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52.ホットミルク
しおりを挟むオレが本を読み終えると、瑛士さんがパソコンを閉じた。
シャワーを浴びようってことになって、瑛士さんが部屋に戻っていった。オレは、お風呂から出て髪を乾かしてから、鍋に牛乳を入れて弱火にかけた。かき混ぜながら、スマホを確認。
さっきの相談。二人が回答をしていた。
栗さんはたぶん男の人。ゆうママさんはママさん。
どちらも、質問者に気を使いながら、多分正しいと思われる回答をしていた。
納得いかないのは分かる、と寄り添いながら。運命の番について少し書いて、あなたが悪かった訳じゃない、とか。未来を見つめて、とか。そんな感じ。書き方も優しいし、さすがだなあという感じ。
ゆうママさんは表の垢のかなり初期からの付き合い。栗さんは、裏を作ってから、ゆうママさんの紹介で入ってきてくれた人。
オレは、牛乳をかき混ぜながら、文字を入力した。
「オレの知人が言ってたんですけど……いつどう出会うかも運命なんだって。少し違ったら違う関係だったってことは普通にあることで。「運命の番」だからじゃなくて、ほかの皆も、運命的に出会ったりするのかも、と思いました。良い出会いがありますように、願ってます。辛くなったらまた、皆でお話しできたらと思います」
そう打った。
んー。――これで良かったかなあ。
……運命の番ってだけにとらわれると。そんなものにって、落ち込んじゃうと思って。
人の出会いは皆運命なんだって。書きたかったんだけど、伝わったかな。うーん。生意気言って、すみません、て書いとこうかな。うーんうーん……。
悩んでたら、少し沸騰し始めてた。慌てて、火を止めた。
ミルクフォーマーで泡立てから、マグカップに注ぐ。少し冷めたらはちみつ入れよ。
スマホを見ると、相談者さんから。ドキドキしながら見ると。
ありがとう、と一言目に。
ちゃんと、思ったこと、伝わったみたい。まだ辛いけど、どうしようもないし、前を向きます、て入ってた。そしたら、皆が、がんばれっていうスタンプを送ってる。
――あ、良かった。
ていうか、ゆうママさんと、栗さん、ほんと頼りになる。他にもいろいろな人がいるので、なんか、管理と言ってもそこまで大変じゃないのが、続けられてる理由だよな。いつか会ってみたい人も何人も居る。
オレが医者になったら。
困ったらオレの所に、って。言ってあげられるようになったら、いいなあ……。
スマホを閉じて、充電器に差したところで、玄関があいた。
「瑛士さん?」
ドアを開けると、玄関から入ってきた瑛士さんを見て、意外で見惚れる。襟付きのちゃんとしたパジャマ。シルクとかなのかな、テカテカしてて綺麗。ネイビー、似合う……。
「瑛士さんて、パジャマなんですね」
「凛太は、Tシャツなんだね」
まあオレは別に、ちょっと古くなったTシャツを家で着てるだけだから。あんまり見ないでほしいのだけど。
「なんか瑛士さんて、ちゃんとしてますよね」
ふふ、と笑って言うと、「そう?」と笑ってる。
「はちみつ入れて持ってくので、座って待っててください」
「ん」
瑛士さんは、さっきオレが占領してたクッションに埋まってる。
――なんか、ちゃんとパジャマを着て、髪の毛ふわふわで、あんなクッションに埋まってると――可愛い。
はっ。
――あれ、なんかそういえば、オレも瑛士さんを見てて、心の中で、可愛いって、何回も言ってるかも。
……なんか、これは口に出しては言えないな。
ちょっと苦笑してしまいながら、少しだけ冷めたホットミルクにはちみつを入れて、良く溶かす。
瑛士さんに渡すと、ありがとう、と見上げられる。
凛太もどうぞ、と少しどいてくれるから、オレも、クッションに寄りかかる感じで、瑛士さんの隣に座った。
湯気が立ち上るマグカップを両手で包み込む。
指先があったかい。瑛士さんがゆっくり、マグカップに口をつける。オレも一緒に一口。
「――おいしいね」
「うん。おいしいですね」
はちみつがめっちゃ高そうだからかな……と、ちょっと思って、おかしいけど。
「なんか、心のなかまであったまる感じがする」
瑛士さんが、しみじみそんな風に言ってくれて、なんだかとっても嬉しくなる。
「二人で飲むと、余計な気がしますよね」
ついついそんな風に言ってしまった。
すると、瑛士さんは、ふ、と微笑んで、「そうだね」と頷く。
照れくさくなって、「飲んだらすぐ、歯を磨いて寝てくださいね」と伝えると、「ん」と頷いてくれる。
「少し眠れないからって、起きちゃだめですよ?」
「……ん」
ふふ、と瑛士さんが微笑んでいる。
「たまに、お母さん、みたいな時、あるよね、凛太」
「……そうですか?」
お母さんかぁ。と、苦笑しながら、ホットミルクをまた口にする。
窓の外を見ると、もう真っ暗。
「なんか、これはほんと、おいしいかも……」
ゆっくり話す瑛士さん。
――出会ってそんなに経ってない。契約結婚の相手。
一緒に居るのが不思議なのに。なんか、一緒に居るのが普通みたいな、変な感覚。
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