90 / 142
90.瑛士さんは?
しおりを挟むそれから大水槽のすぐ近くに寄って、しばらくは何も考えずに、ただただ綺麗な光景を、ぼーっと眺める。
優雅に目の前を泳いでいくエイがとても大きくて、びっくり。
「瑛士さん、エイって乗れそうですね……」
「……乗れるかな?」
「ふわふわ飛んでくれそう……」
「……魔法のじゅうたんと勘違いしてる?」
「――そうかも」
二人でクスクス笑いながら、水槽の中に見惚れる。
「凛太、亀だ」
「うわ、でっか……!」
「これこそ乗れるんじゃない?」
「あ、最後におじいちゃんになっちゃうやつですね」
「そうだね」
瑛士さんが、ふ、と目を細めて、楽しげに笑いながら亀を見つめているのを見上げてから、オレも亀に視線を戻す。
「あー……今思ったんですけど……」
「うん?」
「亀に乗っても、海に入ったら、息できないですよね。アレ、よく考えたら不思議ですね」
そういえば今まで不思議に思ったこと無かったけど。イルカにお姉さんが乗ってた時も、お姉さんは顔は出してたなあなんて思ったら……亀は海の中に入ってっちゃうなと、変なことが気になった。
竜宮城の中はなんとなく、空気があるのかなって思ってたけど。って……本当に変なこと考えてるし、瑛士さんにこんな意味分かんないこと言っちゃった、オレ、と思った瞬間。
「ああ……肺活量すごかったとかかな?」
「――――……」
肺活量……? ずっと息とめてたってこと?
――――ていうかオレの言ったこと自体がおかしいけど、瑛士さんも相当……。
「……っっ」
不意に爆笑してしまいそうで、口を押えて、瑛士さんからも亀からも視線を逸らした。
「あれ? 凛太―? なんか言ってよ」
瑛士さんがクスクス笑いながら、オレの背に手を置く。
「ちょっと恥ずかしいじゃん、何か言ってって」
「――――………っ」
肩に触れられて、くる、と瑛士さんの方を向かされる。困ったみたいな顔を見たら、オレ、もう可笑しくて。
あは、と笑ってしまった。なんとか声だけは堪えて、笑いながら震えていると、瑛士さんも、ふ、と笑い出して――――……二人でクスクス笑い続けてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇
その後、なんとか笑いを収めて、大水槽を満喫してから、水族館の建物を出た。
「観覧車、乗りに行く?」
「あ、はい! 乗りたいです」
少し遠くに見える観覧車に向かって歩き出しながら、眩しい陽の光に目を細めた。そのまま瑛士さんを見上げて目が合うと、またさっきの話を思い出して、ちょっと笑ってしまった。
「……ていうか、瑛士さん、肺活量ってないですよー」
「えー? そんなこと言ったって、あの亀に乗ってる絵に、なんか超能力みたいなのとかが挟まる余地ないし。もう、息止めてたのかなって、軽く浮かんだんだよね」
「もうオレ、あんなに笑うこと、無いって思うくらいでした」
「……楽しそうでよかったけど」
「楽しかったですけど」
ふふ、と笑って即答すると、それは良かった、と瑛士さんに頭を撫でられる。
子供を撫でるみたいな気分なのかな、とふと思うと。
オレはなんだか唐突に聞きたくなって、瑛士さんを見上げた。
「瑛士さんは――オレと居て、楽しいですか?」
そう聞いたら、瑛士さん、ぴた、と歩くのを止めて、オレをまっすぐ見つめてくる。
水槽の青い光を受けた瞳も綺麗だったけど、陽の光の下だと、余計に紫色がキラキラする。何度見ても、綺麗。
その綺麗な綺麗な瞳の上で、少し眉が寄ったと思ったら――ぶにっと両頬をつままれた。
「……っ??」
横に広がった頬に、なすがままに、ただ、瑛士さんを見上げていると、瑛士さんはそんなオレを見て、なんだかとても面白そうに、優しく微笑んだ。
1,852
あなたにおすすめの小説
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる