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76.水族館
しおりを挟む昨夜は早めに寝て、軽く朝ごはんを食べてから、瑛士さんの車に乗って、雅彦さんをお迎えに出発。
めちゃくちゃ青空が綺麗な朝。わくわくしてる。
「楽しそうだね、凛太」
途中、瑛士さんが、ちら、とオレを見て、クスクス笑った。
めちゃくちゃカッコいいサングラス姿の瑛士さんに見惚れつつ、「はい」と頷く。
「瑛士さん」
「ん?」
「オレ、そんなにサングラスが似合う人、初めて見たかもです」
「え、そう?」
「はい」
「それはありがと」
ははっ、と瑛士さんが笑う。
「凛太、行く前から楽しそうすぎて、こっちまで楽しくなってきた」
「水族館、ほんとに久しぶりなので」
「じいちゃん、お手柄」
そんな風に言って、瑛士さんがクスクス笑ってる。
そんなはしゃいじゃってるかな。ちょっと落ち着こう。
……そう思うけど、でも、嬉しくて。
母さんと行ったのは、子供の頃。体調悪くなってからは行けなかったし。
オレ自身も、大学入るまでは勉強が忙しくて、入ってからも忙しくて。あんまり遊びとか考えなかった。無駄なお金、使いたくなかったし。
父に医学部のお金を出してもらうのも嫌だったけど、さすがに医学部の学費は、オレが勉強しながら稼げる金額じゃなくて、最初から割り切ったけど。
いつか返すつもりでいるから、無駄な出費は極力減らすように頭が向いてるんだよなぁ……。
多分、父は、βのオレが勉強は出来て、医者になりたいとか言ったから、医学部のお金も出してくれたんだろうけど……もともとΩだって分かってたら、出さなかったに違いない。
なんて考えていたら、瑛士さんがオレに視線を向けて、楽しそうに笑った。
「今日だけは、勉強のことは忘れて、めいっぱい遊ぼうね」
「はい」
「オレも今日は仕事のこと忘れる」
うんうん頷いて、流れる景色を眺める。
たわいない会話も楽しくて、二十五分の道のりはあっという間だった。雅彦さんのマンションの駐車場で助手席を下りて、そのマンションを見上げた。
……ひえー。なんか、すごい。
瑛士さんのマンションも豪華だけど……もっと大人っぽいデザイン。エントランスを外から見るだけでも超高級そう。
国内有数の巨大グループの偉い人、かぁ。
一月の収入とか、どれくらいになるんだろ? って、一月、とかでは考えないのかな。想像もつかないなぁ。
って、よく考えると、オレの周り、なんかすごいαが何人も居るような気が……。
父始め、学生時代から周りに居た偉そうなαたちにはあまり関わりたくなかったんだけど。
瑛士さんと、その周りにいるαや、教授たちや竜は、好きだなぁ……。ちょっと好きなαの比率が増えてきた。
なんて思っていると。
エントランスから、おしゃれな私服姿の雅彦さんが現れた。
白のVネックのTシャツに、黒の細身のパンツ。グレーの長袖ジャケット。
わー、イケメンおじいさんだ。
「おはよう、凛太くん」
「おはようございます!」
「いい天気で良かったね」
ふ、と微笑まれて、はい、と頷く。
「おはよ、じいちゃん」
「おはよう。……なんだか今日は雰囲気が違うな」
雅彦さんは、瑛士さんを見て、クスッと笑った。
「水族館だから。動きやすいカッコにした」
ちなみに今日の瑛士さんは、白のインナーに青のシャツ、黒のズボン。シルバーのアクセサリー。
朝、着替えてきた格好を見たら、いつもの大人っぽい格好と雰囲気が違ってすごく可愛く見えたので、ついつい「今日、可愛いですね」と言ってしまったら、「凛太に合わせたんだよね」と笑った。
「そっかー可愛くて良かった」
と、瑛士さんはご機嫌だった。オレは普通に、黒の薄手のセーターにジーンズ。合わせたと言うけど、別にオレは可愛くはないけれど。
瑛士さん、髪型もセットしてなくて、フワフワしてて、なんか本当に可愛い。
スーツ着て髪型セットしてると大人っぽくて、完全に社会人だけど、今日の瑛士さんとオレは、学生同士とかに……見えるのかなあ? 若く見える。
そんなことを思いながら、高級そうな車の隣に立つ、なんだか絵みたいな二人に、思わず首を傾げてしまう。
何でオレ、この人達と、水族館……??
楽しみだけど、謎すぎて、不思議。
「まあ出発しよ。車乗って」
「はーい」
瑛士さんに返事をして、さっきまで乗ってた助手席ではなく、後部座席のドアを開けた。
「雅彦さん、前にどうぞ」
「――ありがとう」
ふ、と微笑む雅彦さんに頷いて、オレは後ろに乗り込んでシートベルトを付けた。
瑛士さんと雅彦さんが仕事の話をしてる間は、景色を眺め、話を振られたら返事をする感じで、楽しく過ごしていたら、次第に海が近づいてきて、水族館にある観覧車が見えてきた。
子供の時は、母さんと電車を乗り継いで来たっけ。あの時は、すごく遠く感じてたんだけど――こうして来てみると、意外と近いんだなぁ……懐かしい。一緒にあの観覧車、乗ったっけ。怖かったけど……もう今なら怖くないかな。
窓越しに観覧車を眺めていたら、駐車場に車を止めた瑛士さんに「観覧車乗りたい?」と笑み交じりに聞かれた。
「――なんだか、すごく懐かしくて」
バックミラー越しに瑛士さんと目が合うと、瑛士さんは、ふふ、と微笑んだ。
「いつでも連れてくるからね」
「――はい」
そんなに来る暇は、ないんだろうけど。
そう言ってくれるのが嬉しくて、オレは頷いた。
水族館の中は、子供の頃の記憶、わくわくする感じのままだった。
たくさんの水の生き物たち。可愛かったり、大きかったり、不思議だったり。気分は小学生に戻ったみたいな。
くらげが綺麗で、ほー、と眺めていると。瑛士さんに写真を撮られた。
「え? 今オレを撮りました? くらげ?」
「んー、くらげも撮ったけど、凛太がメイン」
クスクス笑いながら、撮った写真をオレに見せてくる。
「間の抜けた顔してるので消してください……」
「え、何で。可愛いし」
「可愛くないです……」
ほんとに可愛くないんだけど、なんだか瑛士さんはご機嫌で。
「誰にも見せないから、消さなくていい?」
「瑛士さんが見ちゃうじゃないですか……」
「いいじゃん、オレだけなら」
瑛士さんは、めちゃくちゃ楽しそうに笑う。その隣で、雅彦さんは、クスクス笑っている。
「さっきから瑛士は、何回可愛いって言ってるんだか……」
雅彦さんの苦笑に、オレもそう思ってました……と心の中で返事をした。
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