グラサン幼女の異世界とらべるっ! ~最強の【魔眼】を宿す転生幼女は、もふかわ神獣を連れてスローライフな旅路を楽しみます~

空戯ケイ

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第1章 始まりの街『グリィト』

第39話  ナデシコの処遇

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 殺し屋組織『黒烏』の襲撃を受けたわたしたちは、そのまま取調室に案内された。
 もちろん、捕縛した『黒烏』の構成員たちも引き渡し、今は牢屋にまとめて収監されている。
 一人ずつ別室で詳しい話を聞くようだ。

 そして被害者であるわたしたちの話も聞きたいということで、わたしは小動物サイズになったモッフィを連れて取調室に直行。
 取調べの調書を取るのは、冒険者ギルドのギルドマスターであるザレックさんだった。

 そうしてしばらく事の経緯を話し終えると、ザレックさんが書類に走らせていたペンを置く。

「なるほどな。事情は大体分かった。災難だったな、アイリ」
「いえ……まあ、いきなり襲われたのはビックリしましたけど」

 緊張感のある場面だった。
 自分の命が狙われる感覚ってこんな感じなのか……。
 今回は隣にモッフィがいてくれたから心強かったけど、わたし一人の時に襲われてたら色々とヤバかったかも。

「しかし、なんでアイリの命が狙われたんだろうな……。何か心当たりはあるか?」
「いや、それがさっぱりで……」
 
 暗殺される理由はマジで分かんない。
 ちょっと怪しげなサングラスはかけているけども、まさかそんな理由で襲撃されるとは思えないし。

(ただ、唯一疑える余地があるとしたら……このわたしの身体の持ち主――セリエーヌちゃんか)

 恐らくだけど、殺し屋の連中は『アイリ』ではなく『セリエーヌ』を殺しに来たんじゃないかな。

 ボルザルドも、"セリエーヌの眼球を傷つけるな"と依頼主に言われたとかなんとか口走ってたような……。

「ということは、もしかして狙いはわたしの命じゃなく……この『目』なのかな」

 わたしはそっと自分の目の下に指を這わせる。

 わたしの目は『虹の魔眼』という『恩恵ギフト』を宿した超特殊な器官だ。
『黒烏』の連中はこの『虹の魔眼』を狙ってわたし、もといセリエーヌちゃんを殺そうとしたのではないか。

 ぶつぶつと思索を巡らしていると、対面のザレックさんが首を傾げた。

「ん? 何か言ったか?
「えっ! ああ、いや、なにも!」

 ハッ、と意識を取り戻し、わたしは手を振って誤魔化す。

 ザレックさんはため息混じりに調書をざっと眺めた。

「ま、詳しい情報は『黒烏』の連中の取調で絞るとするか。アイツらは殺し屋組織で、自分達の判断で人を襲うことはない。必ず『黒烏』にアイリの命を奪うよう頼んだ依頼人がいるはずだからな」
「たしかにボルザルドも依頼人がどうのって言ってましたね」
「ああ。そいつを突き止め、依頼人もろとも牢獄にぶちこんでやるよ。ずっと尻尾を掴めなかった『黒烏』の連中を一網打尽に出来たからな。この際、根の根まで悪人どもを引きずり出してやる。このグリィトの街で暴挙に出たことを後悔させてやるぜ……!」

 ザレックさんが恐ろしげな顔で口角をつりあげる。
 わたしは苦笑で応えた。

 すると、ふとあの少女のことを思い出す。

「あの、ナデシコちゃんのことなんですけど……」
「ナデシコ? ああ、『黒烏』の構成員の一人か」

 ザレックさんはペラペラと書類をめくると、ナデシコちゃんの情報が書かれたページで手を止める。

「このナデシコって奴が以前にアイリが泊まってた宿を襲撃した下手人だってな。隠密行動に優れていて、まさに暗殺にはもってこいの逸材だが……コイツがどうした? まさかコイツに何かやられたことを思い出したのか!?」
「い、いや違います!」

 わたしは慌てて否定し、視線をさ迷わせながら言う。

「えーと、被害者のわたしがこういうのもアレなんですけど……ナデシコちゃんにはどうか寛大な処罰にしていただけませんか」
「なに!? どうしてだ!」

 ザレックさんが目を見開いて驚く。
 わたしはそんなザレックさんの目をちゃんと見つけて、強い口調で言う。

「ナデシコちゃんは、わたしを助けようとしてくれたんです! たしかにわたしの命を狙ってきた連中の一員だったかもしれないけど、ナデシコちゃんはボルザルドに無理やり命令されていただけだったんです!」
「いや、しかしだなぁ……」
「そ、それに、最終的にボルザルドを捕まえたのはナデシコちゃんなんですよ! その他の『黒烏』の殺し屋たちの捕縛も手伝ってくれて、最後は自らの意思でわたしたちに捕まったんです……」

 ボルザルドやその仲間は庇う余地のないほどのクズだけど、ナデシコちゃんだけはあの連中の中でも浮いていた。
 きっと、ボルザルドたちほど悪に染まりきっていなかったからだと思う。
 殺し屋という悪人の巣窟でずっと暮らしていたのに、ナデシコちゃんは自分の正義心を貫いていた。

 だけど、ザレックさんは腕を組んで難色を示している。
 ふと、テーブルの端で丸まって沈黙を貫いていたモッフィが片目を開けた。

「アイリの言う通り、我もその小娘からは殺意を感じなかった」

 わたしとザレックさんの視線がモッフィに集まる。
 モッフィは丸まったまま、淡々と告げた。

「そも、その小娘が殺し屋の組織におったのは、『奴隷印』を刻まれて行動を強制されておったからじゃ。我がその『奴隷印』を解除したゆえ、間違いない」
「……たしかに、書類にも幼少期に遠国から奴隷として売られた情報は確認できるが」
「我も最初は『奴隷印』を解くのは反対だったんじゃがな。アイリがどうしてもと言うから仕方なしに解除してやった。するとどうじゃ。あの小娘、今度は自分の意思でアイリを守るような発言をしおった。ボルザルドに痛め付けられても、その意思を曲げることなくな。そして最後は自分で『黒烏』という組織に終止符を打ったのは、先ほどアイリが言った通りじゃ」

 モッフィ!
 わたしの味方をしてくれるのか!

「と、という訳なので、どうですかザレックさん……!」
「一つ確認したいんだが、アイリが受けたナデシコの犯行を全て許すということか?」
「はい、全て許します!」

 即答するわたしに、ザレックさんはやや気圧されたように顔を固めた。
 そしてザレックさんは目を閉じ、考える。

 しばらくして目を開けたザレックさんは、わたしをしかと見つめて言った。

「アイリの気持ちは分かったが……ナデシコが『黒烏』の一員であったという事実は変わらない」

 きっぱりと告げるザレックさん。
 わたしは、ぐっ……、と唇を噛み締める。

 ザレックさんは小さく息を吐いた。

「だが、調べた限りではナデシコは『黒烏』の中でずっと奴隷として酷使されていたようだな。ほとんどは雑用を押し付けられていたらしく、幸いにしてまだ殺しに手を染めたことはない。人に危害を加えたようなこともなさそうだ」
「じ、じゃあ――!」
「現時点で断言はできないが、ナデシコに関しては俺からも少し口添えをしておこう。今のところは、それでいいか?」
「は、はい! ありがとうございます!」

 わたしは頭を下げてお礼を言う。
 ザレックさんは微笑みで返し、今日はもう遅いので解散となった。



 ■  ■  ■



『黒烏』襲撃事件から数日後。

 わたしはモッフィを連れて冒険者ギルドに呼び出された。
 ギルドに着いたわたしは、そのまま奥のギルマス室に案内される。

 ガチャリと扉を開けると、ザレックさんが軽く手を上げて反応した。

「おう、来たかアイリ。呼び出して悪いな」
「いえ」
「コイツらにも来てもらってるぜ」

 ザレックさんの視線の先には、見知った冒険者パーティがあった。
 ベルドさん、マーレスさん、ジェシーさんだ。

 お互い挨拶を交わし、本題に入る。

「まあ、このメンバーで呼び出されたってことはもう薄々分かってるかもしれないが、この間の『黒烏』の件についてだ。奴らの取調が一段落し、沙汰が決まったので伝えようと思う」

 ザレックさんは表情を引き締めて続ける。

「まず主犯のボルザルドを初め、『黒烏』の構成員は王都に引き渡されることになった。こんな小さな街じゃなく、王都できちんと刑が執行される」

 わたしたちは黙って話を聞く。
 ザレックさんは少し悔しげに顔を歪めた。

「それからボルザルドらにアイリの暗殺を依頼した人間のことだが……結局突き止められなかった。ボルザルドなら何か知っているとは思うんだが、完全に吐かせきることができなかったから、その辺りも王都で念入りに調べてもらうつもりだ。不甲斐ない結果になってしまってすまないな」
「頭を上げてくださいよ、ギルマス!」

 ベルドさんが言い、ザレックさんも目礼した。

 そこで、わたしはたまらず一歩前に出た。

「あ、あの、ナデシコちゃんは、どうなったんですか!?」

 以前の取調でザレックさんに寛大な処罰を懇願した相手。

 ザレックさんはわたしを見下ろし、言った。

「ああ、ナデシコか。そうだな、あいつは――」

 コンコン、とノックがザレックさんの言葉を遮った。
 ザレックさんは、「ちょうどいい」と呟くと、入室を促す。

 ややあって、ゆっくりと扉が開けられる。
 外から入ってきたのは、忍者装束を見にまとった一人の少女。

 その少女を見て、わたしの心は晴れやかになる。

「ナデシコちゃん!!」
「うぇ!? あ、あなたは……!」

 ナデシコちゃんはわたしの姿を見て体を強張らせた。

 だけどわたしは構わず、ナデシコちゃんの元に駆け寄る。
 ナデシコちゃんはかつて命を狙ったターゲットであるわたしを前にして、おろおろと狼狽えていた。

「あ、あの、ザレックさん。な、なぜここに、こ、この人が……!!」

 不自然に固まるナデシコちゃんに、ザレックさんはフッと笑った。

「喜べよ。今日からお前は自由の身だ。そこの小さな冒険者のお願いもあってな」
「ザレックさん! てことは、ナデシコちゃんは解放されるんですか!?」

 ザレックさんは微笑みを交えて頷いた。
 パアッと顔が明るくなるわたしに、ザレックさんが手元の書類をペラペラとめくった。

「ナデシコのおかげで『黒烏』の内部情報をだいぶ知ることができたからな。それに、ナデシコはほとんど犯罪歴がなく、アイリの宿に侵入した際の罪もアイリ本人が全面的に許すといっている。状況的には、ナデシコもまたボルザルドの被害を受けていた一人ってわけだ」

 ザレックさんがパタンと書類を置いた。

「事件解決に協力してくれた対価と言っちゃなんだが、俺の方から働きかけてナデシコの身柄を解放してもらったんだよ」

 ほうほう。
 つまり、ある種の司法取引を行ったというわけですか。

 最後にザレックさんがぼやくように言った。

「ま、一つ欲を言うなら、今回のアイリ暗殺を依頼した依頼人の情報も持っていてくれたら万々歳だったんだがな」
「も、申し訳ない。私はボルザルドの指示があるまで奴の『深淵魔法』の影の中に閉じ込められていたので、外へはボルザルドが許可した時だけしか行けなかったんです。なので、依頼人の情報は分からなくて……」
「いいさ。別に責めてるわけじゃねぇよ」

 ナデシコちゃんは微妙な笑みを浮かべると、わたしに向き直った。
 そして、ペコリと頭を下げる。

「今回の件は、本当に申し訳ありませんでした。宿にまで侵入して命を狙ったわたしの身を案じてくださったと聞き、感謝の言葉もありません」
「いいっていいって! ナデシコちゃんもわたしに殺し屋のことを教えてくれたしさ!」

 仲直りも済んだところで、ベルドさんが声をあげた。

「それで、ナデシコ。お前はこれからどうするつもりなんだ?」
「そう、ですね……。奴隷として売られた身のため、特に行く宛もないので……」

 瞳を伏せるナデシコちゃん。
 どうやら行く宛がないらしい。

 ハッ、それならば!
 わたしは手を打って閃きを表した。

「だったら、ナデシコちゃんもわたしたちと一緒に旅をしようよ!」
「「「「――ええぇっ!?」」」」

 わたしの提案に、ザレックさんとベルドさんのパーティメンバーが一斉にすっとんきょうな声をあげた。

 ナデシコちゃんは信じられないものを見るような目でわたしを見下ろし、パクパクと口を動かす。

「そ、それは私としては問題ないというか、願ったり叶ったりですが……」
「ほんと! じゃあ、決まりだね!」
「ち、ちょっと待ってください!」

 ナデシコちゃんが大きな声で言った。
 そして、恐る恐る尋ねてくる。

「よ、良いのですか……? 暗殺者である私が罰を免れたばかりか、旅に同行するだなんて……」

 もしかして気が咎めてるのかな?
 わたしは少しでも気持ちが軽くなることを願って、グラサン越しに笑顔で答えた。

「そんなに気にすることないよ! わたしはナデシコちゃんを信頼してるし、それにナデシコちゃんも強いからいざという時に戦えるでしょ? もしわたしを暗殺しようとしたことに罪悪感があるなら、これからはわたしを守って罪滅ぼしをしてくれると嬉しいな!」
「な、なんと寛大で澄みきったお姿……!!」

 ナデシコちゃんは感激したように瞳に涙を浮かべた。
 ちなみにわたしは絶賛『グラサン幼女』の姿なので、別に澄みきったオーラは出ていないと思うけどね。

 でも、ナデシコちゃんは何か感じたものがあるのかな。
 そんなことを考えていると。

 ナデシコちゃんが、バッとわたしの前に跪いた。

「――――アイリ様!」
「えっ、さま!?」

 ナデシコちゃんは感涙しながらわたしの爪先を見つめ、ハキハキとした口調で告げる。

「このナデシコ、アイリ様の御心の深さに感服いたしました! 紛うことなく、アイリ様こそ心から忠誠を誓える主人です! 私の身が滅びるまで生涯をかけてアイリ様をお支えし、万難の危機から守り抜く決意でお供させていただきます!!」

 ナデシコちゃんは忠実な家来のように言った。
 それはさながら、偵察に行かせた忍者から敵軍の報告を受ける武将のような気分だった。

「ナ、ナデシコちゃん、そんなガチの忠誠は誓わなくてもいいから、楽しくいこうよ! ほら、顔上げて!」
「はっ。アイリ様がそう仰られるのであれば」

 ナデシコちゃんは素早い動作で直立した。

 まさかナデシコちゃんがこんなに忠誠心が高いとは驚きだ。
 わたしとしてもっとフランクな感じで打ち解けて仲良くなれたらと思ってたんだけど、なんか想像とは違う方向に進んじゃった気が……。

「……まあ、いいか。それじゃあ、これからよろしくね、ナデシコちゃん!」
「はい! 精一杯お世話させていただきます!」

 わたしとナデシコちゃんは互いに握手を交わした。
 こうして、愉快な仲間が一人増えたのだった。

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