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19.親友
しおりを挟む瑛士さんも、忙しいけど、オレもなかなか忙しい。
勉強しなきゃいけないことが、山ほどある。
大学によって少し違うのだろうけど、一、二年生は、医師としての基礎を学んだ。
生物学や化学、英語、統計学などなど色々な一般教養と、それから、解剖学、生理学、薬理学、病理学といった基礎医学。
二年の後半からは、臨床の実習も始まり、実際の患者さんと話したり、バイタルサインを測ったりもするようになった。
三年生になってからは、臨床医学を本格的に学んでる。症状や検査の結果から、どんな病気が考えられるか、そんな訓練もする。講義に来てくれるのは大学病院で働く医師たちも多くて、実際の症例で学ぶことも多い。その他にも、自分でも講義の動画を見て勉強したり、本を読んだり、もうとにかく、覚えること、知らなければいけないことは、山のようにある。オレは、Ωを専門にしたいから、Ωについての勉強も人一倍しないといけない。
授業時間の合間、学内の喫茶店。
図書館で借りてきた本を積んで読んでいると、隣に人の気配。目を向けると、そこには、親友の姿。
「お疲れ、凛太」
「あー、おはよ、竜」
隣に腰かけた竜に、本をいったん閉じた。
「――どう、新婚生活」
ニヤ、と笑ってくるけど。
「いや、まだ結婚してないから」
「つか、いつすんだっけ?」
「んー。瑛士さんの家族。ほら、偉いおじいちゃんとか、お父さんとかに了承貰ってから」
「ああ。いつくらいになんの?」
「段取りは、瑛士さんに任せてるから。まあ別にオレは急ぐ必要ないし」
「ふーん……」
と。言いながら、持ってたコーヒーを飲み始める、芳岡 竜。大学に入ってから出会った。まだ友達三年目だけど、なんか一番気が合うというか、楽ちんというか。
αの竜に、Ωだとバレたのは、ヒートの後だった。「なんか今日、匂う」とか言われて――まっすぐな目に、嘘がつけなかった。
最初はバレちゃってどうしようかと思ったけど、竜は誰にも言わないし、オレとは完全に友達のまま。
たまに、「ヒート三日で落ち着いた~」とか思いながら浮かれて大学に行くと、気付いた竜に「帰れ」とか注意されたり。なんか、なぜか竜は、オレの匂いが分かるみたい。
まあ、オレと竜って、まったくそういう雰囲気もないし。
竜の好みは、気が強そうな、超綺麗なαの女の子らしいから、オレとはかけらもかぶらない。
竜曰く「匂うけど、反応しないから平気」とか。え、どんだけ、オレのフェロモンて弱いの? って、そのたび思うけど。まあ他の人には気づかれもしないから、竜がものすごく敏いのか。
まあ、バレたけど、なんか全然普通に仲良し。
竜は、まっすぐな黒髪で、少し長めの髪をたまに掻き上げる。ぱっと見はクール、というか……冷たく見えるみたいで、毒舌というか、ぶっきらぼうに面倒くさそうに話すし。特にあんまり好きじゃない奴への対応はちょっと、クールすぎるけど。
眼鏡越しに、冷たく思える視線が飛んできて、ビビる人はいるけど、オレは、その視線が、たまにおかしそうに緩むとこまで見ていられるから、竜のことは怖くない。
今はお互い白衣だけど、いつも割と、きちんとした格好をしている。ジャケットとか。カッコイイ奴なんだけど、私服は崩して着るから……まあ、それも、ガラが悪くて怖いと感じる人は居るみたい。
困ってると助けてくれたりするし。――でもなんか余計なこと言って、ぐっさり刺して笑ったり。
基本的にはいい奴なんだけど。周りに「良く分からない」と思われがち。
何で仲が良いかは――オレが、竜のこと、平気だからかも。怖くもないし、圧倒されもしないし。
出来も良くて、特別視されがちな竜は、フラットに話すオレが楽って、前言ってた。
瑛士さんに、「友達一人だけ、契約結婚のこと、話したい」といった相手は、竜。
――と言っても。
契約結婚の話をしたら、すっごい、嫌そうな顔を、された。
少し説明した時点で、大きなため息とともに、
「ほんとに結婚するっていうなら、超祝福してやるけど。だって、なんかお前、一生そういうこと無さそうだから……」
と、結構ひどい言われ方もした。まあ事実だけど。
あとは、「初対面でそんなこと頼む奴、ろくでもないから関わるな」っていうのも、かなり言われた。
でも、一つ一つ、説明して、オレと瑛士さんの状況と、メリットとデメリットを話してたら、その内「まあ、ありか」と言ってくれた。
そういうとこ、結構好き。
ちゃんと考えてくれて、最初にした反対も、覆してくれるとこ、とか。
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