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60.癖になったら。
しおりを挟む「……瑛士さんて、変わってますよね」
「うん? そう?」
「――そんなこと、言われたの、初めてかも。そんな意味で、感謝、なんて……」
じわ。と。何でか涙。
――あれ? なんだろ。気づかれないように、ちょっと顔を背けたのだけど。息を吸ったら、鼻が少し音を立てた。え。オレ、泣いてる??
「凛太?」
瑛士さんが、多分変にしてる。「何でもないです」と言って、オレもお布団にくるまって横になった。――何でオレ、涙? 良く分かんないな……。情緒不安定、みたい……飲みすぎちゃったかな……?
瑛士さんが動く気配がして、部屋の電気が消された。
「凛太」
瑛士さんの手が、肩に触れたと思ったら。体の下に瑛士さんの手が入って、そのまま、あっという間に抱き寄せられた――みたいな。
後ろから、ぎゅ、と包まれる。
「なんか凛太って――ちっちゃいよね」
くす、と笑う、優しい声。
「瑛士さんがでっかすぎるんですよ……」
オレも笑って返すと、瑛士さんは、「そっか」とまた笑った。それは、本当に、全部包まれちゃうような気がする、優しい声で。
「何か、オレ――凛太がここに居てくれて、嬉しいんだよ。会ったばっかりで、何言ってんのって感じかもしれないけど」
「――」
「知り合えて本当に良かったと、思ってるんだよね……」
ぽつぽつ、ゆっくりと話す瑛士さん。なんだか、胸の奥の方が、きゅうって、痛い。この感覚は、何なんだろう。良く分かんない。
「あのさ――オレがすることで、凛太が嫌なこと、あったら言って。言ってくれたら、ちゃんと考えて、自重できるところは、するから」
「……はい」
「言われなかったら、オレ、したいようにするから。嫌ならすぐ言って」
「……したいようにするって……αっぽいですね……」
「――」
瑛士さん、黙ってしまった。オレの言う「αっぽい」はきっと嫌な意味で取れるんだろうと気づいたオレは。
「とりあえず……いまのところ、瑛士さんがオレにしたり、言ってくれたことに、嫌なことは、ないです」
そう言ったら、後ろで、ホッとしたように息をつく瑛士さんに、きゅ、と抱き締められた。抱き締められたというよりは、なんか、包まれてる感覚だけど。瑛士さんの鼓動が、背中越しに伝わってきて――なんか、すごく、安心する。
「……嫌なことあったら、すぐ、言いますから。言わない限り、好きにしててください」
「――ん、分かった。少しでも、ん? て思ったら、言ってね」
「分かりました……」
「――これ、嫌じゃない?」
「……嫌、ではないですけど」
「けど?」
「……抱き枕化されてる気分ですね」
「――」
少し間を置いて、瑛士さんは、ぷは、と笑い出した。クックッと、揺れてる瑛士さんの震動が、ダイレクトに伝わったくるから、なんか、楽しくなってくる。
「可愛い抱き枕だよね」
「あ、やっぱり抱き枕……」
「オレが言ったんじゃないよ」
クスクス笑う瑛士さん。
「さっき、凛太さ……くっついて寝てるから邪魔じゃないか、とか言ってたでしよ?」
「あ、はい」
頷いて、次の言葉を待っていると。
「あれ……凛太がくっついてきてる訳じゃなくて、夜中にオレが引き寄せてるだけだから。ちなみに、連れて帰ってきた時もね」
「……あ、そうなんですか……?」
「なんかスヤスヤ寝てるの可愛くて、つい……凛太抱っこしてると、なんか安眠するみたいで」
「――やっぱり抱き枕みたいですね」
ふふ、と笑うと。「可愛い抱き枕だよね」と、瑛士さんも笑う。
「瑛士さん、可愛いって、言いすぎですよ」
「嫌?」
「嫌とかじゃないんですけど……あまりに言われ慣れてなくて、言われるたびに、不思議な気持ちになります」
そう言うと、瑛士さんはクスクス笑って――「オレも不思議」とか言う。
……不思議?? 瑛士さんも?
言ってるの瑛士さんなんだけど……不思議?
良く分かんないなあと思いながらも、大きなあくびが。
「ん。おやすみ、凛太」
「はい……おやすみなさい……」
なんか、全身、ぽかぽか暖かくて。
――こんな寝方、癖になっちゃったら、どうしよう……なんて思いながら。でも、抜け出す気分にはならなくて。そのまま、あっという間に眠りについた。
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