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初夜の翌朝失踪する受けの話
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目の前のイケメンに圧倒されて固まっている俺をよそに、兄さんはついに現れた見合い相手を品定めするかのように頭の先から爪先まで視線を滑らせ、それからふん、と鼻を鳴らした。神崎さんは、そんな兄さんの失礼な態度に苦笑いだけして、兄さんが視線を外したところで俺に向き直った。
「はじめまして、神崎恵かんざきめぐみです」
「えっ、はっはじめまして」
小さく首を傾げて片手を差し出す神崎さんに、俺は挙動不審になりながらペコリと頭を下げて、それからすぐにそうじゃないと慌てて右手を差し出した。羞恥で小さく震える俺の手が取られる。
どこをとってもスマートな彼と比べて鈍臭い自分が恥ずかしくてじわじわと顔が熱くなる。言い訳するなら、まさか兄さんよりも先に俺に挨拶してくるとは思っていなかったのだ。
「ごめんね、学生は握手なんてしないよね」
「い、いえっ、すみません…」
優しくフォローされたけどそれすら申し訳なくて視線を下に落とした。思っていたよりも力強く握られた手もいつ離せばいいか分からないし、これ俺から離したら失礼になるとかあったっけ?
「えっと、小鳥遊直巳です」
よろしくお願いします、とせめてそれだけは顔見て言おうと俺は神崎さんを伺うように見上げた。彼の柔らかな茶色の瞳に不安そうな顔をした俺が映っている。
「……」
「…?」
何か考えているのか、じっと俺を見つめる神崎さんを見つめ返しながら俺は小さく首を傾げた。俺たちの間に沈黙が流れる。
――ゴホンゴホン!
わざとらしい咳払いの音。誰のか、なんて言うまでもない。
「兄の、小鳥遊一郎です。どうもよろしく」
兄の、を殊更強調した兄さんの声と共にパッと神崎さんの手が離れた。ぼんやりしててタイミングを逃した俺の手が空中に取り残される。
何となしに兄さんの方へ顔を向けると貼り付けたような笑みを浮かべていた。兄弟だから分かる、あれは怒っている顔だ。しかも、勘違いじゃなければ俺の手を見ている。とりあえずそっと手を戻した。
「…こちらこそ」
と神崎さんが硬い声で言った。兄さんたちは握手しないんだなあ、とぼんやり眺めていると、神崎さんがそれじゃあ、と口を開いた。
「直巳くんと2人きりにさせていただいても?」
「は?」
今のは?は兄さんだ。何言ってんだコイツ、の顔をしている。兄さんの様子を気にした素振りも見せず神崎さんは平然とした顔で続けた。
「平日の昼間ですし、お兄さんも忙しいでしょう」
直巳くんは私が責任を持って送り届けますから、と神崎さん。兄さんの口元がひくりと小さく痙攣した。
「有給を取りましたので、お気になさらず」
「…それは、なるほど」
神崎さんはパチパチと目を瞬かせた。驚いている、と言うよりこれは多分引いてる顔だ。俺は兄さんからそっと目を逸らした。
「直巳くんはどう?」
神崎さんがパッと俺の方へ顔を向けて言った。
「え」
キラキラとした笑顔が眩しい。気のせいかもしれないけど、どことなく圧を感じる。
「えっと、はい」
俺は流されるままに頷いた。
「直巳、よく考えろ」
と、兄さん。俺はでも、と視線を彷徨わせた。
「一応お見合いだし…」
神崎さんと2人きりになりたい、という下心ももちろんあった。
兄さんがぎゅっと眉間に皺寄せる。神崎さんは満足そうに笑っている。
「そういうことなので」
「……1時間で返してください」
渋々、という体を隠そうともしない兄さんが言った。兄さんとは対照的に、神崎さんはにこやかに頷いている。
何となくまとまりそうな雰囲気とは反対に、今度は俺の心臓がバクバクといい出す。勢いで頷いちゃったけど、兄さんの言う通り早まったかもしれない。
庭園でいい?と言う神崎さんに俺は服の裾を握り締めながら小さく頷いた。
「はじめまして、神崎恵かんざきめぐみです」
「えっ、はっはじめまして」
小さく首を傾げて片手を差し出す神崎さんに、俺は挙動不審になりながらペコリと頭を下げて、それからすぐにそうじゃないと慌てて右手を差し出した。羞恥で小さく震える俺の手が取られる。
どこをとってもスマートな彼と比べて鈍臭い自分が恥ずかしくてじわじわと顔が熱くなる。言い訳するなら、まさか兄さんよりも先に俺に挨拶してくるとは思っていなかったのだ。
「ごめんね、学生は握手なんてしないよね」
「い、いえっ、すみません…」
優しくフォローされたけどそれすら申し訳なくて視線を下に落とした。思っていたよりも力強く握られた手もいつ離せばいいか分からないし、これ俺から離したら失礼になるとかあったっけ?
「えっと、小鳥遊直巳です」
よろしくお願いします、とせめてそれだけは顔見て言おうと俺は神崎さんを伺うように見上げた。彼の柔らかな茶色の瞳に不安そうな顔をした俺が映っている。
「……」
「…?」
何か考えているのか、じっと俺を見つめる神崎さんを見つめ返しながら俺は小さく首を傾げた。俺たちの間に沈黙が流れる。
――ゴホンゴホン!
わざとらしい咳払いの音。誰のか、なんて言うまでもない。
「兄の、小鳥遊一郎です。どうもよろしく」
兄の、を殊更強調した兄さんの声と共にパッと神崎さんの手が離れた。ぼんやりしててタイミングを逃した俺の手が空中に取り残される。
何となしに兄さんの方へ顔を向けると貼り付けたような笑みを浮かべていた。兄弟だから分かる、あれは怒っている顔だ。しかも、勘違いじゃなければ俺の手を見ている。とりあえずそっと手を戻した。
「…こちらこそ」
と神崎さんが硬い声で言った。兄さんたちは握手しないんだなあ、とぼんやり眺めていると、神崎さんがそれじゃあ、と口を開いた。
「直巳くんと2人きりにさせていただいても?」
「は?」
今のは?は兄さんだ。何言ってんだコイツ、の顔をしている。兄さんの様子を気にした素振りも見せず神崎さんは平然とした顔で続けた。
「平日の昼間ですし、お兄さんも忙しいでしょう」
直巳くんは私が責任を持って送り届けますから、と神崎さん。兄さんの口元がひくりと小さく痙攣した。
「有給を取りましたので、お気になさらず」
「…それは、なるほど」
神崎さんはパチパチと目を瞬かせた。驚いている、と言うよりこれは多分引いてる顔だ。俺は兄さんからそっと目を逸らした。
「直巳くんはどう?」
神崎さんがパッと俺の方へ顔を向けて言った。
「え」
キラキラとした笑顔が眩しい。気のせいかもしれないけど、どことなく圧を感じる。
「えっと、はい」
俺は流されるままに頷いた。
「直巳、よく考えろ」
と、兄さん。俺はでも、と視線を彷徨わせた。
「一応お見合いだし…」
神崎さんと2人きりになりたい、という下心ももちろんあった。
兄さんがぎゅっと眉間に皺寄せる。神崎さんは満足そうに笑っている。
「そういうことなので」
「……1時間で返してください」
渋々、という体を隠そうともしない兄さんが言った。兄さんとは対照的に、神崎さんはにこやかに頷いている。
何となくまとまりそうな雰囲気とは反対に、今度は俺の心臓がバクバクといい出す。勢いで頷いちゃったけど、兄さんの言う通り早まったかもしれない。
庭園でいい?と言う神崎さんに俺は服の裾を握り締めながら小さく頷いた。
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