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117.もしかして匂い……
しおりを挟む二人にコーヒーを出しながら、瑛士さんはオレの正面に座ると、オレが頑張って食べてるのを見て、ふ、と柔らかく笑った。
「無理して全部食べなくていいからね」
オレが頷くと、瑛士さんも「いただきます」と言って食べ始めた。
気づくと、瑛士さんの1.5倍くらいあるな、オレのオムライス……と、なんだか可笑しい。
残すのは嫌だけど、やっぱり全部は無理だなと思いながら、少しだけ食べるペースを落とした時、有村さんが言った。
「じゃあさっき、瑛士からの連絡通り、会長にはもう完全にばらしたってことでいいんだよな? 結婚じゃなくて婚約で、三年間押し通すってことでOKか?」
「そう」
オムライスを食べながら、瑛士さんが、有村さんに頷いている。すると、楠さんがオレの隣でクスクス笑い出した。
「それにしても、その話をしたのが水族館でって――なんで三人で行くことになったんですか? 不思議すぎるんですけど」
「ほんとだよな。何でそうなった?」
「あ、土産買ってきたぞ。あとで渡すから」
楠さんと有村さんが笑いながら言うと、瑛士さんはお土産の話をして返す。すると、有村さんが少し眉を寄せた。
「お前から、水族館の土産って……」
「何だよ」
有村さんが呆れたように瑛士さんを見ているのがちょっとおもしろい。
確かに、瑛士さんと雅彦さんとオレで、どうして行ったんだろうって思うよね。オレも、今もちょっと思うもん、と、オムライスを食べながら話を聞いていると、楠さんがオレを見る。
「凛太くん、楽しかったですか?」
聞かれたけど、まだ頬張ったままなので、ただコクコクと頷いて見せた。
「まあそっちの様子も気になるけど――」
有村さんが、ちょっと口調を変えて、オレと瑛士さんを順番に見てから。
「指輪とチョーカー。いつから?」
その言葉に、なんだか、どきっと心臓が弾む。
「さすが。目ざとい。昨日からだよ」
「目ざとくなくても気づくわ。京也さんも気づいてますよね」
「うん。一目で。凛太くん、似合いますね」
ふふ、と笑う楠さんは、なんだか少しドキドキする会話の中で、ちょっと癒される。
「凛太のチョーカー、オレの指紋でしか開かないようにするから、万一のパスワードは、後で決めて、二人に預けとくからよろしくな」
はいはい、と二人が頷いて、有村さんは、ため息をついた。
「お前の指紋で開けられるって、やばいんじゃないのか」
「でも凛太の指紋にしとくと、変な奴に凛太の指を使って開けられたら困るし」
「そういう意味じゃなくて――お前が、一番ヤバい奴なんじゃなくて?」
「――ああ。そういう意味か」
なるほど、と頷いた瑛士さんは、ふ、と面白そうに笑った。
「そうかもな」
瑛士さんはどう見てもふざけてるっぽく笑ってるけど、有村さんはなんだかすごく嫌そうに、瑛士さんを見つめてから、オレを見た。
「凛太くん、正直、凛太くんの側で一番危険なのって、瑛士だと思うから、気を付け――」
苦笑しつつ、聞いてたオレを見て、ふ、と有村さんが固まった。
え? とオレがびっくりするくらい、カチン、と音を立てたみたいな感じで。
ん、ん??
何だろうと思って何も言えずにいると、有村さんは立ち上がって、オレの側に来た。「拓真さん?」と楠さんが言うけれど答えず、突然、オレは襟元に手をかけられて少し開かれた。
え?? かなりびっくりして、オレは、ぽかんと有村さんを見上げるしかできない。口に入ったオムライスを噛むことも無く、ただ口を閉じたまま、見上げていると。
有村さんは、オレをまっすぐに見つめた。
「凛太くん――もしかして、ヒート……来た?」
「えっどうして、です……っ」
びっくりして変に息を吸い込んだら、オムライスが喉に引っかかって、げほげほムセてしまった。
楠さんが、お水を渡しながら、オレの背を擦ってくれてる。優しい……。
ゲホゲホしながらも、何でそう思ったんだろうと、考える。
何で分かるの? あ、匂い??
あ、匂いと言えば、さっき瑛士さんが、オレの匂い、分かってるみたいな感じのこと、言ったような……? もしかして、オレの匂い、竜だけじゃなくて、αの皆に分かるようになっちゃったとか?
ええ、それはなんか、ちょっとめんどくさいかも……!
今まで、オメガだってことすら気づかれないで生きてこれたのにー。
(2025/7/31)
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