聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん

文字の大きさ
27 / 241

でるんです‥‥

しおりを挟む
「出立─────」

 まだ陽も登らぬ暗がりの中、騎士団の一団が砦から列をなして出てきた。

「隊長。盗賊退治ですよね?こんなに人数揃える必要あったんですか?」

 隊員は討伐対象の盗賊が、それ程の規模とは思えなかったが、自分の後ろには過剰とも思える戦力が列をなしていた。それに付随する荷車も続いている。

「行先が行先だからな。さすがに魔獣の巣窟の奥地って訳じゃないが、相当数の冒険者が依頼を受けたが、誰も帰還してないらしい」

 本来これぐらいの案件ならば、冒険者ギルド内で片が付くはずだが、それがかなわなかった。この盗賊は従来とはなにかか違うと踏んで、多めの人数となったのだ。、

「お嬢が引き受けちゃったからな~」

 軽い口調で会話に乱入してくる奴を、隊長は睨みつける。

「ラング!姫様と呼べと何度注意しましたかっ!」

 自分が注意する前に、隣にいたフリートが声をあげる。それからいつもの小言が続くのだが、当の本人は「だって、お嬢がそれでいいって言うしさ~」とまったく聞いてない。 確かに我らがお守りする姫様は、その身分に驕ることはなく、下級騎士や平民、農民達にも分け隔てなく接してくださる。
 それゆえ、砦には各町の代表や村長、挙句の果てにはギルド長までがやってきて、姫様は、それに答える事となった。
 
「姫様はご自身の体が芳しくないのに‥‥‥‥」

「ご自身は大丈夫だからと、押し通されましたから」

 姫様は代表者達に直接会ってはいない。会える状況じゃないのだ。
 それでも、彼らの訴えを聞き入れ、答えてやってくれと私達に頼んだ。

「冒険者も参加してるよな?」

「彼らのたっての希望です。無償でいいから自分達も参加させろと」

 騎士団の後方には、冒険者たちが数人付いてきていた。自分達も黙ってられないから、参加させてくれと直談判に来たのだ。「熱いね~」とラングが呟くが、自分達も拒否する事はなく、帯同を許した。

「それに引き替え、あいつらは‥‥‥‥」

 隊の主力である二人組は、行先が『深淵の森』と知るや否や、「自分達は姫様をお守りしますっ!(ビシッ!)」と、もっともらしい理由を並べて拒否しやがった。まあ、姫様の護衛を手薄にするわけにはいかなかったが「アソコハ、イヤ‥‥」「ムリ。ゼッタイムリ‥‥」と目のハイライトが消えるのは、騎士としてどうなんだ。

「隊長達も行ったんですよね、奥地まで。───見ましたか?」

 ─────何を?三人して首をかしげるが

「あの二人組、言ってたじゃないですか。────出るって」
 
 確かにあの二人組は、奥地から帰ってきた時「出た!出たんだ!」「めっちゃご機嫌で笑って」「‥‥あの森にはきっと出るんだ」「「コワい」」としばらく部屋から出てこなかった。

「真っ昼間に亡霊が出るかよ」

「目標物も見つかりませんでしたしね」 

「あったのは魔獣が争った痕跡ぐらいだったな‥‥‥‥」

  ─────頭〇字 G

  ────三人同時にぞわっとする。
  倒してくれたであろうフェンリルに、そっと感謝する。

「すごかったんですか?自分も見たかったな~」

 なんてお気楽な感想をもらす隊員に「やめとけ」と忠告する。

 うっすらと夜が明ける気配が漂ってきた頃、前方に『深淵の森』の姿が見えてきた。
  相変わらず規模がでかい。これでも『深淵の森』のごく一部らしいから、いったい全体どれだけ広いのか。

「───おい。何かくるぞ」

 ─────お気楽ムードは終わりを告げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...