没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友

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1章

第32話 ティエラの徐行

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「わたくしの家に!? 誰が!? 来るというのですか!?」
「ちょ、ちょっと。どうしてそこまで驚いているのよ。あたし、おかしいこと言った?」
「そうではありません! そうではありませんわ! とても嬉しいのです!」

 ティエラやシエロ、マーレは最初友達ではあったけれど、出会ってすぐに家に住みつくようになった。
 でも、普通の……人を家に招待するようなことは今まで一度もなかったのだ。

 わたくしが貧乏で他の貴族とは付き合いがなく、平民からは貴族ということで距離を置かれた。
 だから、友達というものがいなかったのだ。

 その友達が家に来てくれる。
 どうしましょう。

「ごちそうでも買ってくるべきでしょうか? 食べ放題? いえ、満漢全席でも買ってきたほうがいいでしょうか?」
「落ち着けクレア」
「あう」

 ティエラがわたくしのひざをカクンと小突き、わたくしは彼の背に仰向けに倒れる。

「落ち着いたか?」
「え、ええ、やはり満漢全席では足りない……」
「いらん。それよりも、早く行くべきではないか? フィーネの気が変わらない内に」
「! その通りですわ! フィーネさん! すぐに行きましょう!」

 わたくしはフィーネさんの手をとり、ティエラの背に乗る。

「え? ちょっと? あたしは逃げないから」
「ティエラ! 急いでわたくしたちの家に行きましょう!」
「いや、にげな「急いでくださいまし!」

 わたくしの言葉に、ティエラは仕方ないとばかりに頷いて走り出す。

 一瞬身体が後ろにもっていかれるけれど、慣れているのでティエラの背を掴んで耐える。

 ティエラは人々の間を走り抜け、家々の上に飛び出した。

「ちょ! 早!」
「ちょっと揺れますわ。わたくしの手を離さないでくださいまし」
「アンタがあたしの手を握ってんのよ!? あ、離さないで! 落ちる! 落ちるから!」
「そうですの? わかりましたわ」

 離せと言ったり離すなと言ったり忙しいなと思い、わたくしはティエラの背の上でワクワクする。

 ティエラはそれを察してくれたのか、少し速度をあげた。

「クレア。跳ぶぞ」
「わかりましたわ。フィーネさん。わたくしにしっかりと捕まってください。危ないですわよ」

 わたくしとティエラのやりとりに、フィーネさんはわたくしの顔を見て叫ぶ。

「危ない!? 何するの!? っていうこの速度が十分危ないと思うんだけど!?」
「ティエラのこの程度は徐行と一緒ですわ」
「いやそれ「行くぞ」

 グン!

 体中の血が地面の方に引っ張られる感覚を味わい、身体が空に跳ぶ。

「素晴らしいですわああああ!」
「いやああああああああああ!!!!!!!!」

 ザン!

 と、わたくしたちの歓声を背に、ティエラが家に到着した。

「フィーネさん。どうですか? 楽しかったですか?」
「いや……無理……ちょっと……休ませて……」
「ではわたくしに家で休みましょう」

 喫茶店での休憩は少し足りなかったかもしれない。
 ということで、わたくしはフィーネさんの細い身体を抱き上げ家に入る。

 扉はティエラが開けてくれた。

「ただいまですわ」
「今戻った」
「おかえりー」

 扉を開けると、そこにはゴロンと寝転がったマーレがいた。
 彼は真ん中で仰向けになっていて、鋭い爪でお腹をかいている。

「ちょっと失礼しますわね」

 わたくしはフィーネさんをベッドに横たえる。
 それから、彼女の側に腰を下ろして彼女を見る。

「大丈夫ですか……?」
「ううん……大丈夫……ちょっと……色々と出かかったけど……」
「そうですか……すみません。少しテンションをあげすぎてしまいました」

 反省する。
 いつもの調子でティエラに乗っていたけれど、彼女にはきつかったみたい。

「いいのよ……慣れたら確かに楽しそうだったしね……よっと」

 フィーネさんはそう言いながら、ゆっくりと身体を起こす。
 そして、周囲を見回して一言。

「ベットは超いい素材使ってるのに、家具がないってどういうこと?」

 とっても広い……25ⅿプールの広さの建物の中の隅っこにベッドがぽつんと置いてあるだけ。
 最近は仕事とか付与魔法に集中していたので、そっちまで思考が回っていなかった。

「お風呂とか普段はどうしてたの?」
「マーレが魔法で綺麗にしてくださいますので……」
「え? トイレは?」
「マーレの魔法で……」
「暇が出来た時は?」
「マーレの魔法で……」
「マーレに頼りきりじゃないの!?」
「ええ、お恥ずかしながら……」

 そのことを説明すると、彼女はわたくしをじっと見て口を開く。

「それなら、これから新しい家具を作りましょう。一緒にデザインして、クレアが家具を作って、あたしがそれに着色したりするわ」
「いいんですの?」
「ええ、デザインの勉強にもなるし、あたしもクレアと一緒に何か作ってみたいし」
「! わたくしもですわ! 一緒に作りましょう!」

 ということで、わたくしたちは協力して家具を作ることになった。
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