グラサン幼女の異世界とらべるっ! ~最強の【魔眼】を宿す転生幼女は、もふかわ神獣を連れてスローライフな旅路を楽しみます~

空戯ケイ

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第1章 始まりの街『グリィト』

第13話  異世界のパンはめちゃ美味い!

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 無事に冒険者として身分証ギルドカードを手に入れたわたしは、意気揚々とグリィトの街に飛び出していた。

 石畳で整えられた街の通りを、はしゃぎながら駆け抜ける。

「わあ、すごいすごーい! まさにわたしがイメージしてた異世界の街並みだー!!」

 シュバババと手当たり次第に店や風景を高速で見て回る。
 街行く人たちに見られている気がするけど、今は羞恥よりも好奇心が圧勝していた。

 え、冒険者になったならまずはクエストだろって?
 いやいや、冒険者になったのはギルドカードが欲しかっただけですよ?

 わたしの目的は異世界の旅! それから巻物スクロール集め!
 色んな異世界の街を巡って冒険したいとは思うけど、まずは最初の街であるこのグリィトをじっくり堪能しないとね!

「ほう、人間の街も様変わりしたものじゃのう」

 わたしの後ろを着いてくるモッフィが感慨深そうに呟く。
 ミニサイズのモッフィがとてとてと道を歩く姿は見てるだけで癒される。
 神獣だということを忘れてしまいそうだ。

「千年前はもっと違う景色だったの?」
「うむ。基礎的な造り自体はそう変わっておらぬかもしれんが、我が眠りにつく前のこの辺りの人里はもっと貧相で脆弱な建物ばかりじゃったぞ」

 まあ、千年も経ったら技術もだいぶ進化するもんね。
 日本の木造家屋を見ればよく分かる。

「……ん? この匂いは……」

 とってもいい匂いが鼻をかすめた。
 くんくんと匂いの元を辿ると、とあるお店を発見する。

「あ、あそこに美味しそうなパン屋さんがある!」

 わたしは一軒のパン屋さんを指差した。

 通りの端に屋台を組み上げ、店先にはたくさんのパンが並べて売ってある。
 わたしはそこに直行した。

「あら、こんにちは。可愛いお嬢ちゃん」

 店主のおばさんが優しい笑顔で迎えてくれた。

「わあ、どれもこれも美味しそ~!」

 芳醇な小麦の香りを間近で楽しみながら、わたしは目の前のパンたちに興奮した。
 バスケットの中に詰められたバゲット、甘い香りが漂うクロワッサン、そして豪快にソーセージを挟んだホットドッグまで!
 小さいお店ながらもレパートリーにあふれるパンの数々に、わたしは夢中で眺めてしまう。

「ふふふ、ウチのパンはどれも絶品だよ?」

 おばさんが微笑んで言ってくれる。

 わたしはマジックバッグに手を突っ込み、お金を確認した。

「えっと、たしか山小屋に蓄えられていたお金も拝借してきてたはず」

 ガサゴソと肩から提げたバッグの中を漁ると、ジャラッとした感触を覚える。
 わたしの手には、金貨、銀貨、銅貨がバラバラに集まっていた。

 この世界では、金貨一枚で約一万円の価値。
 銀貨は千円。
 銅貨は百円。

 セリエーヌちゃんの知識を拝借した限りだと、大体これくらいが相場だ。

 それを踏まえた上でわたしの手のひらに乗るお金を見てみると、金貨や銀貨がじゃらじゃらと光っていた。
 日本円にして、ざっと二十万円くらいはありそうだ。
 わたしの初任給といい勝負。

「山小屋暮らしだったのに、意外とセリエーヌちゃんはお金持ってたんだな。当たり前のようにパクってきて申し訳ないけど、このお金はありがたく使わせてもらうよ」

 怒らないでね、セリエーヌちゃん。
『ランダム転生魔法』で勝手にわたしの肉体を奪った慰謝料とでも思っておくれ。

 と、いうわけで。

「このクロワッサンと、ホットドッグ、二つずつください!」
「ありがとう。合計で銅貨八枚ね」
「はい! えーと……じゃあ、銀貨一枚で!」

 おばさんはお釣りで銅貨二枚を返してくれた。

 それから注文したパンを紙袋に入れて、わたしに手渡してくれる。
 幼女の小さな体だと、思ったより大きさがあった。

「ありがとうございます!」
「また来てね、お嬢ちゃん」

 おばさんのパン屋さんを後にし、大きな紙袋を抱えてわたしは街を歩いた。
 パンの良い匂いが間近で感じられ、とっても幸せ~。

 足元で隣を歩くモッフィは、好奇心を含んだ声色で尋ねてくる。

「ア、アイリよ。そのパンはなんなのじゃ?」
「美味しそうだったから買ってみたの! 異世界の街で、ベンチに座ってパン食べるの憧れてたんだよね~!」
「千年前のパンといえば固い黒パンばかりで味気なかったものじゃが、そのパンはなんというかその~……か、かなり良い匂いがするのぅ!」

 チラチラとわたしが抱える紙袋を見るモッフィに、笑顔で答える。

「モッフィと一緒に食べようと思って、二つずつ買ったんだよ。あ、あそこにちょうどいい噴水広場がある! あそこで食べようよ!」
「っ! そ、そうか! ま、まあアイリがどうしても我と食べたいというのであれば、神獣としてその願いを聞き届けてやらねばなるまいの!」

 モッフィはぶんぶんと白銀の尻尾を振っていた。

 素直じゃないモッフィに苦笑しつつ、噴水広場に向かうため走り出した。
 ――と同時、ドンッ! と誰かとぶつかってしまった。

「きゃあ!?」
「アイリ!」

 パンの袋を抱えたまま尻餅をついて転ぶわたしに、モッフィが駆け寄ってきてくれる。
 目の前には、大きな男の人の足があった。
 顔を上げると、人相の悪いおじさんがわたしを見下ろしていた。

「あぅ……ご、ごめんなさい」
「チッ、ガキが。ちゃんと前見て歩け――」

 おじさんがわたしに苛立たしげな表情を向ける。
 と、わたしの顔をはっきりと見たおじさんが顔つきを変え、目を見開く。

「おいお主! かような幼子とぶつかってその態度はなんじゃ!」
「お、お前……まさか……ッ!?」

 おじさんが何か言いかけ、わたしに手を伸ばそうとした、その時。

「どうしたんだアレ」
「誰か揉め事?」
「なんだ、子供が倒れてるぞ」
「助けに行った方がいいか?」

 わたしたちを見て、周囲の人たちがヒソヒソ話し始める。
 はたから見れば、道端に倒れる幼女と、その幼女に手を伸ばそうとしている人相の悪い中年おじさん。
 とても犯罪臭がする絵面だ。

「っ、」

 おじさんはハッとわたしに伸ばしていた手を止める。
 周りに目を向け、不審者を見るような注目を集めていることを察したおじさんは、舌打ちを鳴らした。

「……クソッ。次は気をつけやがれ!」

 そんな捨てセリフを吐いて、おじさんは逃げるように足早に去っていった。
 わたしは立ち上がって、パンパンと汚れを払うように自分の服をはたいた。

「大丈夫か、アイリ」
「うん、平気! しっかりと前を見て歩いてなかったわたしが悪いし……ちょっと異世界の楽しさにはしゃぎ過ぎちゃったかな」

 良くも悪くも、ここは異世界なのだ。
 ザレックさんやベルドさんみたいに優しい人もいれば、当然ながらそうじゃない人だっている。
 どこの世界でも同じことだ。

「ま、でも美味しいパンの魅力には抗えないけどね~! 気を取り直して、行こっ! モッフィ!」
「やれやれ……お主は色んな意味で逞しいのぅ」

 呆れるように首を振るモッフィを連れて、目的地である噴水広場に向かう。

 噴水広場にはポツポツと人が集まっていて、一人でまったり休憩している人や、カップルでのんびり駄弁ってる人たちがいた。
 ほのぼの空間だ。

「とうちゃ~く! ここら辺に座ろっか!」
「うむ」

 わたしも石造りの噴水の縁に腰を下ろした。
 モッフィがその隣に飛び乗って横に並んだ。

 背後からは、びしゃしゃ~と水が上っては流れていく噴水の音が聞こえる。
 これ、魔法かな?
 ほどよく涼しい風も吹いていて過ごしやすい。

「ふんふふ~ん! はてさて、異世界の美味しいパンをご開帳~!」

 紙袋の口を閉じるテープを剥がし、いざオープン!
 中にはクロワッサンとホットドッグが二つずつ詰められていた。
 紙袋を開けたことで、さっきよりもダイレクトにパンの良い香りがふわっと漂ってくる。
 ふわぁ~、香ばしくていい匂い!!

 わたしは丸いクロワッサンを二つ手に取った。

「はい、一つはモッフィの分ね! どうぞ!」
「う、うむ。すまぬの」

 クロワッサンを渡すと、モッフィはちっちゃなもふもふのお手手で受け取った。

 パンはペーパーナプキンでくるまれていて、手を汚す心配もない。

「じゃ、食べよっか! 何気に朝からなにも食べてなかったから、お腹すいた~」

 わたしは丸いクロワッサンの一部をペーパーナプキンから出す。
 表面はパリッとしたパン生地だけど、感触は柔らかい。薄く塗られた砂糖がテラテラと光沢を放っている。

 わたしはパクリとクロワッサンを口にした。

「っんん! 甘くて美味ひぃ~~!!」

 外側はパリパリに焼き上げられているけど、噛むと中はふわふわ! 
 ふんわり弾力がある白いパン生地がお目見えした。

 パンの表面にまぶされたシュガーと小麦の芳醇な風味が合わさり、シンプルながらとっても美味しく仕上がっている!

「な、なんじゃこれは!? う、美味すぎるではないか!?」

 モッフィもバクバクとパンを貪っていた。
 美味しそうに食べていて微笑ましい。

 わたしはペロッとクロワッサンを完食してしまった。
 空腹に美味しいパンは相性が良すぎる!

「だけどまだもう一個あるもんね~」

 紙袋に手を突っ込み、新たに二つのホットドッグを手に取った。

 ペロリとクロワッサンを平らげたモッフィにも、追加のホットドッグをあげる。

「はい、これが最後のホットドッグね。絶対美味しいよ~」
「こ、これはなんと刺激的な香りじゃ!」

 ホットドッグのソーセージ部分にはケチャップとマスタードがかけられていて、スパイシーな粗挽き胡椒も振りかけられている。
 そしてソーセージからはみだした新鮮なレタスのおかげで彩りも鮮やか。

 わたしは幼女の小さな口をめいっぱい開けて、ホットドッグに食らいついた。

 ――がぶっ。

「うんんっま! ソーセージぷりっぷりでジューシーすぎりゅ!」 

 濃厚なソーセージの風味が広がり、ぶりんっと反り返るソーセージの旨味が舌の上で弾ける!
 さらにレタスのシャキシャキ食感も最高だ。
 ソーセージのガツンと来るスパイシーさと新鮮な野菜のフレッシュさが相まって素晴らしい美味しさに進化している!

「こ、これは、はぐっ、凄まじいのぅ、むぐっ! 美味すぎて、ばくばくっ、止まらんわ、もぐもぐ!」

 モッフィもホットドッグに噛みついていた。
 一心不乱に食べまくるわたしたちは、お世辞にもお上品とはいえないだろう。

 わたしはふとモッフィの顔を見て笑った。

「モッフィ、口の回りが汚れてるよ」
「むっ。それを言うなら、アイリの鼻にもケチャップがついておるではないか」
「へ?」

 自分の鼻を指で触ってみると、指先に赤いケチャップがついた。
 ホットドッグに噛みついた時に、ソーセージにかかっていたケチャップが鼻の頭についたみたい。

「ほんとだ。赤鼻のトナカイみたいになってる。ぷっ、あははは!」
「くくく、汚れてるのはお互い様のようじゃの!」

 わたしとモッフィは一緒に笑った。

 美味しいパンに、のどかな街並み、そして隣で笑いあってくれるパートナー。
 どれも日本にいた頃の自分では味わえなかった幸せだ。

 あー、楽しいっ!!

 わたしはその幸せを噛み締めるように、ホットドッグを味わいながらモッフィと戯れる。

 その後、あっという間にパンを完食したわたしたちが追加のパンを買いに向かったのは別の話だ。
 パンうまうま~。


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