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第1章 ギルド受付嬢の日常
第24話 絵を描きに行く
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今日の仕事はお休み。受付嬢は交代で休みを取ることになっている。ギルドは年中無休だから、決まった休みがあるわけではない。
今日はアレイスさんの家に行く約束をしている日だ。お昼を食べたら家を出る支度をする。ちなみに母にはアレイスさんの家に行くことは話していない。私はもう大人だし、昼にどこへ行こうと話す必要はないと思う。それに、なんとなくアレイスさんとのことは母に話しにくかった。母はアレイスさんを多分良く思っていないし、彼との仲をあれこれ詮索されるのも面倒だ。
それでもなんとなく、洋服選びには時間をかけてしまった。大した服は持っていないし、汚れてもいい服にした方がいいのも分かってるけど、少しは見栄えのいい服にしたい。こんなことになるなら、新しい洋服を買っておくんだったと思う。
あれこれ服を引っ張り出したけど、どれもしっくりこない。結局いつもギルドに着ていく服と変わらない姿に落ち着いた。デートじゃあるまいし、あまり気合を入れすぎるのも恥ずかしい。髪型もいつもと同じ、後ろの高い位置で一つ結びにする。リボンはスカートの色と合わせた。これが私の精一杯のお洒落。
♢♢♢
アレイスさんの家に着くと、アレイスさんは何故か屋根の上に座っていた。長杖を携え空に向けている。何をしているのだろうと見ていると、長杖から雷のようなものが空に向けて放たれた。青い空にほとばしる雷を見るのは不思議な気分だ。
「エルナ! いらっしゃい。今そっちに行くから待ってて」
私に気づいたアレイスさんは笑顔で立ち上がると、そのまま屋根から飛び降りた。びっくりしたけど、アレイスさんは地面すれすれのところで風を巻き起こし、ふわりと着地した。魔術ってこういう使い方もあるんだ、便利だなあ。
「こんにちはアレイスさん。屋根の上で何をしてたんですか?」
「ちょっと魔術の訓練をね。時間通りだね、エルナ。さあ、中へ……」
そう言って彼が私に手を伸ばした時、バチっと音がして私とアレイスさんの間に光が走った。
「いたっ!」
「ごめん、エルナ! 僕の体に魔術が少し残ってたみたいだ。怪我はない?」
「大丈夫です、ちょっとピリッとしただけで……」
アレイスさんは慌てて手を引っ込め、私が怪我をしてないか凄く心配している。私は一応手のひらを見てみるけど、もう痛くないし別に怪我もしていない。
「本当にごめん。もう魔術は抜けたと思うんだけど」
「平気ですよ。やっぱりアレイスさんって魔術師なんですね」
恐縮しているアレイスさんに笑って見せると、ようやく安心したみたいで彼も笑顔を見せた。
今日のアレイスさんはシャツとズボンだけのラフな服装をしていて、長い髪を後ろで一つにまとめていた。普段着の彼はいつもの完璧な姿と違い、なんだか親しみやすい。
家に入ると、前回の部屋ではなく二階に案内された。石の床は歩くとコツコツと音が響く。ギイっと軋む音を立てて開けた木のドアの向こうは、窓が沢山あって明るく広い部屋だった。部屋の隅には家具らしきものがまとめられていて、白い布で隠されていた。多分これもアレイスさんが言っていた「前の住人のもの」なんだろう。
中央にどんと置かれたテーブル。その上には絵を描く為の道具が一通り揃っていた。私は水彩画しか描けないので、画材はちゃんと水彩画用のものだ。テーブルと向かい合うよう、椅子が一脚ぽつんと置かれている。私はアレイスさんがかなり本格的な用意をしてくれたことに驚いた。それと同時に怖さも沸き起こってくる。私はあくまで素人で、絵を描いていたのも幼い頃の話だ。これではまるで本物の画家のようで、私は彼の期待に応える絵を描けるだろうかと不安になってきた。
「アレイスさん、ちょっとこれは豪華すぎませんか?」
「そう? 一通り絵を描く道具を揃えて欲しいとメイドに頼んだら、こうなったんだ」
「有難いんですけど、この素晴らしい道具を私に使いこなせるかどうか……」
困惑しながら私はテーブルに近づき、様々な絵の具や新品の絵筆に触れてみる。脳裏に浮かんだのは父からのプレゼントだ。父が買ってくれた絵の具と絵筆は、これよりも少なかったけど私にとっては宝箱をもらったようなものだった。
父のことを思い出しながらしんみりしていると、アレイスさんは目の前の椅子に腰を下ろした。
「それじゃ、早速始めようか」
私は彼の向かいに座り、鉛筆を手に彼の顔を見る。窓から入る光がアレイスさんの顔の陰影を引き立たせ、私は本当に彼の顔が美しいと思った。長い睫毛と、光が入って薄く見える青色の瞳。すっきりとした形のいい鼻と薄くてちょっと赤みのある唇。どこから見ても完璧だ。
「アレイスさんのお祖父さんとお祖母さんは、お元気ですか?」
黙っていると息が詰まってくるので、私は彼に世間話を振ってみた。
「元気だよ。時々手紙でやり取りしているんだ。二人は母方の両親で、二人仲良く静かに暮らしているんだ。だけど……祖父は最近、いろんなことを忘れていっているみたいでね」
私は思わず手を止めた。人は年を取ると色んなことを忘れてしまう。中には家族のことすら忘れてしまう人もいる。私の祖母はまだまだ元気で、日々畑仕事に精を出しているけど、祖母もいつまでも元気なわけじゃない。
「……アレイスさんが絵を贈ろうと思ったわけは、そういうことだったんですね」
「そうだね。祖父は僕のことを思い出せなくなっているみたいだ。だから僕の絵を見れば、何か思い出すんじゃないかと思った。エルナ、僕はね。魔術で祖父の記憶を取り戻せないかと思って色々調べているんだ。でもなかなか難しいね」
私はこの家を初めて訪ねた時のことを思い出していた。アレイスさんの鬼気迫る表情は、祖父の記憶を取り戻す為の方法を調べていたのかもしれない。
「魔術師は、自然の力を借りるものだ。祖父の記憶が薄れるのも、時の流れが定めた自然。自然を否定することは、魔術の否定に繋がるということなのかな」
そう話すアレイスさんの表情は少し寂しそうで、私は胸が詰まった。せめてこの顔は描かないようにしようと、私は彼から目を逸らすのだった。
今日はアレイスさんの家に行く約束をしている日だ。お昼を食べたら家を出る支度をする。ちなみに母にはアレイスさんの家に行くことは話していない。私はもう大人だし、昼にどこへ行こうと話す必要はないと思う。それに、なんとなくアレイスさんとのことは母に話しにくかった。母はアレイスさんを多分良く思っていないし、彼との仲をあれこれ詮索されるのも面倒だ。
それでもなんとなく、洋服選びには時間をかけてしまった。大した服は持っていないし、汚れてもいい服にした方がいいのも分かってるけど、少しは見栄えのいい服にしたい。こんなことになるなら、新しい洋服を買っておくんだったと思う。
あれこれ服を引っ張り出したけど、どれもしっくりこない。結局いつもギルドに着ていく服と変わらない姿に落ち着いた。デートじゃあるまいし、あまり気合を入れすぎるのも恥ずかしい。髪型もいつもと同じ、後ろの高い位置で一つ結びにする。リボンはスカートの色と合わせた。これが私の精一杯のお洒落。
♢♢♢
アレイスさんの家に着くと、アレイスさんは何故か屋根の上に座っていた。長杖を携え空に向けている。何をしているのだろうと見ていると、長杖から雷のようなものが空に向けて放たれた。青い空にほとばしる雷を見るのは不思議な気分だ。
「エルナ! いらっしゃい。今そっちに行くから待ってて」
私に気づいたアレイスさんは笑顔で立ち上がると、そのまま屋根から飛び降りた。びっくりしたけど、アレイスさんは地面すれすれのところで風を巻き起こし、ふわりと着地した。魔術ってこういう使い方もあるんだ、便利だなあ。
「こんにちはアレイスさん。屋根の上で何をしてたんですか?」
「ちょっと魔術の訓練をね。時間通りだね、エルナ。さあ、中へ……」
そう言って彼が私に手を伸ばした時、バチっと音がして私とアレイスさんの間に光が走った。
「いたっ!」
「ごめん、エルナ! 僕の体に魔術が少し残ってたみたいだ。怪我はない?」
「大丈夫です、ちょっとピリッとしただけで……」
アレイスさんは慌てて手を引っ込め、私が怪我をしてないか凄く心配している。私は一応手のひらを見てみるけど、もう痛くないし別に怪我もしていない。
「本当にごめん。もう魔術は抜けたと思うんだけど」
「平気ですよ。やっぱりアレイスさんって魔術師なんですね」
恐縮しているアレイスさんに笑って見せると、ようやく安心したみたいで彼も笑顔を見せた。
今日のアレイスさんはシャツとズボンだけのラフな服装をしていて、長い髪を後ろで一つにまとめていた。普段着の彼はいつもの完璧な姿と違い、なんだか親しみやすい。
家に入ると、前回の部屋ではなく二階に案内された。石の床は歩くとコツコツと音が響く。ギイっと軋む音を立てて開けた木のドアの向こうは、窓が沢山あって明るく広い部屋だった。部屋の隅には家具らしきものがまとめられていて、白い布で隠されていた。多分これもアレイスさんが言っていた「前の住人のもの」なんだろう。
中央にどんと置かれたテーブル。その上には絵を描く為の道具が一通り揃っていた。私は水彩画しか描けないので、画材はちゃんと水彩画用のものだ。テーブルと向かい合うよう、椅子が一脚ぽつんと置かれている。私はアレイスさんがかなり本格的な用意をしてくれたことに驚いた。それと同時に怖さも沸き起こってくる。私はあくまで素人で、絵を描いていたのも幼い頃の話だ。これではまるで本物の画家のようで、私は彼の期待に応える絵を描けるだろうかと不安になってきた。
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「そう? 一通り絵を描く道具を揃えて欲しいとメイドに頼んだら、こうなったんだ」
「有難いんですけど、この素晴らしい道具を私に使いこなせるかどうか……」
困惑しながら私はテーブルに近づき、様々な絵の具や新品の絵筆に触れてみる。脳裏に浮かんだのは父からのプレゼントだ。父が買ってくれた絵の具と絵筆は、これよりも少なかったけど私にとっては宝箱をもらったようなものだった。
父のことを思い出しながらしんみりしていると、アレイスさんは目の前の椅子に腰を下ろした。
「それじゃ、早速始めようか」
私は彼の向かいに座り、鉛筆を手に彼の顔を見る。窓から入る光がアレイスさんの顔の陰影を引き立たせ、私は本当に彼の顔が美しいと思った。長い睫毛と、光が入って薄く見える青色の瞳。すっきりとした形のいい鼻と薄くてちょっと赤みのある唇。どこから見ても完璧だ。
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