【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ

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俺から見たお前

昔の話①ーーside 砂道ーー

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愛とか恋とかいう感情がよく分からない。

俺の両親はそんなこと教えてくれなかったから。

母親はもう何年も家に帰ってきていない。

父親は家政婦の契約の時だけはたまに顔を出すけれど、中学の最後の方は家政婦すら雇われなくなって、ただ毎月分の生活費が通帳に振り込まれていた。

愛のない結婚。家柄の関係で形式上は婚約したものの、俺を産んでからはお役目御免と言ったところか。お互い別の相手の元で過ごしている。

俺は物心ついた時から、何も知らないままでいつも1人だった。

小学校に通い出すと、俺の無関心さと社会性の無さに担任が呆れてこう怒鳴りつけた。

「お前は空っぽだから本でも読んで勉強しろ」と、

だから俺はその教え通りに色んなことを本で学び補うことにした。

本はいろんなことを教えてくれる。
人間の生き方に必要な知識。
勉学。
好かれる話し方。
好かれる人間になる方法。

本の通りに演じればお前はいつもいい子だと先生に褒められた。

俺はそれが普通で正しくなれるのだと確信した。

休み時間はいろんな本を読み漁り、たくさんのことを学ぶ。俺は頭がいいのか没頭しやすいのかは分からないが、吸収力と記憶力だけはあったから、何事にも本を実践して人間社会での生き方を学んだ。

ただ、ひとつ

「スナくん‥好きです!私と付き合ってください!」

その中でも理解できなかったのが、やはり
愛や恋といった類の感情だ。
読んだ本に書いてある感情はどれも曖昧で抽象的。

テレビをつけたら流れていた恋愛ドラマ。主人公の女が死にそうな顔で泣き喚く。泣いたり苦しくなるのなら、そんなものは必要なのだろうか?疑問、だけど答えはいつも分からなかった。

唯一、俺が血の繋がった誰かから教わったとすれば、小学校3年の時に田舎暮らしの父方の祖父が、亡くなる直前に俺にこう言ったこと。

”好きな人を宝物のように扱いなさい。好きな人を第一に優先しなさい。そしたら、心が満たされて幸せになれるから。”


「スナ!」


近所の八谷 陽はちや ようは、明るくて活発的な性格だと思う。

母親が友人同士。事情を知っているからか、よくハチの母親は俺を気にかけるようにとハチにそう言い聞かせていた。

いつもハチの周りは人で溢れていて、笑顔が絶えない。ハチを巡っては争いが起こることもあったが、ハチはそれをなんなく笑顔を振り撒き制した。

ハチと一緒にいると本では教えてくれないことを学べる。だから俺はよくハチに連れ出されても抵抗せずに絡んでいた。

たまにうるさいけれど、俺に危害がないなら苦じゃない。むしろ、視線がハチに向くから話さなくてよくなるし楽だ。

「うえ!苦手なピーマンだ!スナ~食べて~」

一番一緒にいて心が落ち着く人。

「またひとりなのか?スナ行こうぜ!」

困ったときに真っ先に顔が浮かぶ人。

「スナー!バイバイ!明日は探検しような!」

寝る前に最後に考える人。

「なー、スナはさ、もうちょっと笑ったらいいんじゃね?ノリ良くしてさ!そしたら、もっと‥、あ!やべえ明日家族で旅行行くんだ‥明日は俺お前の家行けねえから!じゃあな!」

その人のことを考えると胸が苦しくなる人‥?


7割がた当てはまる恋診断。俺は本を閉じると、確信めいた顔で本棚に本を片付ける。

今日は良い学びをした。

診断の結果で当てはめるなら、俺はハチに恋をしている。恋してるなら、その相手を大切にしないといけない。1番に考えたら、お互いに尊い存在になって、心を満たしてくれるから。

そしたら、毎日感じるこの心の虚しさも渇きも無くなるはずだーー。

中学の初めハチに告白をした。そういうものだと本に書いてあったから。

予想はしていたが、男同士だ。俺から離れたいと案の定言われたので、俺は了承した。こういうのは考える時間、焦らす時間、後悔する時間が大事らしい。もし結果に繋がらなくても構わなかった。
”好きな人ならばハチの意見を尊重する。相手を一番に優先しろ。”そう祖父が言っていたから、俺はそれに従ったまでだ。

だって、それが普通で正しいからーー。

ハチに構っていた分の時間ができて、俺は暇つぶしがてら友人を作った。

同じクラスの平凡で世話焼きな奴。俺よりも小さくて、ハチよりは少し大きい。穏やかな瞳はよく俺を見て笑う。俺のことをあまり詮索しない。俺が黙れば静かにする。一緒にいたら楽だから、ただ一緒にいただけ。


ある日、久々に母親が帰ってきた。俺は本の通りに優しい息子を演じる。

母がギョッと目を尖らせた。

”あんたなんかっ産まれなきゃよかったのに”ーー。

そう叫んで泣き喚く母親を見て、俺は何故?と首を傾げる。

本の通りにしたのに。おかしい。

どうして、胸がこんなにも気持ち悪いのだろうか。

最悪の日、とはこういう日のことを言うのだろう。

俺はなんだか気分が悪くて、どうしようもなくて。都合のいい友人を連れ出して出かける。


「もしもさ、ここから落ちたらどうなんだろうな」

高い崖の上は心地よくて、吸い込まれそうな谷底に楽になれるかななんて、ふとそう呟くと、そいつは慌てたように俺にしがみついてきた。


「そしたらっ!俺も飛び降りる!」

「っ、‥いやなんでだよ‥」

目を見開く。一瞬何を言ってるのか理解できなかった。俺を射抜く真剣な目。俺は初めての感覚に戸惑う。

「絶対に飛び降りる。だって‥スナを助けたいから」

「はぁ?共倒れになんだろ絶対」

こんなこと、本には書いていなかった。そいつの穏やかな目が俺だけを捉えていて、ぞくりと心臓が高鳴った。

「ならない!俺、死ぬ気で思いっきり手を伸ばすから、

だからその時は‥ちゃんと‥て、手を握れよなっ‥こ、こんな風に!」

は変なやつだ。おかしい。

だって、俺と一緒なら死ねるって言ってるようなもん。バカじゃん。

でも

繋がれた手が暖かくて、心地よくて。

必死に俺にそう告げたこいつが、俺を助けるのだと手を握りしめる早川が、何よりもキラキラ輝いて見えた。

空っぽだった心が、少しだけぽかぽかして、その時初めて満たされた気がした。

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