莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千

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グランドギルドマスター

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 グランドギルド【アツモリ】の建物の中に入ると、明るく広い吹き抜けの内側に思わず見上げる。
 よく見ると、光の球体がシャンデリアのように吊るされている。
 電球には見えないけど、アレも魔法?

「ひ、広い・・・・そして、多い・・・」

 宛ら、休日のショッピングモールの人混み。様々な人種種族がギルドを利用していた。

「今日は、少ないわね」
「こ、これで、ですか!?」

 キャロラインさんの言葉に驚く。

「今日は早めに出て来たからな。少し余裕があるんだろう」
「は、はぁ・・・・」

 どちらかと言うと、役場とか病院とかの待ち時間が苦手なんだけど・・・。
 もしかして、サブギルドメンバー登録するのに、かなり時間かかったりするのかなぁ・・・・・。

 そう思うと、ちょっと気が重い。

「あ、アカネさーん!!」
「ッ!!」

 突然、大きな声で名前を呼ばれて、驚く。
 振り向くと、ジオルくんが誰かを連れて来ていた。
 ブラウスにベスト、藍色のスカートを着た若い女性だった。

「受付のエルザを連れて来た」
「あら、ジオル、アンタにしては気が利くじゃない」
「混むと、待ち時間長いっすからね」
「ええ!ジオルくん、わざわざありがとう。ごめんね、手間をとらせて」

 いつの間にか、ジオルが受付の人を呼びに行ってくれていた。

「俺、気が利く男ですから」
「あまり調子に乗るな」

 紅音にお礼を言われて戯けたように笑う、ジオルの頭をジャミールが軽く小突く。

「だが、丁度いい。エルザ済まないが彼女のギルド登録を頼んでもいいか?」
「はい。今の時間でしたらすぐに手続き出来ますよ」
「ああ、頼む。アカネ」
「は、はい」
「エルザ。彼女がアカネだ」

 エルザは紅音に向かい、優しく微笑んだ。

「はじめまして、エルザです」
「アカネです」

 互いに挨拶をした。

「アカネがサブギルドメンバーへの登録を希望しているんだ。頼めるか?」
「了解致しました。アカネさん、手続きを行いますので、どうぞ、此方へ」
「ちょっと待て」

 エルザさんが手続きの案内をしようととしたその時、知らない男性の声がそれを遮った。
 その瞬間、さっきまで賑わっていたギルド内の空気が変わった。

「え?」
「ギルドマスター」

 キャロラインさんの呟きに、視線の先を見ると、一人の男性が此方を見ていた。

 長い黒髪に丹精な顔。服を着ていても分かる細身ながら鍛えられた体。そして、彼が纏っている雰囲気が、他の人達と常軌を逸していた。
 達人?猛者?
 なんて言葉にしていいのか分からなかったが、明らかに目の前に居る男性は周りの人達と何かが違った。

 外見だけ見たならカッコいいとか俳優みたいでイケメンだとか思えたかも知れないのに、彼の纏っている強者の威圧感が半端無い。

「クロード・・・」
「よう、今日は早いんだな。アドルフ」

 男性は友達に話しかけるようにアドルフさんに話しかけて来た。

「随分と別嬪さんを連れて来たな。新入りか?」
「ああ、昨日この王都へ来た者だ。サブギルドメンバーの登録を希望している」
「へぇ・・・・」
「ッ!」

 男性の黒い眼が紅音を捉える。
 思わず、体が萎縮する。
 肩に乗っているシロも、警戒するように、身を低くする。

「フッ、そんなに、警戒しなくてもいいぞ。新人さん」

 男性はそんな私とシロを見て、目尻を緩めた。

「自己紹介が遅れた。
 俺は、このグランドギルド【アツモリ】のギルドマスター。クロード・オーディアンだ」
「あ、私は、アカネ・タカナシです。この子はシロと言います」
「・・・・ああ、よろしく」

 私が自己紹介を名乗ると、ギルドマスター、オーディアンさんは何故か目を細めた。

「エルザ、彼女のギルドメンバー登録はもう終わったのか?」
「いいえ、これからです」
「なら、彼女の登録は俺がやろう」
「え!?」

 ギルドマスターの発言に、周りが一気に騒つく。

「クロード、お前、何を言っている」
「クロードさん。新人さんの手続きなら私が受けたわまります」

 アドルフさんとエルザさんが呆れるような、何処か困った風にオーディアンさんを止めようとする。

「いや、今は俺も手が空いている。それに、彼女は、少々興味深いからな」
「え?」

 そう言って、オーディアンさんは何故か私を見て小さく笑った。

 そして、

「では、早速始めようとしよう」
「は、はぁ・・・・」

 何故か、ギルドマスター本人に手続き室に案内され、ギルドメンバー登録の手続きをする事になった。

「そう、緊張するな。幾つは質問をさせてもらい、魔道具で登録をするだけだ。すぐに済む」
「は、はい・・・」
「チチチ・・・(ご主人様、大丈夫でしょうか?)」
「う、うん。大丈夫」

 だと、思いたい。
 正直なところ、ギルドマスターと対面で座っているだけでも冷や汗が出る。

「何故、ギルドマスターであるこの俺が、ここに居るのか?」
「え、!?」
「って顔だな」
「あ、す、すみません・・・」

 私って顔に出やすい?

「そうだな。まず、何故俺が君に興味を持ったのか、話しておこうか」
「出来れば、是非」

 出来たら、理由を知りたい紅音は、オーディアンの話を聞く。

「君の事は、アカネと呼べばいいのか?」
「はい」
「俺が、アカネに興味を持ったのは、俺と同じモノを持っていたからだ」
「同じモノ?」
「俺も『鑑定』のスキルを持っているんだ」
「『鑑定』?」

 それは、意外過ぎる答えだった。
 だって、鑑定のスキルはこの国では探せば幾らでも有るスキルだと、ランスロット様が言っていた。

「どうして、私が鑑定のスキル持ちだと分かったんですか?」
「俺の鑑定のスキルはレベル88だ」

 オーディアンはそう言いなが、自分の眼を指差す。

「俺の眼には、このグランドギルドに居る全ての者のスキルとそのレベルが常に見る事が出来る。そして、対象者、対象物の状況も変化も、鑑定を使えば、確認する事が可能だ」
「え、それって・・・・」
「ああ、アカネの鑑定スキルがレベル23の事も未発見のスキル『亜空間プライベートルーム』の事も、7人の神からの恩恵と加護を受けている事もちゃんと、見えている」

 ニッコリと微笑むオーディアン。
 その笑顔に紅音は、やばい人に目を付けられてしまったかと、内心ヒヤヒヤしていた。
 と言うか、いつの間に鑑定スキルもレベルが上がっていた事にも驚いた。

「鑑定のスキルが20越えな事も素晴らしいが、未発見のスキルや複数の神々の恩恵と加護。そんな人物がこのグランドギルドへギルドメンバー登録を希望するんだ。興味を持つのは当然だと思うが?」
「・・・・・・・」

 不敵に笑うオーディアンに紅音は無意識のうちに膝の上の自分の手を握りしめた。

 昨日のパルアドルフ様やレイ様達の会話が脳裏に甦る。
 もし、私のスキルに利用価値を見つければ、名前を縛り、洗脳、操る・・・。
 あり得ない話では無い。
 
「・・・・私をどうするおつもりですか?」
「どうもしない。これは俺個人の興味だ」
「興味?」

 これも、意外な答えだった。
 だけど、紅音の目の前にいる男性は、恐らくギルドマスターとしてでは無く、一人の人として話をしている。

「ああ、俺は、珍しいもの、面白いもの、美しいものが好きだ。それは、物でも人でも生き物でも、なんでもだ」

 オーディアンはテーブルに肘を付き、楽しそうに微笑んだ。

「そして、同じ鑑定のスキルを持ち、神々の恩恵と加護を持ち、珍しいスキルを持ったアカネに興味を持った。ただそれだけの話だ。
 別に、アカネ自身をどうこうしようとは考えていない」
「・・・・・・・・」
「随分と警戒しているな」
「すみません、ここに来るまで色々とありまして・・・・」
「・・・・まあ、当然の反応だな」
「え?」
「スキルのレベルが20越えと50越えになるには、それ相応の経験を積まなければ、そこまで成長しない。相当な修羅場を潜り抜けて来たと見る」
「そう、なんです、か?」
「?、何故当の本人が疑問系なんだ」
「えっと・・・・」

 オーディアンの疑問にどう答えるか迷い、シロに視線を向けると、

「チチ、チチチチ(ご主人様の御心のままに)」

 シロは、そう小さく鳴いた。

「・・・・・・・・」

 しばらく、考えた紅音は、

「実は、」

 今までに起きた出来事を全てオーディアンに打ち明ける事にした。

 自分が異世界から召喚された事、自分の意思で城から出た事。そして、手違いでこの世界に来てしまい、神々から謝罪を受け、恩恵と加護を受けた事をオーディアンに話した。

「・・・・・・・・・」

 紅音の話に口を挟まず、黙って聞いてくれていたオーディアンは、そのまま沈黙してしまった。

「あ、あの、」
「ふ、」
「ん?」
「ぷ、っ、あはははははは!!!!」
「うえ!?」

 何故か次の瞬間、オーディアンが大爆笑し始めた。

「ククク、まさか、ギフトの女神ルカリスの加護の力でたった1日でここまでスキルのレベルの爆上がりとは、フフフ。
 王族の奴ら、とんだ馬鹿をしたもんだな!!釣った魚を逃したところか、人魚を逃したみたいなもんだぞ、ククク」
「に、人魚?」
「モノの例えだ。まあ、今の王族は古臭い考えの奴が多い。最初に鑑定のスキルだけしか見ていなかったのなら、アカネを手放したのも納得がいく」

 可笑しそうに笑うギルドマスターに私は、首を傾げる。

「いいか、今の王族や貴族は強い力、強力な魔法を重宝する傾向がある。逆を言えば、補助や補佐、強い魔法と慣例が無さそうな力や魔法には関心が薄い。
 現にアカネの鑑定のスキルを軽視されたのもそのせいだろ。
 だが、どんなスキルもレベルを上げれば、その分強くなり、使い方次第ではどんな武器にも勝る、自身の武器になる」

 そう言いながら、ギルドマスターは私の目をじっと見た。

「このグランドギルド【アツモリ】は、どんな人間、どんな人種、種族をも受け入れる。
 だが、ただ一つ、守る事がある!!」

 ドン!!

「ッ!?」

 オーディアンの拳を強くテーブルへ叩き込む。
 アカネの体がビクッと震え、シロも驚いて、跳ね上がる。

「俺を裏切らない事だ」

 低い声。強い眼差し、黒い眼に紅音の顔が映る。

「俺を裏切らなければ、俺は、グランドギルドマスターとして、ギルドメンバーを裏切らない。どんな境遇でも護り、共に戦う。例え、貴族だろうと、国が敵になろうともギルドの仲間は、守り抜く。
 絶対にだ!!」
「ッ、・・・・」

 その眼には、強い意志と覚悟が見えた。
 プレッシャーなのか、人と対面をして、肌がビリビリと痺れるような感覚は生まれて初めて感じる。

「異世界人、平凡なスキル、新しいスキル、神々の恩恵と加護、大いに大歓迎だ」

 差し出された右手。

 だが、今まで出会ってきた誰とも異なる圧倒的なカリスマ性をオーディアンに紅音は強く感じた。

「アカネ、グランドギルド【アツモリ】へ、ようこそ」
「、こちらこそ、よろしくお願いします」

 私は、差し出された右手を掴み、握り返した。
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