没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友

文字の大きさ
7 / 60
1章

第7話 優雅になる!

しおりを挟む
 わたくしたちは村から見える森を目指して進む。

 1時間くらいで到着し、安全のために周囲を確認する。

 正面にはどこまでも続く森で、横と後ろは原っぱだ。
 今は金剛月で日本の四月と似たような感じ、気温もちょうどよく過ごしやすい。

「それで、斧は買っても来なくても良かったんですの? 木を切る道具は持っておりませんが……」

 わたくしはそう言ってティエラとマーレを見ると、ティエラが自信満々に頷く。

「そこは俺が作る。『鉄斧作製クリエイト・アイアンアックス』」

 ティエラがそう言って魔法を唱え、わたくしの目の前に土色の斧が現れる。

「これ、持ち手も鉄なんですのね」

 わたくしは斧を拾い上げ、軽く振ったりして感触を確かめる。
 優雅な貴族……元貴族令嬢であるわたくしでも軽々と振れる斧で、ティエラが頑張って作ってくれたと思えるととても嬉しい。

「火事が起きても溶けないし、適当なハンマーで10000回叩かれても傷一つつかない優れモノだ」
「そんなすごいものなのですね! 感謝して使いますわ!」
「売ったらいくらするんだろうとか考えるなよ」
「ティエラからもらった物を売るなんてあり得ませんわ」
「ありがとう」

 ティエラはそう言うと恥ずかしそうに顔を赤らめている。
 白い毛がほんのり赤いのだ。

「でもクレア、本当に僕たちは手伝わなくてもいいの?」
「ええ、これはわたくしがしたいからやっていること。2人にやらせることではないですわ」

 今回こうやって危険な外にまでついてきてくれたのも、わたくしの我がまま。
 それにさらに斧を振ったりして、伐採を手伝わせるなんていうことはわたくしには出来ない。

「そう。ならこの辺りで周囲を見張ってるね」
「ええ、よろしくお願いします。なにぶん初めてなので、時間がかかってしまうかもしれませんが」
「僕はゆっくりと待つから大丈夫」
「分かりましたわ」

 マーレが気だるげに言うけれど、いつものことなので気にしない。

 わたくしは少しでも早くと思って伐採する木を選定せんていする。

「これでいいでかしら」

 わたくしはちょうどいい太さの広葉樹に決めた。
 木材に使うなら針葉樹の方がいいのは異世界の知識で知っているけれど、この辺りにはない。
 なので広葉樹に向かって斧を叩きつける。

「優雅!」

 ブン! カッ!

 斧が木に突き刺さり、抜けなくなってしまった。
 それでも、わたくしがやると決めたことなので、なんとか斧を動かしたりして引き抜く。

 それから何度も何度も木に斧を叩きつけて切っていく。

「難しいですわね……」
「クレア。ちゃんと斧を握って、腰から振るんだよ。腕だけで振ってもやりにくいから」
「なるほど、本当ですわ!」

 マーレの指導もあり、1時間くらいかかって、何とか1本の木を切り倒すことができた。

「うーん。結構……大変ですわね……。でも、この1本が優雅への道! わたくしは諦めませんわ!」

 額に汗をかきながらの仕事もこれはこれで気持ちのいい物だった。
 優雅に針仕事……というのもいいけれど、身体を使っての仕事も捨てがたい。

「クレア。ちょっといいか」
「ええ、なんでしょうティエラ」
「クレアって全属性の魔法が使えるだろ? なら、強化魔法を使って木を切った方がいいんじゃないかと思ってな」
「でも、魔法は教えてもらうまで使うの禁止なのでは?」
「ああ、だから今から教えようと思う」
「いいんですの!?」
「もちろん。じゃあ、まずはその斧を地面に置いて」

 わたくしは言われるままに、斧を地面に置く。
 それから、ティエラの魔法指導が始まった。

「いいか? 魔法を使う時に大事なのはイメージだ。だから、強化魔法なら、強化した身体を使って何をしているのか。っていうことを考える必要がある」
「なるほど」
「そして、詠唱は『身体強化ボディ・ストレングス』で行けるはずだ」
「やってみますわ」

 わたくしは今までやってきた斧を振って木を切り倒す。
 この想像をもっと簡単にできるように考える。

 1時間もかかっていたのを、一振りで切り倒す。
 それができればわたくしは優雅になれる。
 いや、優雅になる!

 想像と現実が合致したと思えたので、わたくしは詠唱を叫ぶ。

「『身体強化ボディ・ストレングス』!!!」

 わたくしの身体が赤色に光り、なんだか全身に力がみなぎってくる。

「え? もう成功したのか? 凄すぎるんだが!?」
「ティエラの教えが素晴らしいのですわ! 早速行きますわよ!」

 わたくしは地面に置いてあった斧を拾い、近くの木に向かってフルスイングする。

「優雅!」

 スコン!

 綺麗な音と共に、先ほど切った木よりも太い木が簡単に伐採できる。

「すごい! すごいですわ! ティエラの教えてくださった魔法半端ねーですわ!」
「いや、それクレアがすごいだけ……」
「これはもっともっとガンガン切っていけますわね! 今日は1000本切って差し上げますわ!」
「それは流石に迷惑になるんじゃないか!?」

 わたくしは一振りで木が伐採できるので、とても楽しくなってもっともっとと森の奥に入っていく。

 スコン! スコン! スコン!
 スコン! スコン! スコン!
 スコン! スコン! スコン! スコン! スコン! スコン! スコン!

「あらよ! 楽しいですわ!」

 汗をかきながらの伐採も良かったが、このテンポで切っていくのも楽しい。
 世の木こりの方々はこんな楽しい仕事をしているのかと、ちょっと羨ましくもなる。

「クレア! あんまり奥に行くのは!」
「大丈夫ですわ! 切っていくだけですわ!」

 スコン!

「コケ?」
「あら? ごきげんよう?」

 木を切った時、今まで見たこともないニワトリのような大きな魔物がいた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

公爵閣下のご息女は、華麗に変身する

下菊みこと
ファンタジー
公爵家に突然引き取られた少女が幸せになるだけ。ただのほのぼの。 ニノンは孤児院の前に捨てられていた孤児。服にニノンと刺繍が施されていたので、ニノンと呼ばれ育てられる。そんな彼女の前に突然父が現れて…。 小説家になろう様でも投稿しています。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi
ファンタジー
前世では病弱で、病室の窓から空を見上げることしかできなかった私。 そんな私が転生したのは、魔法と剣があるファンタジーの世界。 ……とはいえ、勇者でも聖女でもなく、物語に出てこない“モブキャラ”でした。 貴族の家に生まれるも馴染めず、破門されて放り出された私は、街の片隅―― 「しろくま通り」で、小さなお菓子屋さんを開くことにしました。 相棒は、拾ったまんまるのペンギンの魔物“ピノ”。 季節の果物を使って、前世の記憶を頼りに焼いたお菓子は、 気づけばちょっぴり評判に。 できれば平和に暮らしたいのに、 なぜか最近よく現れるやさしげな騎士さん―― ……って、もしかして勇者パーティーの人なんじゃ?! 静かに暮らしたい元病弱転生モブと、 彼女の焼き菓子に癒される人々の、ちょっと甘くて、ほんのり騒がしい日々の物語。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

処理中です...