初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより

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初夜の翌朝失踪する受けの話

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 俺、小鳥遊たかなし直巳なおみはそれなりの家柄に末っ子として生まれた次男だ。兄と姉が1人ずつ、彼らと10は離れている俺は自分でもいうのも何だけど、結構可愛がられていた。
 両親が経営している会社の業績は順調、会社は優秀な兄さんが継いで、姉さんは許嫁と結婚することが決まっていた。だから俺が政略結婚とか、家の為に何かをする必要は特になかったのだ。兄さんたちが口癖のように「直巳は好きに生きていい」と言っていたのもあって俺も家とは関係ないところで生きていくものだと思っていた。兄さんや姉さんと違って秀でたとこが何もない俺が家の為に何か出来るとは思えなかった、というのもある。

 それが一変したのは15歳の春のことだ。
 神崎家から見合いの申し入れがあったのである。
 神崎家といえばうちよりもはるかに歴史のある、所謂名家である。どちらかといえば新興勢力の小鳥遊家と並ぶとなるとギリギリ釣り合うかどうかだ。小鳥遊家が見合いを申し込むことはあっても(それも家人が見る前に弾かれる可能性の方が高い)逆はない。じゃあどうしてこんなイレギュラーが起こったのかと言うと理由は簡単、当時の神崎家は、言葉を選ばずにいうなら落ちぶれていたのだ。会社の業績だけを比べると小鳥遊家の半分くらいだったと思う。

 男である俺に白羽の矢が立った理由はいくつかあるらしいけど詳しくは知らない。理由を知った兄さんたちが烈火のごとく怒って俺の耳を塞いだからだ。俺のために怒っているのは分かっていたからあえて聞くこともしなかったけど、彼らの様子を見るに相当ロクでもない理由だったのだろう。何はどうあれ政略結婚だ。
 俺の家族は俺以外全員会う前から反対した。それはもうデモ隊もかくやという勢いで反対していた。やれ歳が離れすぎているとか、あの神崎とはいえ斜陽な家にうちの可愛い直巳をやるわけにはいかないとか、申し入れる立場ならそれらしくしろ具体的に言うと頭を下げろ、とか。うちの家族は母さん以外みんな気が強いのだ。
 そんな中、反対する兄さんたちを押し切ってお見合いをしたがったのは他でもない俺だ。
 ここだけの話、釣書の写真がめちゃくちゃ好みだったのだ。もう本当に、ストライクゾーンド真ん中だった。


 12、3歳頃から女の人より男の人が好きな自分に気づいていた。けど、それを誰かに伝えたことは一度もなかった。俺がうんと小さい頃に同性婚が承認されて以来同性愛は一般的になりつつあるとはいえ、上流階級の中ではまだまだ風当たりがキツかったから。そんな環境の中で自分のことを公にするのは俺にとってめちゃくちゃ勇気がいることだったのだ。

 兄さんも姉さんも、もちろん両親だって俺が同性愛者だからって態度を変えるような事はしないことは知っていたけど、周りは違う。俺がそうだと周囲の人が知れば必ず兄さんたちが嫌な思いをする。姉さんの縁談だって破談になるかもしれない。それが何よりも嫌だった。家族はそのくらい大したことないと笑い飛ばすであろうことは容易に想像がついたけど、ただでさえ俺は小鳥遊家の居ても居なくても変わらない二男坊と揶揄されているのに、これ以上大好きな家族に迷惑はかけれなかった。
 そんな俺がこっそり男の恋人を作れるだろうか。無理である。
 それでも恋人への憧れを捨てきれずにいたら、顔がめちゃめちゃ好みの男から見合いが申し込まれたのだ。
 釣書だけじゃ性格までは分からないけど、俺が普通に過ごしていたらまず間違いなく付き合うことも、知り合いになることさえ叶わない人だ。そんな人と結婚出来るかもしれないときて前のめりに飛びついてしまった俺は悪くないと思う。

 姉さんたちは政略結婚だったけど、お互いに一目惚れで政略結婚ってなんだっけ?って思うぐらい仲が良かったのも俺の背中を後押しした。俺もそうなるかもしれないと、ちょっと、ほんのちょっとだけ期待していたのだ。


 まあ、現実はそんなに甘くなかったんだけど。
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