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16話
しおりを挟む列車の旅はつつがなく終わり、駅からは馬車に乗って王宮へと向かう。馬車は王宮から手配されていたもので、カズユキの身分の高さを物語っていた。
主に赤いレンガの建物が並ぶ、人通りの多い賑やかな城下町を抜けると、王宮だ。
白く荘厳な雰囲気の大きな屋敷には、いくつか高い塔があるのが分かる。
巨大な門を護る騎士がカズユキたちの身分確認をした後、敬礼をして馬車のまま通してくれた。
カズユキもコウもいつも通りの買い物にでも来たかのような表情をしているが、ミナトは命の危険に晒されていた時と同じくらい心臓音がうるさく鳴っていた。
「カズユキ! 久しぶりだな!」
「ああ、トーマ。元気そうで何よりだ。」
建物の入り口の前で馬車を降りると、明るく爽やかな雰囲気の男性が手を振ってやってきた。
トーマと呼ばれた男は、カズユキの昔の思い人であると共に幼い頃からの親友だった。今でも年に1、2回は帰省のついでに顔を見せる間柄だ。
明るい茶髪で、同じ茶色だが髪よりも濃い色の瞳をしている。入団時からカズユキと共に、見た目の良さも必要となる近衛騎士隊に所属していた。
騎士として優秀なだけでなく、人当たりが柔らかく上司にも部下にも好かれる騎士のお手本のような人物だ。
現在は結婚し、3人の子を持つ父親としての顔もある。
街などにいる常駐の騎士は通常は青い服を着ているが、この男は違った。白と金のコントラストが華やかで美しい近衛騎士の制服を着ている。
白いジャケットに白いズボン。ジャケットの間からは金色のパスマンタリー装飾のある濃い灰色のベストが覗く。左肩を覆い背中で閃く金色で縁取られた白いマントの内側は群青色をしていて、右肩から見えるジャケットの肩には金のボタンがあった。
カズユキが、路地で拾ったものと同じだ。
(劇みたいだ…)
長身の美男子たちが軽くハグを交わす様子をミナトは観客のように眺めた。王宮の美しい庭が、その光景を更に非現実的な雰囲気にしていた。
しかし、濃い茶色の瞳がミナトを捉えて微笑む。目が合ったことに驚き、飛び上がるのをなんとかミナトは耐えた。トーマは手袋を外した右手を差し出す。
「君がカズユキの息子さんか。初めまして、トーマだ。王太子の近衛騎士隊長を務めている。」
「あ、初めまして! ミナトです! 今日はありがとうございます!」
緊張で声が裏返る。
王族直属の騎士の華美かつ優雅な所作に圧倒されながら、ゴツゴツとした手を握った。カズユキと同じ年のトーマは、外見や声、雰囲気も相応に年を経ている落ち着いた大人である。
異様なまでに若く見えるカズユキとは違った。
王宮に入れるのは貴族の他は一握りの選ばれた人間のみ。ミナトはコウのように「護衛」という立場にはどうしても見えない。そのためカズユキの「養子」であることにして、踏み入ることを許された。
貴族でも平民でも、養子をとることは珍しくない。結婚はしていないが跡継ぎは必要な人や同性婚の人など理由は様々だ。ミナトは孤児院に我が子を探しに来る人を何人も見てきた。
ある日突然、友人に「息子」が登場しても誰も不自然には思わない。
流石に今回のことは、仕事の助けをしてもらうにあたってトーマにだけは説明してあった。先程のトーマの挨拶は、後々詮索してくるかもしれない周りに向けてのものだった。
「コウさんも、初めまして。噂は聞いてるよ。いつもカズユキが世話になってるな。」
「…。大した事はしてない。」
カズユキの帰省の際に同行することのないコウは、トーマとは初対面だった。
まるで身内のような挨拶をしたトーマに対して、無表情のままコウは素気なく答える。握手はきちんと返しているものの、愛想のかけらもない。
そんな様子をカズユキは諌めることをしないし、トーマも気にした様子はない。ミナトだけがどこか落ち着かない気持ちで見ていた。
それぞれの思いを胸に、案内されるまま王宮内に足を進めていく。
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