俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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男三人ぶらり飲み

第百十四話 逆境でこそ輝く男

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 ここからが本当の勝負だと、意気込んではみたものの。
 実際にはバタフライ効果による積み込みを防いだ時点で俺が有利になったわけでもなく、対等の条件になっただけ。対等の条件で勝負をするなら、やはり自力がものをいうようになるわけで。麻雀なんぞルールを知っているくらいで、実戦経験は今日が初めてのチェリーの俺が意気込んだところで、
「ロン」
 俺が捨てた牌、弓流が待ってましたと微笑んでロンをする。
 ベタオリならともかく、勝負のため自分の手を作りつつとなると完全安牌ばかりを捨てていけるわけにはいかず勝負に出ればこのざまだ。むしろベタオリしていた時の方が、点差は広がらなかったような気すらする。
勝者総取りでなかったらベタオリこそベターとは泣けてくる。
 そもそもの誤算が店長や元代打ちの卯場は兎も角、弓流も普通に上手いこと。二人を相手に素の状態で互角に戦いを繰り広げている。狼の群れの中子羊が一匹迷い込んだようなもので俺だけがせっせと点棒を貢いでいる。
何も良いところ無く四荘が終わって俺がダントツビリとなった。
 弓流や卯場の能力を封じて同じ土俵の上に立ったつもりが、土俵に上がれただけの幕下扱い幕内にはお呼びで無い有様。
 暗くなるな腐っても良いことは無い。
見方を変えれば弓流とは結託しているんだ。弓流の勝利は俺の勝利であり、今までの振る舞いから卯場は俺と弓流が組んでいるなどと疑ってもいない。だから俺は試合には負けても勝負には負けていないはずなのに、むしろ賢く立ち回ったはずなのに、この忸怩たる気持ち。
 やはり俺も男で、裏切るわけじゃ無いが自分で勝って終わりたい。
 いやまだ諦めるのはまだ早い。まだ一荘ある。麻雀は運七割という、五荘もやっていれば一荘くらい流れが俺に来る、来ないと確率的に可笑しく、そしてこれが最後の五荘であり流れは俺に来るだから俺だって勝機はまだある。

 半荘が終わった。
 俺に流れが全く向かず上がれさえしなかった。
 トップは弓流、僅差で二位に卯場、やはり前半のリードが効いていて店長はいい腕しているが差は縮まった程度。
 俺は差が開いてドンケツだが、まだ逆転の目が無いわけじゃない。店長が弓流と卯場から満貫以上の直撃で上がりその隙に俺が倍万以上のツモ上がり連続が出来れば。
まだだ、まだ諦めるなと念じる俺の耳に弓流の甘い声が響いてくる。
「いよいよ、最後の半荘ね。親分さん約束は守ってよね」
 最後の半荘の幕が上がる前、弓流は怒らせてミスを誘う気か卯場へ挑発的に言う。これも弓流の超計算感覚による流れの操作か?
「うるせえっ。勝った気になるのは早いんじゃ無いのか。そっちの兄ちゃんと違って俺はまだまだ射程圏内だぜ」
 俺だってまだ射程圏内だ、勝てるんだ。
「そうね、怖い怖い。逆転されたら困っちゃうわね。
 私は性奴隷、お兄さんは大金を失い、運も失う。
 精々逆転されないように気をつけないとね」
 弓流は怖い怖いと卯場から顔を背けて俺へ背筋が凍るような視線で刺してくる。
 熱くなっていた頭が一瞬で冷えた。
 ちっ一連の流れ卯場への挑発じゃ無くて俺への警告かよ。俺は端から見て分かるほどに賭けに熱くなっていたようだ。
 全てを失いたくなければ自分の勝負は諦めて支援に徹しろといいたい訳ね。冷えた頭で計算すれば、もはや俺に出来ることは現状トップである弓流に差し込みして弓流の勝利を揺るぎないものにすることくらいなのは明確。
 勝つには奇跡に近い運がいる。分かっているが飲み込みきれない思いに悶えていると叩きつけるように開けられたドアの音が響き渡り、開けられたドアから足音を響かせ物騒な男達が雀荘に雪崩れ込んで来た。
 何事と思えば、巨漢で総髪一睨みすれば普通の人なら逃げていくような男が物騒な男達を従え此方に真っ直ぐ向かってくる。
「おっお前は鮫島。どうしてここに?」
 立ち塞がるべき卯場の部下達は鮫島を前にしてさっと左右に割れ開いた道を鮫島は通って卯場の前に立つ。
「くっく、卯場。お前馬鹿か、自慢したかったか知らないが美女と札束を見せ付けるように持って出歩けば目立つに決まっているだろ」
 大金と美女、甘く香る魅惑のフェロモンをふりまいて悪党共が寄ってきた。
 想定より遅いが想定以上の外乱が流れ込んできた。
 何処のお上りさんや成金じゃ有るまいし、大金と美女を見せ付けて夜の繁華街を練り歩くか。超計算感覚によるバタフライ効果とまではいかないがトラブルを引き込むくらいは俺でも出来る、勝負の前に撒いた種が今芽吹く。
 そもそも俺が勝ったところですんなり卯場が納得するとは思ってないし、運の無い俺が賭け事で勝てるとも思っていない、故に引き込んだトラブル。しかしけちなチンピラか警察が乱入して来るくらいだと思っていたが、思っていた以上の大波乱が流れ込んできたようだ。そこは流石は俺の運といったところか。
 さあて、この波に乗れるか転覆するかは運では無く俺次第。
「なっ何の用だ?」
「こそこそしているのがお似合いのお前が組なんぞ立ち上げって、随分粋がってくれたな。うちのシマにちょっかい出してくれた落とし前を付けて貰おうと思ってな」
「てめえ、俺達に手を出してどうなるか分かっているんだろうな?」
 卯場も明らかに鮫島に貫禄負けしているが最後の意地か根性か脅し返す。
「それはこっちの台詞だぜ。
 街のあっちこっちに手下をちらばしてくれたおかげで楽に掃除出来たぜ」
「まっまさか」
 なるほど一向に卯場の応援が来ないから変だと思っていたがそういうことだったのか。
 これも弓流のバタフライ効果か、俺を引き込んだ時点で賭がどうなろうと卯場の破滅の流れは加速していたようだ。
「ああ、残ったのはここにいるだけだ。
 臓器は二三個貰うとして、後はどうして落とし前付けてやろうか。
 今の時期ちょいと寒いが東京湾ダイビングとかはどうだ?」
 二度と浮かび上がって来れないダイビングはダイビングとは言わない。
「まっまてって」
 鮫島の迫力に完全に心が折れたか卯場は手をあわあわと伸ばし震え上がる。
 この程度の奴、やはり組長の器じゃ無い、流れに乗っただけの悪党か。
「まずは、この金を貰うとして」
「触るなっ」
 俺は横に置いてある札束の入った紙袋に鮫島が手を伸ばそうとしたのを制止した。
「なんだと」
「それは俺の金だ」
 鮫島は俺を睨み付け俺も鮫島を睨み付けるが、レーザーでも発振しているのかと思うほどにチリチリと目から体の神経が焼き付いてくる。
「お前なんだ?」
 鮫島はここで初めて俺を認識したようだ。
「俺は今、金と女と運を賭けて勝負しているだ。卯場に用があるなら終わってからにしてくれ」
「そうかそれは邪魔したな。
なんて言うと思ったか」
 鮫島はそのごつい手に似合う無骨な銃を引き抜き俺達に突きつけてきた。
「ひいいいい」
 卯場と店長が腰が抜けたように椅子から崩れ落ちると床を這って逃げていく。
「粋がんじゃねえ若造が。ここにある金も女も俺のものなんだよ」
「お前に何の権利がある?」
 卯場と色々因縁が有るかもしれないが、少なくても今は俺の金と会ったばかりの弓流を手に入れる権利は無いはずだ。
「権利だ~それは俺が強いからだよ」
「きゃあっ」
 鮫島はいきなり背後から弓流に抱きつくとそのまま弓流を抱え上げた。
「こういう風に強い奴が金も女も手に入れるんだよ」
 気に入らない。この行動だけで俺は鮫島という男を相容れない存在だと認識した。
「ちょっと」
 鮫島は弓流の抗議など気にすること無く天下を取ったとばかりに高笑いを上げる。
「お前は今から俺の女だ。拒否は許さない。これは確定だ。いいクスリがあるんだ、今夜は天国に連れて行ってやるぜ」
 そう言って鮫島は弓流の頬を舐め、鮫島を見る弓流の目が一瞬だが蛇蝎を見るかの如くなった。
 色々演技の多い女だが、初めて素の感情を垣間見た気がする。
 意外と気が合うかもな。
「なあ、弓流?」
「なんだ?」
 俺の弓流への呼び掛けに鮫島が応じる。
「何か知らないが気付けばこの勝負の場には俺一人。
 つまり最後まで残った俺がこの賭の勝者ってことに成るのか?」
「ああそうだよ良かったな。最後にいい思い出が作れて」
 鮫島はどうでも良いように俺の勝利宣言をすると銃口を俺の額に突きつける。
 第三者が俺の勝利を認めたのに、何かがしっくりこない。
「ちょっと辞めなさいよ。何も殺すことは」
「うるせえ黙れっ、お前は俺の女なんだよ、俺の女に勝手に話し掛ける男なんか許しちゃおけねえ、落とし前を付けてやる」
「やっぱりこうなるのね」
 この展開に弓流はどこか達観したかのような顔で愚痴を吐き出す。
 俺には超計算感覚とか無いんだがな、その今までの人生が込められた愚痴に俺は全てを悟った。
 弓流は美しき蝶。
 誰もが欲しがり手を伸ばす。ハンサム変質者ストーカー権力者乱暴者チンピラ金持ちスポーツマン、あらゆる男達が引き寄せられ争い続ける永遠の蠱毒。
 好きな男に出会え恋人に成れても、好きな男は嫉妬に狂った男達によって不幸になる。それがサゲ○ンと思い込むことになった切っ掛けか。
 美人故の不幸か。俺同様自分らしく生きる事が許されなかった不幸、どこかシンパシーを感じてしまう。
「弓流、俺を見くびるなよ」
「えっ」
「俺は波乱でこそ輝く男、つまりサ○マンとは相性が良いのさ」
「はい?」
 これまた素の顔なのか。首を傾げる犬のように可愛くあどけない顔で弓流は首を傾げる。
「弓流、俺が勝者だろ」
 俺が勝者なら弓流は俺の女。
「ふふっ。
 はあ~しょうがない。その度胸に免じてあげるけど、後悔しても知らないわよ」
 弓流がまるで伝説の木の下で告白をする少女のような顔で俺に告げる。
「させてみろよ」
「私の負け、貴方が勝者よ」
 これが勝利か、何かがうねりを巻いて俺にしっくりと嵌まって俺は勝者となった。
「なら、この金は俺のもの」
 俺は台に置いてあった札束の入った紙袋を叩く。
「この人形も俺のもの」
 目を見てよろしくなかわいこちゃんと人形の頭を撫でてやれば、よろしくねと微笑み返してくる。
「そして弓流、お前は今から俺の女だ」
「よろしくね、あなた」
「なっ」
 弓流の返事に袖にされコケにされたと思ったか鮫島の顔が憤怒で真っ赤に染まる。
「なら、いつまで他の男に抱かれているつもりだ」
「何を言っているんだお前?
 もういい、死ね」
 鮫島が引き金を引こうとした瞬間。
「しょうがない。ご主人様のため頑張りますか」
 弓流はその出るところが出て引っ込むところが引っ込む、引っ掛かりが多く柔らかい、しっかりと抱き絞めやすい体で鰻のようにするりと鮫島の腕の拘束をすり抜けしゃがみ込む。
「なっ」
 しゃがみ込みから停滞の無い流れのままに、カモシカのように締まった足の筋肉のバネを生かして伸び上がり鮫島の顎に掌底を叩き込む。
「うがっ。このアマ」
 流れるような連係攻撃だったが女の力では鮫島を行動不能までは追い込めなかった。
痛みを堪え鮫島は銃口を弓流に向け、向けられた銃口の前に俺が腕でガードして立ち塞がり、躊躇いの無い銃声と共に腕に鈍い衝撃が走る。
「防弾だと!!」
 俺に振り返ること無く射線を外して回り込んだ弓流がスカートを捲ってその白く滑らかそうな太股を晒せば、そこには試験管が数本括り付けてある。その試験管を抜き取り指で弾いて蓋を外すと中身の液体を鮫島にぶちまける。
「ぐわあッ」
 刺激臭が溢れ、鮫島は両目を塞いで悶え苦しみ出す。
 俺は零れ落ちた銃を拾い動こうとしていた鮫島の部下達にさっと突きつける。
「動くなっ」
 向けられた銃口に鮫島の部下達は固まってしまう。
 撃って。
 はいよ。
 天のお告げか俺は躊躇うこと無く引き金を引くと銃声が響きガラスが砕け散る。
 これで夜の繁華街に銃声が轟きまくったな。
「ひいいいいいい」
 俺のクレイジーな軽い引き金に鮫島の部下達が恐れおののいて床に頭を抱えて伏せていく。
「勝負は決まった。俺達は退散させて貰う、後は卯場と好きなだけ話し合ってくれ」
 俺は銃を放り投げ出口に向かおうとする。
「まっまて、外には金と女の匂いを嗅ぎ付けたハイエナ共が涎を垂らして待っているぞ。無事帰れると思うなよ」
 床で悶えながらも鮫島が極道の意地か脅しを掛けてくる。
「ご忠告どうも。
 お前こそ発砲までしておいて無事帰れると思ってないよな。
 あばよっ」
 俺は金と女と運、勝者総取り手に入れて、颯爽と雀荘から出て行くのであった。
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