グラサン幼女の異世界とらべるっ! ~最強の【魔眼】を宿す転生幼女は、もふかわ神獣を連れてスローライフな旅路を楽しみます~

空戯ケイ

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第1章 始まりの街『グリィト』

第8話  幼女なら警戒心を解ける……はず?

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 モッフィという巨大なフェンリルの背中に乗った、よわい六歳の幼女。

 数人の人間くらいぺろりと平らげてしまいそうな肉食獣らしい見た目のモッフィと、見るだけで人々を安心させる平和の象徴たる金髪幼女の笑顔。※ただしグラサン付き。

 ちぐはぐなコンビの登場に、冒険者はポカンと呆けた。
 ややあって、リーダー格っぽい剣士の若い男の人が躊躇いがちに前に出た。

「ひ、一つ聞きたい。さっきは俺たちを助けてくれた、のか……?」

 さっき、というのは、ブラックアントという蟻の魔物の群れに襲われていた件だろう。
 そのブラックアントたちは、モッフィの聖魔法によって瞬時に駆逐されてしまった。

 視線をずらせば、人よりも一回り大きいくらいのサイズの黒い巨大蟻の死骸がいくつか転がっている。

 わたしは努めて安心させるように答えた。

「はい! わたしの使い魔の、モッフィがやってくれました!」
「モ、モッフィ……?」
「我のことだ」
「「「!!」」」

 モッフィが口を開くと、冒険者たちは瞬時に後退した。

「ま、魔物が喋った!?」
「人間の言葉を話せるとなると……かなり高位の魔物か!?」
「そ、そんな化け物を、どうやってこんな幼女が使い魔に……!?」

 やばっ、さらに警戒心を植え付けちゃった!

 これはわたしがモッフィの背中に乗ったままじゃダメだな。いくら幼女わたしがあざとくてもモッフィが怖すぎて話を聞いて貰えない!
 モッフィに頼んで伏せてもらい、低くなった背中から降りる。

 そして、とてとてと冒険者たちの前に小走りで向かった。

「モッフィはお話できるけど、怖い魔物じゃないですよ! わたしのお友達だから!」
「そ、そうなのか……?」

 剣士は構えた剣をゆっくりと下ろした。

 わたしは無警戒を装って近付いていく。

「えっと、お兄さんたちは?」
「俺たちは冒険者だ。この荷馬車の商人の護衛をしていたんだが、もうすぐ街に帰れるってところで魔物に襲われちまってな。しかもあの厄介なブラックアントだ。何とか商人だけでも守らねぇと、と奮闘してたんだが……お嬢ちゃんのおかげで助かったよ」
「わたし、アイリです!」
「俺はベルドだ。ありがとな、アイリ」

 剣士の冒険者――ベルドさんはようやく少し笑顔を見せてくれた。

「さ、さっきは身構えてしまってごめんなさい。私は魔法使いの、ジェシーよ」
「俺はタンクのマーレスだ」

 女性の魔法使いの人が、ジェシーさん。
 大きな鎧を見にまとったタンクの男の人が、マーレスさん。

 皆、若いな。
 二十代前半くらいかな?

「それで、アイリはどうしてこんなところに?」

 ベルドさんの質問に、ありのまま答える。

「わたし、グリィトっていう街に行きたくて」
「グリィトか? 今から俺たちが帰還する街じゃないか」
「そうなんですか?」
「ああ。良かったら一緒に着いてくるか?」

 おおっ、それは願ってもない提案!
 異世界の人と会ったのはわたしも初めてだし、ベルドさんたちと色々お話してみたい!

 あとは、モッフィの許可次第かな?

「モッフィ」
「……我はどっちでも構わん」

 つまり、オッケーってことだよね!
 わたしは笑顔でベルドさんに向き直る。

「なら、ぜひ一緒にグリィトまで行きたいです!」
「そうか! アイリと、モッフィがいてくれたら安心だぜ!」
「気安く我の名を呼ぶでないわっ!!」
「うわぁ!」

 カッ、と眼光を鋭くさせて叫んだモッフィに、冒険者たちがビビってしまう。
 てか、ちょっと私もビビった。

「ま、まあまあ! ベルドさんも悪気があったわけじゃないんだし、名前を呼ぶくらい許してあげてよ。ね?」
「……むぅ」

 わたしが宥めると、モッフィはぷいっとそっぽを向いてしまった。

「アイリの頼みであるがゆえ、特別に我の名を呼ぶことを許そう」
「こ、これからはモッフィさんと呼ばせていただきます……!」
「い、いやいや! 普通に『モッフィ』で大丈夫ですよ!」

 萎縮しきった様子のベルドさんにフォローを入れる。
 せっかく良い感じで進んでたのに、なに怖がらせてんのモッフィ! フェンリルの矜持プライドってやつ!?
 あとでモッフィには人に向かって叫んじゃダメって教えてあげないと!

 モッフィにぷんぷんと怒っていると、ふとベルドさんの肩から流れる血に気付いた。

「あ、その傷……!」
「ん? ああ、さっきブラックアントに引っかかれたやつだ。なに、これくらいなら薬草でも塗ってりゃ治るから、気にすんな」
「そ、そう?」

 本人がそう言うなら、大丈夫なのかな?

 わたしが回復魔法とか使えたら良かったんだけど、残念ながらそういった魔法の使い方は分からない。
 追々、勉強しておくのも良いかも。

 ベルドさんはハッと顔を上げた。

「おっと、こうしちゃいられねぇ。魔物を撃退したことを中で隠れてる商人に教えねぇと!」

 ベルドさんが急いで荷馬車の中に乗り込んでいった。
 少し黄ばんだ幌《ほろ》に覆われた荷馬車の中はどうなっているのか外からじゃ確認できない。

 しばらく待っていると中からベルドさんに手を引かれて女性が出てきた。

「ほ、ほほ、本当にもう大丈夫なんですよねぇ……? うひゃあ! ま、魔物の死体がッ!」

 あの人が商人かな?
 ビクビクと震えていて、線が細い。
 年も冒険者の人たちよりも少し幼いような……だいたい十七、八歳くらい?

 ピンク色の髪をボニーテールで雑に括った、そばかすが特徴的な女性だった。

「あれ、あの女の子は……って、うひゃあ!! ば、化け物が後ろにぃぃいいい!?」

 女性は幼女わたしを見てやや落ち着きを取り戻したのも束の間、すぐにその背後にいる迫力満点のモッフィを見て恐怖に体が竦んでしまったようだった。

 や、やばい!
 泡吹いて倒れちゃいそうな勢いだ!?

 わたしは駆け出した。

「お、お姉さん! 大丈夫ですか!」
「はぅ! あ、怪しげな幼女がこちらに!?」

 商人の女性は走ってきたグラサン幼女に驚いた。
 ごめんよ。本当はキラキラお目目のオッドアイを見せてあげたいんだけどね。
 傍にいたベルドさんが、フォローしてくれる。

「安心してくれ。この子が俺たちを助けてくれたんだ。あっちの魔物は……まあ、変に絡まなきゃ大丈夫だ。多分」
「多分!? た、多分ってなんなんですかぁ!?」

 モッフィを怖がっているみたいなので、わたしが弁明した。

「安心してください! モッフィは優しくて良い子なので!」
「モッフィ……って、あの魔物のこと?」
「はい! わたし、アイリって言います! お姉さんの名前は?」
「わ、私はネモよ」

 女商人さんは、ネモさんというのか。

「ネモさん、わたしたちもグリィトに向かう途中だったんですけど、一緒に行ってもいいですか?」
「え、えっと、アイリちゃんだっけ? わ、私は構わないけど……」

 ネモさんはチラリとモッフィを見る。
 唇を結んでごくりと生唾を飲んでいた。

 やっぱり、一般人はモッフィが怖いのかな?
 ていうか、この調子だと街についてもモッフィは入れないみたいなことにならないよね!?
 門前払いなんて食らったらたまったものじゃないんだけど!

 わたしがおろおろとしていると、モッフィが、はあ、とため息を吐いた。

「我の姿が恐ろしいのであれば、これならどうじゃ」

 言うと、モッフィがボフンと白い煙に包まれた。

 もくもくと広がる煙が少しずつ晴れていくと、そこにはちっちゃくなったフェンリルがいた!
 チワワくらいの大きさだ!

 わたしは思わずモッフィに駆け寄った。

「わあぁー! 可愛い! なにこれ、モッフィなの!?」
「そうじゃ。体の大きさを変えることくらい、造作もないわ!」

 モッフィは得意気に胸を張った。
 ミニサイズになったモッフィがそういう態度を取ると、めちゃ可愛い。

 なのでわたしはモッフィを抱っこし、もふもふよしよしした。

「ふわぁ~、もっふもふで幸せ~!」
「こ、これ! あまり不用意に我を抱き上げるでない!」

 モッフィは抗議の声をあげるけど、激しく抵抗はせずわたしのもふりを受け入れている。
 ちょっと照れてるような感じだった。

 そんなわたしたちの姿を見て、ネモさんが両手で 口を隠して驚愕した。

「な、なんなのあの可愛いを凝縮したような空間は……! ああ、あれがこの世の楽園だったのね……!!」
「た、たしかに小さくなると、あのモッフィも結構可愛い、かもな」

 ベルドさんも少し頬を赤く染めながら言う。
 周りにいた冒険者仲間のジェシーさんとマーレスさんも、ほっこりと頷いていた。
 
 ひとしきりモッフィをもふったところで、わたしは我に返る。

「ネモさん! この姿のモッフィなら、怖くないですよね!」
「え、ええ! それなら、大丈夫、かも」

 ネモさんは少し鼻血を垂らしながら答えた。
 幼女ともふもふフェンリルのたわむれは、予想以上に火力が高かったらしい。

「馬も問題なさそうだ。あとはブラックアントの素材を回収したら、すぐにグリィトに向かおう。魔物は手早く解体しちまうから、ちょっと待っててくれ。おいお前ら、さっさとやっちまうぞ!」
「そ、そうね!」
「ああ、任せろ!」

 ベルドさんの呼び声に応えて、ジェシーさんとマーレスさんがブラックアントの死体にそれぞれ向かう。
 手にはナイフを携え、器用にブラックアントの体をバラバラに分解して解体していった。

「わあ、すごいねモッフィ。どんどん蟻が解体されていくよ」
「う、うむ、そうじゃな……」

 手際よく魔物を解体していく冒険者たちの姿を見ながら、わたしはモッフィを抱っこして密かにもふもふを楽しむのだった。

 
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