【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ

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俺から見た君は

大型犬a

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いつもこうだ。

忘れたい時に限って執拗に顔を出す。俺はいつになったら逃れられるんだろうか。

距離の近い2人を呆然と眺める。
向かい側ではなく、隣同士に座る2人。八谷がスナの肩に頭を預けて、クスクスと微笑んでいる。

お似合いだ。

ふいに、スナの目が俺を捉えて見開く。バッと顔を隠して視線を逸らすと、その先で夏樹が心配そうに俺を見つめていた。


「やめときなよ‥すごく嫌な予感がするし‥それに風太‥今日体調悪いでしょ?」

体調が悪い?いやそんな事は‥。
胃が痛んで少しだけ吐き気がする。チキンも少ししか食べれなくて、持ち帰り用のトレイに入れてもらった。

刹那、目がまわるような感覚が少しして、俺は壁に手をつく。

あれ、なんだか身体がだるいかも‥。でもこれくらいなら‥胸の苦しさよりは全然ましだ。

「‥大丈夫、平気。予約してるの個室らしいし、釘合わせにはならないはずだから‥」

「‥分かった。俺、外の席にいるから、終わったら一緒に帰ろうね?キツくなったらすぐ呼んで。絶対だよ。」

「うん、ありがとう海」

心配そうな海と別れて、俺は意を決して店内へと入る。
どこかで強い視線を感じたが無視した。

『店の前に着きました。服装は黒いパーカーです。』

『了解です。個室の2番の席にいます。』

店員さんに連れがいると告げ、指定された個室へと向かう。2番‥2番は‥

ここか。仕切られたエリアには、カラフルなソファと机があって、そこにぽつりと座る人物に俺は目を見開く。

「aさん‥?」

「っ!ツナ缶さんっすか?」


眩しいほどの金の髪に、ピアスの山。背が高くすらっとした手足は長い。切れ長の目は驚いたように開いていて、すぐにニコっと微笑んだ表情はどこか無邪気さを感じさせる。すごいイケメンさんだ。だけど近所で見たことのある特徴のある学ランに俺は眉を引き攣らせた。

この人どう見ても地元のヤンキー校の高校生じゃん‥。

アプリで設定していた21才には見えない。年齢詐称。それとも留年生?

やっぱり揶揄われてるとか‥


「えっと‥大学生‥?じゃないですよね」

「あぁッ!そういえば勢いで適当に登録したんだった‥伝え忘れててすみませんっ!俺、ツナ缶さんと同じ年です‥嫌、でした?」

反省したように大きな体を縮め目をうるうるさせてそう言うaさん。なんだか体は大型犬なのに、子犬みたいだ。俺は拍子抜けしてしまう。

「いえ‥少し驚いただけですよ。」

「っ!よ、よかったぁ!あ!座ってください!何頼みますか!」

パッと花が咲くように笑うその人に、緊張していた気持ちが溶けていく。

不思議な人だ。

アプリの文言からじゃ想像つかない。最初はヤンキーな見た目に失礼ながら少し驚いたけど、なんだか愛嬌があるというか、穏やかそうな人でよかった。


「ふふ、はい。ありがとうございます。そうだな、俺レモンティーにします。」

俺はゆっくりとソファに座る。刹那ぐらりと視界が揺れたが、机を握って耐える。

「了解です!てか、同じ年なんだから、敬語は無しで‥いいっすか!」

「うん、大丈夫だよ。」

キラキラした双眼がぐっと迫ってきて、その距離感に苦笑いをする。なんだか大型犬に懐かれた気分だ。

俺が頷くと、満足そうにニコニコと笑うaさん。もう少し落ち込んでるんじゃないかと思ったけれど、空元気とかでもなさそうだし、完全にふっきれてるって顔をしている。

きっとこの人は前に進めたんだろう。よかった‥


俺達はたわいのない話をして盛り上がる。
自分の事。学校の話。

名前は、熱樹あつき。やはり近所のヤンキー高に通っているらしい。

身なりがかっこいいと思って染めた金髪と高校デビューに開けたピアス。おしゃれのはずが絡まれて迷惑だとか。

毎日学内で喧嘩が勃発しているらしく、今時番長制度があるなんて時代遅れだと不貞腐れる熱樹くんの話は漫画みたいで面白くて、俺は口元が緩む。

「あ、あの‥急に会いませんかなんて‥びっくりしたよな?」

「少しね‥でも、俺もどんな人か気になってたから嬉しかったよ」

「そう‥?ならよかった‥、俺‥風太くんにどうしても感謝を伝えたくて」

「え、なんで?」

頼んでいたレモンティーがきて、ストローに口をつける。氷が入ったコップが冷たくて、熱った頬にコップを握って冷えた手を当てた。

「あの時、風太くんがメッセージくれた時、俺、本当にやばかったから‥、情けないけど、立ち直れなくて消えたくなって、そんなどうしようもない時に風太くんの言葉で救われた。


だから、ありがとう。ずっと言いたかった。」

「っ、別に俺は大した事は‥」

急に真剣な顔をするものだから、俺は困惑する。熱樹くんの投稿にメッセージをしたのだって、自分のためで‥そんな感謝されるような事では‥

「俺にとってはッ、風太くんの一言がすげえ心に刺さった‥無駄じゃなかったって思ったんだ。」

ぎゅっと手を握られて、俺は目を見開く。緊張しているのだろうか、少し湿っていて冷たい手だ。まるで‥

「、‥そっか、なら俺も勇気を出してよかった!」

俺は無意識に微笑む。彼の手に包まれていると、なんだか馴染みがあるというかホッとする‥。あぁ、ほんとに似てる‥。

「っ!‥風太くんって‥笑顔すげえ可愛い‥」

「へ?」

「ッ、今のはち、違くて‥!出会い?のアプリだし、そういう運命的なことがあるのかなとか、自分ちょっと思ってただけで変な意味は‥いや、こういうの思う事自体が変なのかッ?ご、ごめん‥ほんとにただ、純粋に風太くんの笑顔がいいなって思ってッ‥」

「っ、あ、ありがとう‥?」

目を泳がせる熱樹くん。タコみたいに耳まで真っ赤になってる。

「ゔう‥風太くん、冷静‥やっぱり俺だけだよな‥」

「‥?」

慌てふためく熱樹くんに首を傾げる。そんな俺を見て、ガクリと項垂れるものだから、少し心配になる。

さっきから体が熱い。それなのに寒気がして気分が少し悪くなってきた。早めに退散したほうがいいだろうか?でもせっかく、仲良くなれそうな人だし‥なんだか落ち込んでいるし‥もう少しだけ‥

「結構‥ずっとどんな人だろうとか、返信返ってくるかなとか考えて‥実際会ったら、想像してたより、か、可愛いし‥その‥俺」

この人、夏樹と同じような目をするな。なんてぼんやりと考える。
あれ、なんか頭がボーとしてきた。

「俺ちょっと、いや結構風太くんのことが気になってッ、‥っ、風太くん‥?さっきからぼーっとしてるというか‥しんどそう‥顔が赤けえし‥もしかして体調悪い?」

大きな手がぐんと俺の額を触ろうと伸びてくる。あぁ、ダメだ。なんだか眠くて仕方がない。

「熱っ、‥すごい熱じゃんっ。ごめん、すぐ気づけなくて‥俺ばっか喋って無理させちゃったよな?」

大きな手はに似ている。その体温は彼のように冷たいから。
俺は身をまかせて目を瞑る。

「っ、俺ん家、近いけど寄ってく?」

額から頬に流れる手に擦り寄る。あぁ、冷たくて気持ちがいい‥

「っ、風太くんッ」

「触んな」

夢現の中、誰かの声が聞こえてきて、俺は薄っすらと目を開けた。冷たい体温が俺の背後でぴったりとくっついている。

がっしりと腰を抱かれて、俺は安心するその体温にそのまま身体を預けた。

「は?あんた誰?って、風太くん!?おい!?大丈夫か!?」

「っ、早川」

聞き覚えのある声。まさかな。
あぁ、ダメだ。目がまわる。
夏樹に連絡しないと‥一緒に帰るって、約束、したのに‥。
見知らぬ誰かに抱き止められたまま、その場で俺は意識を手放した。






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