14 / 44
第1章 始まりの街『グリィト』
第13話 異世界のパンはめちゃ美味い!
しおりを挟む
無事に冒険者として身分証を手に入れたわたしは、意気揚々とグリィトの街に飛び出していた。
石畳で整えられた街の通りを、はしゃぎながら駆け抜ける。
「わあ、すごいすごーい! まさにわたしがイメージしてた異世界の街並みだー!!」
シュバババと手当たり次第に店や風景を高速で見て回る。
街行く人たちに見られている気がするけど、今は羞恥よりも好奇心が圧勝していた。
え、冒険者になったならまずはクエストだろって?
いやいや、冒険者になったのはギルドカードが欲しかっただけですよ?
わたしの目的は異世界の旅! それから巻物集め!
色んな異世界の街を巡って冒険したいとは思うけど、まずは最初の街であるこのグリィトをじっくり堪能しないとね!
「ほう、人間の街も様変わりしたものじゃのう」
わたしの後ろを着いてくるモッフィが感慨深そうに呟く。
ミニサイズのモッフィがとてとてと道を歩く姿は見てるだけで癒される。
神獣だということを忘れてしまいそうだ。
「千年前はもっと違う景色だったの?」
「うむ。基礎的な造り自体はそう変わっておらぬかもしれんが、我が眠りにつく前のこの辺りの人里はもっと貧相で脆弱な建物ばかりじゃったぞ」
まあ、千年も経ったら技術もだいぶ進化するもんね。
日本の木造家屋を見ればよく分かる。
「……ん? この匂いは……」
とってもいい匂いが鼻をかすめた。
くんくんと匂いの元を辿ると、とあるお店を発見する。
「あ、あそこに美味しそうなパン屋さんがある!」
わたしは一軒のパン屋さんを指差した。
通りの端に屋台を組み上げ、店先にはたくさんのパンが並べて売ってある。
わたしはそこに直行した。
「あら、こんにちは。可愛いお嬢ちゃん」
店主のおばさんが優しい笑顔で迎えてくれた。
「わあ、どれもこれも美味しそ~!」
芳醇な小麦の香りを間近で楽しみながら、わたしは目の前のパンたちに興奮した。
バスケットの中に詰められたバゲット、甘い香りが漂うクロワッサン、そして豪快にソーセージを挟んだホットドッグまで!
小さいお店ながらもレパートリーにあふれるパンの数々に、わたしは夢中で眺めてしまう。
「ふふふ、ウチのパンはどれも絶品だよ?」
おばさんが微笑んで言ってくれる。
わたしはマジックバッグに手を突っ込み、お金を確認した。
「えっと、たしか山小屋に蓄えられていたお金も拝借してきてたはず」
ガサゴソと肩から提げたバッグの中を漁ると、ジャラッとした感触を覚える。
わたしの手には、金貨、銀貨、銅貨がバラバラに集まっていた。
この世界では、金貨一枚で約一万円の価値。
銀貨は千円。
銅貨は百円。
セリエーヌちゃんの知識を拝借した限りだと、大体これくらいが相場だ。
それを踏まえた上でわたしの手のひらに乗るお金を見てみると、金貨や銀貨がじゃらじゃらと光っていた。
日本円にして、ざっと二十万円くらいはありそうだ。
わたしの初任給といい勝負。
「山小屋暮らしだったのに、意外とセリエーヌちゃんはお金持ってたんだな。当たり前のようにパクってきて申し訳ないけど、このお金はありがたく使わせてもらうよ」
怒らないでね、セリエーヌちゃん。
『ランダム転生魔法』で勝手にわたしの肉体を奪った慰謝料とでも思っておくれ。
と、いうわけで。
「このクロワッサンと、ホットドッグ、二つずつください!」
「ありがとう。合計で銅貨八枚ね」
「はい! えーと……じゃあ、銀貨一枚で!」
おばさんはお釣りで銅貨二枚を返してくれた。
それから注文したパンを紙袋に入れて、わたしに手渡してくれる。
幼女の小さな体だと、思ったより大きさがあった。
「ありがとうございます!」
「また来てね、お嬢ちゃん」
おばさんのパン屋さんを後にし、大きな紙袋を抱えてわたしは街を歩いた。
パンの良い匂いが間近で感じられ、とっても幸せ~。
足元で隣を歩くモッフィは、好奇心を含んだ声色で尋ねてくる。
「ア、アイリよ。そのパンはなんなのじゃ?」
「美味しそうだったから買ってみたの! 異世界の街で、ベンチに座ってパン食べるの憧れてたんだよね~!」
「千年前のパンといえば固い黒パンばかりで味気なかったものじゃが、そのパンはなんというかその~……か、かなり良い匂いがするのぅ!」
チラチラとわたしが抱える紙袋を見るモッフィに、笑顔で答える。
「モッフィと一緒に食べようと思って、二つずつ買ったんだよ。あ、あそこにちょうどいい噴水広場がある! あそこで食べようよ!」
「っ! そ、そうか! ま、まあアイリがどうしても我と食べたいというのであれば、神獣としてその願いを聞き届けてやらねばなるまいの!」
モッフィはぶんぶんと白銀の尻尾を振っていた。
素直じゃないモッフィに苦笑しつつ、噴水広場に向かうため走り出した。
――と同時、ドンッ! と誰かとぶつかってしまった。
「きゃあ!?」
「アイリ!」
パンの袋を抱えたまま尻餅をついて転ぶわたしに、モッフィが駆け寄ってきてくれる。
目の前には、大きな男の人の足があった。
顔を上げると、人相の悪いおじさんがわたしを見下ろしていた。
「あぅ……ご、ごめんなさい」
「チッ、ガキが。ちゃんと前見て歩け――」
おじさんがわたしに苛立たしげな表情を向ける。
と、わたしの顔をはっきりと見たおじさんが顔つきを変え、目を見開く。
「おいお主! かような幼子とぶつかってその態度はなんじゃ!」
「お、お前……まさか……ッ!?」
おじさんが何か言いかけ、わたしに手を伸ばそうとした、その時。
「どうしたんだアレ」
「誰か揉め事?」
「なんだ、子供が倒れてるぞ」
「助けに行った方がいいか?」
わたしたちを見て、周囲の人たちがヒソヒソ話し始める。
はたから見れば、道端に倒れる幼女と、その幼女に手を伸ばそうとしている人相の悪い中年おじさん。
とても犯罪臭がする絵面だ。
「っ、」
おじさんはハッとわたしに伸ばしていた手を止める。
周りに目を向け、不審者を見るような注目を集めていることを察したおじさんは、舌打ちを鳴らした。
「……クソッ。次は気をつけやがれ!」
そんな捨てセリフを吐いて、おじさんは逃げるように足早に去っていった。
わたしは立ち上がって、パンパンと汚れを払うように自分の服をはたいた。
「大丈夫か、アイリ」
「うん、平気! しっかりと前を見て歩いてなかったわたしが悪いし……ちょっと異世界の楽しさにはしゃぎ過ぎちゃったかな」
良くも悪くも、ここは異世界なのだ。
ザレックさんやベルドさんみたいに優しい人もいれば、当然ながらそうじゃない人だっている。
どこの世界でも同じことだ。
「ま、でも美味しいパンの魅力には抗えないけどね~! 気を取り直して、行こっ! モッフィ!」
「やれやれ……お主は色んな意味で逞しいのぅ」
呆れるように首を振るモッフィを連れて、目的地である噴水広場に向かう。
噴水広場にはポツポツと人が集まっていて、一人でまったり休憩している人や、カップルでのんびり駄弁ってる人たちがいた。
ほのぼの空間だ。
「とうちゃ~く! ここら辺に座ろっか!」
「うむ」
わたしも石造りの噴水の縁に腰を下ろした。
モッフィがその隣に飛び乗って横に並んだ。
背後からは、びしゃしゃ~と水が上っては流れていく噴水の音が聞こえる。
これ、魔法かな?
ほどよく涼しい風も吹いていて過ごしやすい。
「ふんふふ~ん! はてさて、異世界の美味しいパンをご開帳~!」
紙袋の口を閉じるテープを剥がし、いざオープン!
中にはクロワッサンとホットドッグが二つずつ詰められていた。
紙袋を開けたことで、さっきよりもダイレクトにパンの良い香りがふわっと漂ってくる。
ふわぁ~、香ばしくていい匂い!!
わたしは丸いクロワッサンを二つ手に取った。
「はい、一つはモッフィの分ね! どうぞ!」
「う、うむ。すまぬの」
クロワッサンを渡すと、モッフィはちっちゃなもふもふのお手手で受け取った。
パンはペーパーナプキンでくるまれていて、手を汚す心配もない。
「じゃ、食べよっか! 何気に朝からなにも食べてなかったから、お腹すいた~」
わたしは丸いクロワッサンの一部をペーパーナプキンから出す。
表面はパリッとしたパン生地だけど、感触は柔らかい。薄く塗られた砂糖がテラテラと光沢を放っている。
わたしはパクリとクロワッサンを口にした。
「っんん! 甘くて美味ひぃ~~!!」
外側はパリパリに焼き上げられているけど、噛むと中はふわふわ!
ふんわり弾力がある白いパン生地がお目見えした。
パンの表面にまぶされたシュガーと小麦の芳醇な風味が合わさり、シンプルながらとっても美味しく仕上がっている!
「な、なんじゃこれは!? う、美味すぎるではないか!?」
モッフィもバクバクとパンを貪っていた。
美味しそうに食べていて微笑ましい。
わたしはペロッとクロワッサンを完食してしまった。
空腹に美味しいパンは相性が良すぎる!
「だけどまだもう一個あるもんね~」
紙袋に手を突っ込み、新たに二つのホットドッグを手に取った。
ペロリとクロワッサンを平らげたモッフィにも、追加のホットドッグをあげる。
「はい、これが最後のホットドッグね。絶対美味しいよ~」
「こ、これはなんと刺激的な香りじゃ!」
ホットドッグのソーセージ部分にはケチャップとマスタードがかけられていて、スパイシーな粗挽き胡椒も振りかけられている。
そしてソーセージからはみだした新鮮なレタスのおかげで彩りも鮮やか。
わたしは幼女の小さな口をめいっぱい開けて、ホットドッグに食らいついた。
――がぶっ。
「うんんっま! ソーセージぷりっぷりでジューシーすぎりゅ!」
濃厚なソーセージの風味が広がり、ぶりんっと反り返るソーセージの旨味が舌の上で弾ける!
さらにレタスのシャキシャキ食感も最高だ。
ソーセージのガツンと来るスパイシーさと新鮮な野菜のフレッシュさが相まって素晴らしい美味しさに進化している!
「こ、これは、はぐっ、凄まじいのぅ、むぐっ! 美味すぎて、ばくばくっ、止まらんわ、もぐもぐ!」
モッフィもホットドッグに噛みついていた。
一心不乱に食べまくるわたしたちは、お世辞にもお上品とはいえないだろう。
わたしはふとモッフィの顔を見て笑った。
「モッフィ、口の回りが汚れてるよ」
「むっ。それを言うなら、アイリの鼻にもケチャップがついておるではないか」
「へ?」
自分の鼻を指で触ってみると、指先に赤いケチャップがついた。
ホットドッグに噛みついた時に、ソーセージにかかっていたケチャップが鼻の頭についたみたい。
「ほんとだ。赤鼻のトナカイみたいになってる。ぷっ、あははは!」
「くくく、汚れてるのはお互い様のようじゃの!」
わたしとモッフィは一緒に笑った。
美味しいパンに、のどかな街並み、そして隣で笑いあってくれるパートナー。
どれも日本にいた頃の自分では味わえなかった幸せだ。
あー、楽しいっ!!
わたしはその幸せを噛み締めるように、ホットドッグを味わいながらモッフィと戯れる。
その後、あっという間にパンを完食したわたしたちが追加のパンを買いに向かったのは別の話だ。
パンうまうま~。
石畳で整えられた街の通りを、はしゃぎながら駆け抜ける。
「わあ、すごいすごーい! まさにわたしがイメージしてた異世界の街並みだー!!」
シュバババと手当たり次第に店や風景を高速で見て回る。
街行く人たちに見られている気がするけど、今は羞恥よりも好奇心が圧勝していた。
え、冒険者になったならまずはクエストだろって?
いやいや、冒険者になったのはギルドカードが欲しかっただけですよ?
わたしの目的は異世界の旅! それから巻物集め!
色んな異世界の街を巡って冒険したいとは思うけど、まずは最初の街であるこのグリィトをじっくり堪能しないとね!
「ほう、人間の街も様変わりしたものじゃのう」
わたしの後ろを着いてくるモッフィが感慨深そうに呟く。
ミニサイズのモッフィがとてとてと道を歩く姿は見てるだけで癒される。
神獣だということを忘れてしまいそうだ。
「千年前はもっと違う景色だったの?」
「うむ。基礎的な造り自体はそう変わっておらぬかもしれんが、我が眠りにつく前のこの辺りの人里はもっと貧相で脆弱な建物ばかりじゃったぞ」
まあ、千年も経ったら技術もだいぶ進化するもんね。
日本の木造家屋を見ればよく分かる。
「……ん? この匂いは……」
とってもいい匂いが鼻をかすめた。
くんくんと匂いの元を辿ると、とあるお店を発見する。
「あ、あそこに美味しそうなパン屋さんがある!」
わたしは一軒のパン屋さんを指差した。
通りの端に屋台を組み上げ、店先にはたくさんのパンが並べて売ってある。
わたしはそこに直行した。
「あら、こんにちは。可愛いお嬢ちゃん」
店主のおばさんが優しい笑顔で迎えてくれた。
「わあ、どれもこれも美味しそ~!」
芳醇な小麦の香りを間近で楽しみながら、わたしは目の前のパンたちに興奮した。
バスケットの中に詰められたバゲット、甘い香りが漂うクロワッサン、そして豪快にソーセージを挟んだホットドッグまで!
小さいお店ながらもレパートリーにあふれるパンの数々に、わたしは夢中で眺めてしまう。
「ふふふ、ウチのパンはどれも絶品だよ?」
おばさんが微笑んで言ってくれる。
わたしはマジックバッグに手を突っ込み、お金を確認した。
「えっと、たしか山小屋に蓄えられていたお金も拝借してきてたはず」
ガサゴソと肩から提げたバッグの中を漁ると、ジャラッとした感触を覚える。
わたしの手には、金貨、銀貨、銅貨がバラバラに集まっていた。
この世界では、金貨一枚で約一万円の価値。
銀貨は千円。
銅貨は百円。
セリエーヌちゃんの知識を拝借した限りだと、大体これくらいが相場だ。
それを踏まえた上でわたしの手のひらに乗るお金を見てみると、金貨や銀貨がじゃらじゃらと光っていた。
日本円にして、ざっと二十万円くらいはありそうだ。
わたしの初任給といい勝負。
「山小屋暮らしだったのに、意外とセリエーヌちゃんはお金持ってたんだな。当たり前のようにパクってきて申し訳ないけど、このお金はありがたく使わせてもらうよ」
怒らないでね、セリエーヌちゃん。
『ランダム転生魔法』で勝手にわたしの肉体を奪った慰謝料とでも思っておくれ。
と、いうわけで。
「このクロワッサンと、ホットドッグ、二つずつください!」
「ありがとう。合計で銅貨八枚ね」
「はい! えーと……じゃあ、銀貨一枚で!」
おばさんはお釣りで銅貨二枚を返してくれた。
それから注文したパンを紙袋に入れて、わたしに手渡してくれる。
幼女の小さな体だと、思ったより大きさがあった。
「ありがとうございます!」
「また来てね、お嬢ちゃん」
おばさんのパン屋さんを後にし、大きな紙袋を抱えてわたしは街を歩いた。
パンの良い匂いが間近で感じられ、とっても幸せ~。
足元で隣を歩くモッフィは、好奇心を含んだ声色で尋ねてくる。
「ア、アイリよ。そのパンはなんなのじゃ?」
「美味しそうだったから買ってみたの! 異世界の街で、ベンチに座ってパン食べるの憧れてたんだよね~!」
「千年前のパンといえば固い黒パンばかりで味気なかったものじゃが、そのパンはなんというかその~……か、かなり良い匂いがするのぅ!」
チラチラとわたしが抱える紙袋を見るモッフィに、笑顔で答える。
「モッフィと一緒に食べようと思って、二つずつ買ったんだよ。あ、あそこにちょうどいい噴水広場がある! あそこで食べようよ!」
「っ! そ、そうか! ま、まあアイリがどうしても我と食べたいというのであれば、神獣としてその願いを聞き届けてやらねばなるまいの!」
モッフィはぶんぶんと白銀の尻尾を振っていた。
素直じゃないモッフィに苦笑しつつ、噴水広場に向かうため走り出した。
――と同時、ドンッ! と誰かとぶつかってしまった。
「きゃあ!?」
「アイリ!」
パンの袋を抱えたまま尻餅をついて転ぶわたしに、モッフィが駆け寄ってきてくれる。
目の前には、大きな男の人の足があった。
顔を上げると、人相の悪いおじさんがわたしを見下ろしていた。
「あぅ……ご、ごめんなさい」
「チッ、ガキが。ちゃんと前見て歩け――」
おじさんがわたしに苛立たしげな表情を向ける。
と、わたしの顔をはっきりと見たおじさんが顔つきを変え、目を見開く。
「おいお主! かような幼子とぶつかってその態度はなんじゃ!」
「お、お前……まさか……ッ!?」
おじさんが何か言いかけ、わたしに手を伸ばそうとした、その時。
「どうしたんだアレ」
「誰か揉め事?」
「なんだ、子供が倒れてるぞ」
「助けに行った方がいいか?」
わたしたちを見て、周囲の人たちがヒソヒソ話し始める。
はたから見れば、道端に倒れる幼女と、その幼女に手を伸ばそうとしている人相の悪い中年おじさん。
とても犯罪臭がする絵面だ。
「っ、」
おじさんはハッとわたしに伸ばしていた手を止める。
周りに目を向け、不審者を見るような注目を集めていることを察したおじさんは、舌打ちを鳴らした。
「……クソッ。次は気をつけやがれ!」
そんな捨てセリフを吐いて、おじさんは逃げるように足早に去っていった。
わたしは立ち上がって、パンパンと汚れを払うように自分の服をはたいた。
「大丈夫か、アイリ」
「うん、平気! しっかりと前を見て歩いてなかったわたしが悪いし……ちょっと異世界の楽しさにはしゃぎ過ぎちゃったかな」
良くも悪くも、ここは異世界なのだ。
ザレックさんやベルドさんみたいに優しい人もいれば、当然ながらそうじゃない人だっている。
どこの世界でも同じことだ。
「ま、でも美味しいパンの魅力には抗えないけどね~! 気を取り直して、行こっ! モッフィ!」
「やれやれ……お主は色んな意味で逞しいのぅ」
呆れるように首を振るモッフィを連れて、目的地である噴水広場に向かう。
噴水広場にはポツポツと人が集まっていて、一人でまったり休憩している人や、カップルでのんびり駄弁ってる人たちがいた。
ほのぼの空間だ。
「とうちゃ~く! ここら辺に座ろっか!」
「うむ」
わたしも石造りの噴水の縁に腰を下ろした。
モッフィがその隣に飛び乗って横に並んだ。
背後からは、びしゃしゃ~と水が上っては流れていく噴水の音が聞こえる。
これ、魔法かな?
ほどよく涼しい風も吹いていて過ごしやすい。
「ふんふふ~ん! はてさて、異世界の美味しいパンをご開帳~!」
紙袋の口を閉じるテープを剥がし、いざオープン!
中にはクロワッサンとホットドッグが二つずつ詰められていた。
紙袋を開けたことで、さっきよりもダイレクトにパンの良い香りがふわっと漂ってくる。
ふわぁ~、香ばしくていい匂い!!
わたしは丸いクロワッサンを二つ手に取った。
「はい、一つはモッフィの分ね! どうぞ!」
「う、うむ。すまぬの」
クロワッサンを渡すと、モッフィはちっちゃなもふもふのお手手で受け取った。
パンはペーパーナプキンでくるまれていて、手を汚す心配もない。
「じゃ、食べよっか! 何気に朝からなにも食べてなかったから、お腹すいた~」
わたしは丸いクロワッサンの一部をペーパーナプキンから出す。
表面はパリッとしたパン生地だけど、感触は柔らかい。薄く塗られた砂糖がテラテラと光沢を放っている。
わたしはパクリとクロワッサンを口にした。
「っんん! 甘くて美味ひぃ~~!!」
外側はパリパリに焼き上げられているけど、噛むと中はふわふわ!
ふんわり弾力がある白いパン生地がお目見えした。
パンの表面にまぶされたシュガーと小麦の芳醇な風味が合わさり、シンプルながらとっても美味しく仕上がっている!
「な、なんじゃこれは!? う、美味すぎるではないか!?」
モッフィもバクバクとパンを貪っていた。
美味しそうに食べていて微笑ましい。
わたしはペロッとクロワッサンを完食してしまった。
空腹に美味しいパンは相性が良すぎる!
「だけどまだもう一個あるもんね~」
紙袋に手を突っ込み、新たに二つのホットドッグを手に取った。
ペロリとクロワッサンを平らげたモッフィにも、追加のホットドッグをあげる。
「はい、これが最後のホットドッグね。絶対美味しいよ~」
「こ、これはなんと刺激的な香りじゃ!」
ホットドッグのソーセージ部分にはケチャップとマスタードがかけられていて、スパイシーな粗挽き胡椒も振りかけられている。
そしてソーセージからはみだした新鮮なレタスのおかげで彩りも鮮やか。
わたしは幼女の小さな口をめいっぱい開けて、ホットドッグに食らいついた。
――がぶっ。
「うんんっま! ソーセージぷりっぷりでジューシーすぎりゅ!」
濃厚なソーセージの風味が広がり、ぶりんっと反り返るソーセージの旨味が舌の上で弾ける!
さらにレタスのシャキシャキ食感も最高だ。
ソーセージのガツンと来るスパイシーさと新鮮な野菜のフレッシュさが相まって素晴らしい美味しさに進化している!
「こ、これは、はぐっ、凄まじいのぅ、むぐっ! 美味すぎて、ばくばくっ、止まらんわ、もぐもぐ!」
モッフィもホットドッグに噛みついていた。
一心不乱に食べまくるわたしたちは、お世辞にもお上品とはいえないだろう。
わたしはふとモッフィの顔を見て笑った。
「モッフィ、口の回りが汚れてるよ」
「むっ。それを言うなら、アイリの鼻にもケチャップがついておるではないか」
「へ?」
自分の鼻を指で触ってみると、指先に赤いケチャップがついた。
ホットドッグに噛みついた時に、ソーセージにかかっていたケチャップが鼻の頭についたみたい。
「ほんとだ。赤鼻のトナカイみたいになってる。ぷっ、あははは!」
「くくく、汚れてるのはお互い様のようじゃの!」
わたしとモッフィは一緒に笑った。
美味しいパンに、のどかな街並み、そして隣で笑いあってくれるパートナー。
どれも日本にいた頃の自分では味わえなかった幸せだ。
あー、楽しいっ!!
わたしはその幸せを噛み締めるように、ホットドッグを味わいながらモッフィと戯れる。
その後、あっという間にパンを完食したわたしたちが追加のパンを買いに向かったのは別の話だ。
パンうまうま~。
29
あなたにおすすめの小説
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~
草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。
勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。
だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。
勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。
しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ!
真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。
これは少女と世話焼き神獣の癒しに満ちた気ままな旅の物語!
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜
束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。
そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。
だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。
マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。
全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。
それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。
マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。
自由だ。
魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。
マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。
これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
主人公はあまり戦ったりはしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる