没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友

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1章

第34話 ララ

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「なんでなの!? しばらく休みってどういうことなの!?」

 マーレはわたくしの隣で叫ぶ。
 彼にとって食べることは命の次に大事なこと。
 そう公言する彼にとって、お気に入りの店が開いていないことが苦痛なのだろう。

「マーレ。ここでは通行人の邪魔になります。退かないといけませんわ」
「でも……ここの料理が食べられないって……」
「料理店は他にもあるでしょう? 他にもいい匂いのする店はあるではありませんか」
「ダメだよ……。ここのが一番美味しいんだもん」
「もしかして一人で勝手に食べに行ったりしてました?」
「……ここのが食べたい!」

 マーレはそう言って、わたくしの言葉を聞かなかったようにする。

「どうしましょう……」

 マーレのわがままだと分かっているけれど、なんとか力になってあげたいという気持ちはある。

 そんなことを思っていると、騒ぎを聞きつけたのか、『土小人のかまど亭』からドワーフの静かな方の少女が出て来た。

「どうかしたの?」
「ああ……すみません。マーレ……この熊の従魔があなたのお店の料理が食べたいと騒いでしまって……」
「ごめん。従業員用の宿舎が使えなくて、その対処で仕事にならない」
「従業員用の宿舎? その修理依頼って、手工業ギルドで出てますか?」
「今日店長が出しに行ったと思う」
「なるほど、その仕事、お受けいたしましょう」

 わたくしはマーレのためと、いつも美味しい料理を作ってくださるこの店の方々のためにそう言う。

 すると、彼女は小さく首を傾げて聞く。

「いいの?」
「ええ。わたくし、建築系お嬢様で売っていますので」
「初めて聞いた」
「初めて思いついていいましたわ」

 ただ思ったままに言ったけれど、自分でも意外といいかもしれないと思う。

「分かった。じゃあわたしも一緒に行っていい?」
「かまいませんが……何かあるのですか?」
「わたしが案内とか説明とかすぐにできる」
「なるほど、しかし、今日はもう夕方です。家で料理を待っている方もいるので、今日受けるだけ受けて仕事に取り掛かるのは明日にしようかと思っていたのですが……」

 わたくしの言葉に、彼女はただひとこと。

「ついていく」
「分かりましたわ。では早速行きましょう。マーレ、行きますわよ」
「うん……今日は我慢するよ……明日中に作ろうね?」
「それは……善処いたしますわ」

 ということで、わたくしたち3人は一緒になって歩いて手工業ギルドを目指す。


「ルーシ―さん。お仕事をお受けしたいのですが、よろしいですか?」
「クレアさん。もちろんですよ。前回受けていただいたお仕事もとても感謝されていました」
「本当ですの?」
「はい。マーガレットさんにもしまた店に何かあったらクレアさんをぜひ指名してお願いしたいとおっしゃられていました」
「とても嬉しいですわ。次もそう言っていただけるようにがんばりますわ」

 わたくしがそう言うと、ルーシ―さんは頭を縦に激しく振って頷く。

「はい! よろしくお願いしますね! と、そちらにいらっしゃるのは、マーレさんとララさんですか」
「久しぶりー」
「お久しぶりです」

 マーレとララさんが答える。

「それで、今回の仕事というのは……」
「ええ、ララさんが働いている『土小人のかまど亭』の宿舎? の修理をしようと思っているのですわ」
「なるほど、それでしたら、こちらに依頼書になりますね」

 ルーシ―さんはそう言って出してくれた依頼書を、わたくしとマーレで丁寧に読む。

「特におかしいところはないと思いますが、いかがですか?」
「僕もいいと思うよ」
「ありがとうございますわ。ではルーシ―さん。お受けいたします」
「ありがとうございます! では詳しい話は……ララさんがなされる。ということでよろしいですか?」

 ルーシ―さんがララさんに顔を向けると、小さく頷く。

「いい」
「ではこの依頼の受諾、ルーシ―が承認いたしました。それでは、クレア様、よろしくお願いいたします」
「はい。しっかりとやらせていただきますわ!」

 ということで、わたくしはその依頼を受けることが決まった。

 店から出ると、マーレがララさんに詰め寄る。

「今日のところは我慢するから、この街で美味しいお店紹介してくれない?」
「マーレ、流石にそれは……」

 わたくしが止めようとすると、ララさんはわたくしを止める。

「ララさん?」
「いい。店を開けないのはこっちの問題。でも、提案がある」
「提案?」
「わたしがあなたの家に行って料理を作る。という提案」
「ララさんが……ですの?」

 わたくしが驚いてそう聞くと、彼女は小さく表情を変えずに頷く。

「そう。食材とキッチンさえあれば、わたしが作る。お代はいらない」
「とても魅力的ですが……」
「クレア。これは聞くべきだよ。きっと神のお告げだと僕は思う」
「さっき死んだと言っていたではありませんか」
「神様だから簡単に蘇ってくれるよ」
「そんなゾンビみたいな……」
「いいから行こう! キッチンはティエラに作らせる! だからほら!」

 彼はそう言いつつ、たくましい腕でわたくしとララさんを肩に担ぎ上げて家に進んだ。
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