「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」

星井 悠里

文字の大きさ
101 / 142

100.恋なんてそんなバカな

しおりを挟む


 カフェでサンドイッチとコーヒーで軽く済ませて、花火が見やすいという広場のベンチでスタンバイ。
 ――なんだかさっきから、足元からぽわんぽわんと弾んでるみたいな気分。

 今まで、こんなの、なったことないかも……。
 キスって。すごいなぁ……。

 ふんわりした気持ちでいる自分と。
 突然はっと気づいて、偽物の婚約者だし、契約上の結婚相手なのに、何をしてるんだろう、とか考え出す自分も、現れる。

 それから、さっきのセリフも、何度も頭に浮かんでくる。

「会ったばかりだから、オレが凛太に、愛してるよって言っても、嘘っぽいと思われるだろうから」

 ……って、何??
 普通に言葉として受け取ってしまうと、「愛してるけど、会ったばかりで嘘っぽく聞こえそうだから言わない」……になる。気がする。……言葉としては。

 でも、そんな訳あるはずもないし。
 ――瑛士さんの好意を示してくれる言葉の程度が、多分、オレのそれとはだいぶ違うのかもしれない。
 慣れてないから、いちいちおおげさに受けとっちゃうんだけど……
 世の中の大人の人って、皆、こんな感じのやり取りを日々してるんだろうか。……オレにはちょっとまだ早すぎるというか、数年後でも無理な気がする。

 真面目に受け取りすぎても変だし、笑って済ませるような顔で言ってない気もしてしまうし、でもなんだか、じゃあなんなの……? 戸惑いまくりだ。

「ごめん、ちょっと花火の前にトイレ行ってくる。凛太は?」
「あ、オレは待ってます」

 ん、と綺麗に笑って、瑛士さんは、歩いていった。
 オレは、ふと、思いついて、スマホで、竜に発信。

『もしもし』
「あ、竜? あのね、あのさ」
『んぁ? ちょっと、落ち着け』
 怪訝そうな声がする。一声で、動揺がバレてる。

「……あの……」
『ん』
「――き、すって」
『は?』
「キスって……付き合ってなかったら、しない、よね?」
『…………』
「…………? あれ? 竜??」
『……なんだって?』
 低い声がする。

「だから、キス、てさ。付き合ってなかったら、しちゃだめ、だよね?」
『――キスもセックスも、付き合ってなくてもしてる奴らはいるし、それで相性良ければ付き合うって奴らも居るし。お前が言うように、付き合ってないとしないってやつらも居る』
「……そ、そう……」
『――なんで?』
「なんか竜、怒ってる?」
『怒ってない。でも予想はついてるから、なにしてんだ、とは思ってる』
「――予想って?」
『瑛士さんにキスでもされた?』
「おー……すご……」
『…………』
「あ、でも違う。オレから、した」

 そこに、長い長い沈黙が流れた。通じてない? と思った瞬間、『は?』と低い声が響いた。

「……あのね、なんかついついしちゃって……軽犯罪かなって心配してたら、瑛士さんは大丈夫って言ってくれたんだけど……大丈夫かな?」
『――――……』

 安心したくて聞いたのだけど、しばらく返事がない。不安になったその時、なんだか変に息を吸い込む音がしたと思ったら、変な声がする。

「竜……?」

 ……どうやら笑っているみたい。声を押し殺してはいるみたいだけど。少しして、竜が「すみません」と誰かに話しかけてる声がして、少しして電話の向こう側が騒がしくなった。

『……お前、ふざけんなよ。オレ、今、静かな喫茶店に居たんだからな』
「あ。ごめん。大丈夫?」
『今店の人に声かけて出てきたから、大丈夫。……つか、何なの。お前からキスしたの?」
「うん……つい」
『――ふうん。急に何で?』

 なんだか面白そうな声色で。聞いてくる。

「……したくなった、としか……」

 しばらく、無言の竜。待っていると。

『……いいんじゃねえの? 瑛士さんにとって、キスくらい、なんでもねーことだろうし。お前がそういう欲が沸いたのは、それはそれで、凄いことなんじゃねえ?』
「……でも。……何でオレ、そんなことしちゃったのか……それに、その後、瑛士さんからも、キス、されて……」
『へえ……?』
「何か今、頭のなか、すごく、おかしくてさ。心臓っていうか、胃の辺りが、またすごく痛いし」
『心臓と胃? 何で』
「分かんない。なんかたまに、最近、息ができなくなるくらい、痛い時があって……」
『――それって、どういう時?』
「どういうって……」
「お前医者の卵だろ。どういう時にどう痛いのか、ちゃんと分析して分かるように話せ」

 そう言われて、確かに、と思って整理しようと試みるけど。
 いざ自分のこととなると、いつどうだったかとか、なかなか正確には覚えてないものだなぁと思う。
 患者さんたちの訴えが曖昧な時があるのも、実感として分かる気がした。

「とにかく、なんか最近多くて……いつって言えないような……ぎゅうって内臓掴まれるみたいに痛くなるし、苦しいっていうか……やっぱり病気かな? なんの病気だろう、これ」
「なあ、凛太。お前さ、切ないとか、そういう感情、分かる?」
「……何それ急に。バカにしないでよ、分かるし」
「それを自分の感情として、感じたことはあるかって聞いてんだよ」
「……えー。分かんないよ。どういうこと?」
「……お前が胸が痛いのって、瑛士さんがいる時か、それか瑛士さんのこと考えてる時か……それ以外って、あるのか?」
「え……え? ……どうだろ……まあ、最近、瑛士さんといることが多いから、一緒の時が多いかな……」
「じゃあ分かった。これからそうなった時、忘れないようにどんな時だったか書き留めておいて、オレに話せ。分かった?」
「……うん」
「――あと、お前が瑛士さんにキスして軽犯罪に問われることは、絶対無いから、安心しろ」
「あ、うん……ありがと」

 お礼を言うと、竜がまた少し黙ってから続ける。

「お前……そのトーンで、医者に行ったら、恥かくから行くなよ?」
「恥?」
「恋の病、とか言われたくないだろ、診察で。オレなら恥ずかしくて死ぬわ」
「恋の……えっ、何言って……」

 呆けた次の瞬間、カァっと顔に血が上った。

「へ、変なこと言わないでよ」

 オレがそう言った瞬間、隣に戻ってきた瑛士さんは、電話してるのに気づいたのか、小さな声で一言、ただいま、とだけ言った。多分真っ赤でいるオレと目が合うと、少し不思議そう。――ますます顔が熱くなる。

「りゅ、りゅう、とにかく……また掛け直す。ごめんね、ありがとう」
『おー。まぁ……頑張れ』

 何かを察知してるのか特に聞かずにそのまま電話を切った竜。
 それはありがたいけど。



 恋とか。そんなんじゃないし。そんなバカな。

 オレは、すっごく、痛くて苦しいって言ってるんだし。もう。


 むむむ、と、口を閉じたまま、スマホをしまう。












(2025/5/20)

100エピソード😊
ここまでありがとうございます。
まだ続きますので、2人を見守ってやってください~🥰🥰
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

処理中です...