没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友

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1章

第25話 フィーネ

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「少しよろしいでしょうか」

 わたくしは隣にいる少女に向かって話しかける。

 ちなみにティエラは少し離れた所で見守ってくれていた。

「……なに」

 ぶっきらぼうに彼女は口を開く。
 時折何かをすする音が聞こえるのは、聞き間違いではないと思う。

「わたくしはクレアと申します」
「そう……あたしはフィーネ」
「フィーネさんですね。はじめまして」
「……それで、なに」
「お話を聞きたいと思いまして」
「……」

 わたくしはそう言うけれど、フィーネさんは黙ったままだ。

「どうして先ほど店から飛び出して来られたのですか?」
「あんたには関係ない」
「そうでしょうか」
「……」
「フィーネさん。建物のことに関して、怒っておられたのではないですか?」
「なんで」

 彼女の声には驚きが混じっているけれど、顔は決して上げようとはしない。

「以前お話してくださったではありませんか。エルフは木と共にあるのでは?」
「……」
「それで、先ほど『森妖精の羽衣』の倉庫の修理……いえ、新築の話を聞いてきました」
「!」

 フィーネさんは遂に顔をあげ、真っ赤に腫らした目をわたくしに向けてくる。

「取り壊すの!?」
「……レンガの倉庫を建てて、雨漏りをできるだけしない物を建てて欲しい。そうお願いされましたわ」
「……そう。それは……仕方ないことよね……」

 わたくしは、フィーネさんが木で作れと要求してこないことに少しばかり驚いた。

「仕方ないことですの?」
「そう。だって木で作ると、やっぱり……高くつくの」
「初めて聞きました」
「そう? だってレンガは土で焼いてすぐにできるけれど、木は切り倒して、それを乾燥させたり結構時間がかかるでしょう? それに、木で作ったら定期的にメンテナンスをしないといけないし、倉庫なんて大きな物にそればっかりはやっていられない。だから……仕方ないの」

 フィーネはそう言って、とても悲しそうに笑う。

「でも、『森妖精の羽衣』は伝統があって、とても多くの人が訪れるというのではないんですか? それなら、たくわえもあったり……」
「それがね。そうでもないの。エルフ伝統の服を古臭い……っていう人もいるし、他の種族の人たちは自分の服を着るし。だから業績も落ちていて……。本当はもっとお店も街の中央にあったんだ。だけど、そこを売らなきゃいけなくなることもあったりして、それで……今の場所に移ってきたの」
「そんな、フィーネさんの服はとても素敵だと思いますわ。自信を持ってください!」

 わたくしは本気でそう思っている。
 だけれど、フィーネさんには届かない。

「ありがとう。そういってくれるだけで嬉しい。でも、どうにもならないこともあるの」
「……」
「ふぅ……言ってて仕方ないって……わかっちゃった。聞いてくれてありがとね。仕事戻らないと、ああ、そうだ。また来てね。サービスしてあげる」
「あっ……」

 フィーネさんはそう言ってお尻をパンパンとはたき、『森妖精の羽衣』の方に戻っていく。
 その際、わたくしの方には顔を見せないように注意して。

「……」

 しかし、わたくしはそれをただ見送ることしかできなかった。
 彼女を呼び止めたとして、何ができるのか。
 わたくしが勝手に木で作ると言う?
 お客様の要望を無視して、勝手にやってしまう。
 そんなことはするべきではありません。

 その程度の分別はつきますが……。

「どうしたら良かったのでしょうか……」
「クレア」
「ティエラ……お恥ずかしい姿を見せてしまいましたわ」
「そんなことない。クレアの優しさは見ていた俺が知っている」
「ありがとうございますわ。しかし、まずは一度……家に帰りましょうか」
「そうだな」

 ということで、わたくしたちは一度家に帰ることになった。
 その道中も色々と考えを巡らせる。

 実際にあの場所を綺麗にして、それから新しい倉庫を建てるまでは時間がある。
 だから、なんとかして、どちらの意見も納得させられる答えを見つけなければ。

「クレア。飯を買っていこう」
「ええ……」

 わたくしは考えを巡らせながら、ティエラの言葉に適当に頷く。

「お、じゃあいつもの店でいいか?」
「ええ」
「こっちだ」

 わたくしはティエラに引っ張られるままに、店に入っていく。

「メニューはなにがいい?」
「ええ」
「何がいいかと聞いているんだが……」
「ええ」
「……なんでもいいか?」
「ええ」

 それから少しすると、わたくしの目の前に熱々の料理が置かれた。

「ん? あれ? わたくしなんで食事に?」
「俺が誘ったんだ。覚えていないか?」
「え……覚えていませんわ」
「そうか、まあなんでもいい。飯を食べよう」
「しかしマーレ抜きで食べたなんてこと……」
「大丈夫だ。いいから食べよう」
「でも」
「いいから、お嬢ちゃん。この料理はなんて料理だったっけ? クレアに説明してくれないか?」

 ティエラは静かなドワーフの子に聞く。

 彼女はゆっくり頷くと静かに話し出す。

「それは肉と魚のパイです。最初にそれぞれ調理して、後から混ぜ合わせて焼いたものになります」

 淡々と話す彼女の言葉に、わたくしは電流を流されたような感覚を味わっていた。

「そうですわ……」
「どうした?」
「これですわ! これで解決できるかもしれません!」

 これならば、もしかしたら……両方の意見を上手く対処できるかもしれない。
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