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10話
しおりを挟む暗がりで帽子を被り、口元を布で隠しているため顔は全く分からない。
背はカズユキほどあるだろうか。コートを着た肩幅は広く、遠目に見てもしっかりとした男らしい体型をしている。
剣を改めて構えるのを見て、ミナトはカズユキの腰にしがみつく。
相手が地を蹴り、ふたりの目の前まで来るのは一瞬だった。
剣が重なる金属音と共に顔を歪めたカズユキは後方へと跳ぶ。暗い中だが、男の左眼が黒い布で覆われていることだけはふたりともが確認した。
路地裏の深くまで入っていった先でミナトは地面に立たされる。
「悪いミナト、こいつはお前を抱きながらじゃ無理だ!」
ミナトを背中に庇うと、ピアスを片方だけ雑に外した。耳に血が滲むのを気にも止めず、後ろ手に差し出す。
「お守りだ! これを絶対に離すな! いいな!」
強く言い残すと、追ってきていた男の方へと剣を振りかざす。
ミナトはその後ろ姿を目で追いながら、訳も分からず受け取ったピアスを握り締める。すると、手のひらの中で青い玉が光を発した。その光は仰天して玉を取り落としそうになっているミナトを包み込む。
「あ、危なかった…!」
なんとか落とさずキャッチして、ミナトは体を見下ろした。
(この光が守ってくれてるのか…?)
魔術には疎いミナトにはそうであろうという予想しかできなかったが、正解であった。
魔力を秘めた石に魔術師の力を込めることで、呪文を唱えることなく発動させることが出来る。カズユキのピアスはその「魔石」で作られていた。
今回の魔術の効果は「守護」。いかなる物理攻撃も魔術攻撃も、一定時間は通用しない。
逆に言えばその時間を超えると、守るものがあるカズユキは圧倒的に不利になる。
カズユキは地を踏み込んで剣を振るう。隙を作ろうにも、全ての攻撃に相手は反応してついて来る。互いに息をつく間もなく剣を交わす。
相手の男の暗い色の右目が険しく光る。
その眼光は、間違いなく何も出来ず立ち尽くしているミナトへ向けられていた。
「おい、どこ見てんだ。」
全身で威嚇する声と共に繰り出されたカズユキの足が、相手の腹部に正面から直撃する。喉から低い音を立て前屈みになった男の頸に向かって、容赦なく剣を振り下ろした。
が、刃は男には当たらずコートの肩を掠める。低い姿勢で避けた男は、真っ直ぐミナトの方へ向かってきた。
「う、わ…!」
ミナトはすくみそうになる足を叱咤し、反対側へ全力で走り出す。
(コウみたいに屋根に逃げられたら良いのに…!)
防御の魔術は未だ発動していた。しかし、それがどのくらいの衝撃まで耐えられ、どのくらい時間が残されているのかについてミナトには知る由もない。
段々と距離が縮まっていることが、振り返らなくても感覚で分かる。更に運の悪いことに、この道はもうすぐ行き止まりだった。
立ち向かうことも出来なければ逃げることすら満足に出来ないミナトは、自分に歯噛みする。
突き当たりで足を緩めたところで、真横に腕が伸びてきて壁を叩く。壁と男に挟まれる格好になってしまった。
もうここまでなのだと絶望的な気持ちで目を閉じる。
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