸せ──。オメガの自分とアルファの将星であるからそうなれた、と思えばこれは『運命の番』だとも言えるかもしれない。けれど、オメガやアルファで出会わなくとも、どんな性別で出会っていても、将星を愛する事にはなっていた気がする。
 互いに運命を感じ、互いしかいないと思うのなら、それが『運命の番』なのだろう。

 それが運命さだめというのなら──。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白銀オメガに草原で愛を

phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。 己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。 「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」 「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」 キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。 無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています

トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話

十海 碧
BL
桐生蓮、オメガ男性は桜華学園というオメガのみの中高一貫に通っていたので恋愛経験ゼロ。好きなのは男性なのだけど、周囲のオメガ美少女には勝てないのはわかってる。高校卒業して、漫画家になり自立しようと頑張っている。蓮の父、桐生柊里、ベータ男性はイケメン恋愛小説家として活躍している。母はいないが、何か理由があるらしい。蓮が20歳になったら母のことを教えてくれる約束になっている。 ある日、沢渡優斗というアルファ男性に出会い、お互い運命の番ということに気付く。しかし、優斗は既に伊集院美月という恋人がいた。美月はIQ200の天才で美人なアルファ女性、大手出版社である伊集社の跡取り娘。かなわない恋なのかとあきらめたが……ハッピーエンドになります。 失恋した美月も運命の番に出会って幸せになります。 蓮の母は誰なのか、20歳の誕生日に柊里が説明します。柊里の過去の話をします。 初めての小説です。オメガバース、運命の番が好きで作品を書きました。業界話は取材せず空想で書いておりますので、現実とは異なることが多いと思います。空想の世界の話と許して下さい。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

処理中です...