87 / 230
第三章 アレキサンドライト領にて
88、マルズワルト王国2
しおりを挟む
「アイツですか……」
オリビアの笑顔とは裏腹に、リタが顔をしかめた。その顔を尻目に苦笑しながらオリビアは耳飾りに触れる。
そこへほんの少し魔力を流すと、耳飾りについたクリスタルが淡く光った。
すると、数秒後に耳飾りからは頼りになるはずの護衛、ジョージの声が聞こえる。
『お疲れっす~』
「ジョージ、お疲れ様。休みなのに悪いわね。デートかしら?」
『はい。そろそろ出ようかってところですね。そっちはどうですか?』
「こっちは問題なしよ。顔合わせも済んだし、今後正式にリアム様と婚約となるわ」
『そうっすか。筆頭公爵家なんて玉の輿じゃないですか。給料アップ楽しみにしてますね』
「もう! その話はいいわ。大事な話があるのよ。周囲を確認してちょうだい」
耳飾りの奥から聞こえるジョージの声が少し高めに語尾を伸ばしていた。からかわれていると判断したオリビアは、眉を寄せて唇を結び、鼻から息を吐いた。そのタイミングで、ジョージの笑い声が聞こえる。
『ははっ。伯爵令嬢がそんな鼻息荒げちゃダメっすよ~。周りの確認完了です、どうぞ?』
「ジョージ。あなた週明け覚えておきなさいよ。……本題に入るわ。セオからの報告で、騎士団襲撃事件にマルズワルトが関わっている可能性が出てきた。襲撃者が着ていたローブはマルズワルト製、それもハイランドシープの毛を使った高級品よ。デートなら高級生地を扱う店へ行って、黒いコートに使える厚手の生地を探して欲しいの」
『なるほど……。わかりました』
オリビアは耳飾りから聞こえるジョージの声が落ち着いたのを確認し、王都にいる彼を思い浮かべ、一度瞬きをしてしっかりと目を見開いた。
「一見《いちげん》では相手にしてもらえないかもしれない。そのときはドレスや小物を買うといいわ。無理はせず、慎重にね」
『了解です』
「それじゃあ、また休み明けにね」
『はい。帰るときは気をつけて。王都で待ってますよ』
「ありがとう」
オリビアは自分では見えない耳飾りに視線を送り微笑んだ。淡い光が消え、それは元のアクセサリーに戻る。
「ああ、これがオリビア様の……!」
「セオ……」
オリビアはうっとりと瞳を輝かせて話し始めたセオの前で、人差し指を唇の前に立ててみせた。彼は慌てて口を閉じ、息を吐いてから頭を下げた。
「も、申し訳ありません。軽率でした」
「一応、クリスタル領ではないから気をつけてね。異国の言葉では「壁に耳あり、ジョージにメアリー」というのよ」
>>続く
オリビアの笑顔とは裏腹に、リタが顔をしかめた。その顔を尻目に苦笑しながらオリビアは耳飾りに触れる。
そこへほんの少し魔力を流すと、耳飾りについたクリスタルが淡く光った。
すると、数秒後に耳飾りからは頼りになるはずの護衛、ジョージの声が聞こえる。
『お疲れっす~』
「ジョージ、お疲れ様。休みなのに悪いわね。デートかしら?」
『はい。そろそろ出ようかってところですね。そっちはどうですか?』
「こっちは問題なしよ。顔合わせも済んだし、今後正式にリアム様と婚約となるわ」
『そうっすか。筆頭公爵家なんて玉の輿じゃないですか。給料アップ楽しみにしてますね』
「もう! その話はいいわ。大事な話があるのよ。周囲を確認してちょうだい」
耳飾りの奥から聞こえるジョージの声が少し高めに語尾を伸ばしていた。からかわれていると判断したオリビアは、眉を寄せて唇を結び、鼻から息を吐いた。そのタイミングで、ジョージの笑い声が聞こえる。
『ははっ。伯爵令嬢がそんな鼻息荒げちゃダメっすよ~。周りの確認完了です、どうぞ?』
「ジョージ。あなた週明け覚えておきなさいよ。……本題に入るわ。セオからの報告で、騎士団襲撃事件にマルズワルトが関わっている可能性が出てきた。襲撃者が着ていたローブはマルズワルト製、それもハイランドシープの毛を使った高級品よ。デートなら高級生地を扱う店へ行って、黒いコートに使える厚手の生地を探して欲しいの」
『なるほど……。わかりました』
オリビアは耳飾りから聞こえるジョージの声が落ち着いたのを確認し、王都にいる彼を思い浮かべ、一度瞬きをしてしっかりと目を見開いた。
「一見《いちげん》では相手にしてもらえないかもしれない。そのときはドレスや小物を買うといいわ。無理はせず、慎重にね」
『了解です』
「それじゃあ、また休み明けにね」
『はい。帰るときは気をつけて。王都で待ってますよ』
「ありがとう」
オリビアは自分では見えない耳飾りに視線を送り微笑んだ。淡い光が消え、それは元のアクセサリーに戻る。
「ああ、これがオリビア様の……!」
「セオ……」
オリビアはうっとりと瞳を輝かせて話し始めたセオの前で、人差し指を唇の前に立ててみせた。彼は慌てて口を閉じ、息を吐いてから頭を下げた。
「も、申し訳ありません。軽率でした」
「一応、クリスタル領ではないから気をつけてね。異国の言葉では「壁に耳あり、ジョージにメアリー」というのよ」
>>続く
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は反省しない!
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。
性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました
藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】
※ヒーロー目線で進んでいきます。
王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。
ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。
不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。
才能を開花させ成長していくカティア。
そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。
立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。
「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」
「これからも、私の隣には君がいる」
甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる