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36話
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昨日の朝、「慈善活動」とやらをしているのを見た時から違和感はあった。
カズユキの知るトクオミは、魔獣に対しての熱意は人一倍ある。いや、10倍と言っていいだろう。今でこそ魔獣の狩人に全てを任せてしまうことが増えたが、カズユキが彼のボディーガードをしていた時には、共に魔獣の棲家まで行くことが多かった。
目の前の魔獣の弱点を知っているかと聞くと、襲われている最中にも関わらず必要のない情報も含めベラベラと喋っていた。
話しても話しても、調べても調べても足りないのだと、いつも丸い顔を綻ばせ楽しそうにしていたのだ。
「共存出来れば幸せになれる」と、とにかくがむしゃらに研究を進めているように見えていた。
その反面、人間にはそこまで興味があるタイプではないことにはカズユキは気づいていた。
人と関わるのは得意で慕われるタイプだが、あくまでもその能力は魔獣研究のために使っているのだ。
そんな男が、誘拐された子どもを探す手伝いをするだろうか。わざわざ朝早くにチラシ配りまでして。
国や領主への点数稼ぎももはや必要はない金と立場がある。
カズユキを雇うほどの高額の依頼料を払ってまで探したいとなると、我が子と考えるのが妥当だがこの男は所帯を持ってはいない。
(相当高値で取り引きされる予定だったな…)
体に電気を纏った巨大な猫のような魔獣の爪を避けながら、カズユキは眉を潜めた。
明日、他国からやってくるという貴族は、あのはつらつとした少年を相当お気に召しているらしい。
オッドアイが珍しい国からの訪問なのだろう。
下手をしたら、この件が無事に終わってもそちらの対処をしなければならないかもしれない。
今後のことも視野にいれながら、呪文を唱える。炎の弾が魔獣を焼いた。
「ったく、室内にどんだけいるんだよ…!」
想定よりも魔獣の数が多く、部屋を埋め尽くしそうだ。流石に3人だけでは捌くのに骨が折れる。
コウは檻が上がり切る前に自ら奥へと入って行って、大型の魔獣の目玉に蹴りを入れる。例え視力に頼らないような生き物でも、目は大抵守りようのないものだ。
目玉を潰された魔獣の断末魔が上がった。
セイゴウは襲いくる魔獣に剣を突き刺しながら頻繁にトクオミの様子を伺い、視線を巡らせて周囲に抜け道がないかを探る。
男たちは「闘技場の下」と言った。
ここにはもう他に気配はない。
どこかに、別の部屋に向かうための隠し通路か階段があるはずだ。
トクオミがそちらに目線をやらないかと考えていたが、そんなボロは出さない。ただひたすら目を輝かせて、3人と魔獣の戦いを見ている。
素手にも関わらず、ひたすら魔獣を屠っているコウに手強そうな大型タイプは任せることにする。自分は適度に敵をかわしながら、カズユキは広い無機質な部屋の中を駆け回った。セイゴウと同じく、どこかにミナトたちの捕らえられている部屋に繋がる仕掛けがあるのではと考えたからだ。
(一番奥が無難か? それともさっきまでトクオミが立ってた場所か…)
確認しようにも生死問わずに魔獣が溢れていて難しい。
何度適当にあしらっても飛びついてくる、防御力の高そうな甲羅で覆われた魔獣を剣で弾きながら舌打ちをする。
そちらに気を取られていると、闘技場で見たワニのような巨大な魔獣に対峙していたコウが目を見開くのが視界の端に映る。
更には、カズユキの方へと体を向けた。
「カズユキ!! 後ろだ!!」
その声が上がるのと、カズユキが背中の方を振り向き、剣で「何か」を受け止めるのはほぼ同時だった。
「同じ手を…っ! 食う、かよ!!」
剣を横に薙ぐと、何かが倒れる音がする。
そこに横たわったのは、人ではなく犬や狼に似た姿の魔獣だった。流れ出る黒い血が地面に溜まっていく。
姿や気配までを極限まで消すことができる魔獣。
おそらく昨夜カズユキを刺した男は、この魔獣の力を借りた魔術道具を使ったのだろう。
胸を撫で下ろしたコウは、カズユキの隣に並んだ。
「やっぱり近くにいることにする」
「バラけねぇとなかなか終わらないだろうが」
馬鹿なやつだと悪態をつきながらも、目尻が下がるのを止められない。
「他にも目には見えない敵がいるかもしれない。」
「そうしたら、さっきみたいに教えてくれよ。」
「だから近くにいた方が良いと言っているんだ。」
真剣な青い眼差しが赤い瞳を捉える。
目に見えなくとも、何かが「いる」ことがコウには感覚的に分かる。
カズユキのことを弱い存在として庇いたいわけではないが、もう怪我をさせたくないと美しい青色が言っている。
ふっと、形の良い赤い唇から軽く息を吐く。
「…ったく…じゃあ頼むわ。」
軽く目を上げてから、コウに背を向け、涎を垂らして唸る魔獣と正面から向き合う。
コウもカズユキの背に自分の背を一瞬だけ軽く触れ合わせ、血走った目をしている大型魔獣を鋭く睨みつけた。
その様子を見ていたトクオミは、拍手をして楽しんでいる。
完全にショーの観客だ。
苛立ちを隠さないセイゴウが呪文を唱えて剣を振ると、かまいたちのような剣撃がトクオミに直接飛ぶ。
しかし、頑丈な防御の魔術に守られているトクオミには傷一つつけることは出来なかったのだった。
カズユキの知るトクオミは、魔獣に対しての熱意は人一倍ある。いや、10倍と言っていいだろう。今でこそ魔獣の狩人に全てを任せてしまうことが増えたが、カズユキが彼のボディーガードをしていた時には、共に魔獣の棲家まで行くことが多かった。
目の前の魔獣の弱点を知っているかと聞くと、襲われている最中にも関わらず必要のない情報も含めベラベラと喋っていた。
話しても話しても、調べても調べても足りないのだと、いつも丸い顔を綻ばせ楽しそうにしていたのだ。
「共存出来れば幸せになれる」と、とにかくがむしゃらに研究を進めているように見えていた。
その反面、人間にはそこまで興味があるタイプではないことにはカズユキは気づいていた。
人と関わるのは得意で慕われるタイプだが、あくまでもその能力は魔獣研究のために使っているのだ。
そんな男が、誘拐された子どもを探す手伝いをするだろうか。わざわざ朝早くにチラシ配りまでして。
国や領主への点数稼ぎももはや必要はない金と立場がある。
カズユキを雇うほどの高額の依頼料を払ってまで探したいとなると、我が子と考えるのが妥当だがこの男は所帯を持ってはいない。
(相当高値で取り引きされる予定だったな…)
体に電気を纏った巨大な猫のような魔獣の爪を避けながら、カズユキは眉を潜めた。
明日、他国からやってくるという貴族は、あのはつらつとした少年を相当お気に召しているらしい。
オッドアイが珍しい国からの訪問なのだろう。
下手をしたら、この件が無事に終わってもそちらの対処をしなければならないかもしれない。
今後のことも視野にいれながら、呪文を唱える。炎の弾が魔獣を焼いた。
「ったく、室内にどんだけいるんだよ…!」
想定よりも魔獣の数が多く、部屋を埋め尽くしそうだ。流石に3人だけでは捌くのに骨が折れる。
コウは檻が上がり切る前に自ら奥へと入って行って、大型の魔獣の目玉に蹴りを入れる。例え視力に頼らないような生き物でも、目は大抵守りようのないものだ。
目玉を潰された魔獣の断末魔が上がった。
セイゴウは襲いくる魔獣に剣を突き刺しながら頻繁にトクオミの様子を伺い、視線を巡らせて周囲に抜け道がないかを探る。
男たちは「闘技場の下」と言った。
ここにはもう他に気配はない。
どこかに、別の部屋に向かうための隠し通路か階段があるはずだ。
トクオミがそちらに目線をやらないかと考えていたが、そんなボロは出さない。ただひたすら目を輝かせて、3人と魔獣の戦いを見ている。
素手にも関わらず、ひたすら魔獣を屠っているコウに手強そうな大型タイプは任せることにする。自分は適度に敵をかわしながら、カズユキは広い無機質な部屋の中を駆け回った。セイゴウと同じく、どこかにミナトたちの捕らえられている部屋に繋がる仕掛けがあるのではと考えたからだ。
(一番奥が無難か? それともさっきまでトクオミが立ってた場所か…)
確認しようにも生死問わずに魔獣が溢れていて難しい。
何度適当にあしらっても飛びついてくる、防御力の高そうな甲羅で覆われた魔獣を剣で弾きながら舌打ちをする。
そちらに気を取られていると、闘技場で見たワニのような巨大な魔獣に対峙していたコウが目を見開くのが視界の端に映る。
更には、カズユキの方へと体を向けた。
「カズユキ!! 後ろだ!!」
その声が上がるのと、カズユキが背中の方を振り向き、剣で「何か」を受け止めるのはほぼ同時だった。
「同じ手を…っ! 食う、かよ!!」
剣を横に薙ぐと、何かが倒れる音がする。
そこに横たわったのは、人ではなく犬や狼に似た姿の魔獣だった。流れ出る黒い血が地面に溜まっていく。
姿や気配までを極限まで消すことができる魔獣。
おそらく昨夜カズユキを刺した男は、この魔獣の力を借りた魔術道具を使ったのだろう。
胸を撫で下ろしたコウは、カズユキの隣に並んだ。
「やっぱり近くにいることにする」
「バラけねぇとなかなか終わらないだろうが」
馬鹿なやつだと悪態をつきながらも、目尻が下がるのを止められない。
「他にも目には見えない敵がいるかもしれない。」
「そうしたら、さっきみたいに教えてくれよ。」
「だから近くにいた方が良いと言っているんだ。」
真剣な青い眼差しが赤い瞳を捉える。
目に見えなくとも、何かが「いる」ことがコウには感覚的に分かる。
カズユキのことを弱い存在として庇いたいわけではないが、もう怪我をさせたくないと美しい青色が言っている。
ふっと、形の良い赤い唇から軽く息を吐く。
「…ったく…じゃあ頼むわ。」
軽く目を上げてから、コウに背を向け、涎を垂らして唸る魔獣と正面から向き合う。
コウもカズユキの背に自分の背を一瞬だけ軽く触れ合わせ、血走った目をしている大型魔獣を鋭く睨みつけた。
その様子を見ていたトクオミは、拍手をして楽しんでいる。
完全にショーの観客だ。
苛立ちを隠さないセイゴウが呪文を唱えて剣を振ると、かまいたちのような剣撃がトクオミに直接飛ぶ。
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