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無限エスカレーター
第百五十話 ヘタレ君
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珈琲に染まったかのような色合いの店内に静かに流れるクラシック。
「どうぞ」
良く訓練されたウェイトレスが珈琲カップをテーブルの上に置けば楽器が鳴るように音色が響き俺は珈琲の香りに包まれる。
「ありがとう」
俺もまたこの優雅な一時を与えてくれたウェイトレスにさり気なく礼を言えば、ウェイトレスは静かに頭を下げて優雅に立ち去っていく。
「いい香りだ」
俺は呑む前に珈琲の存分に香りを楽しむ。
「なに気取ってるんですか、ヘタレ君」
此方を睨み付けてくるギャルの雑音を無視して珈琲で喉を湿らす。滑らかに舌に絡みついてくる憩いの時。
「出してもいないのに賢者タイムですか、ヘタレ君」
旨い珈琲に乱れていた思考も落ち着いた。ここからは俺のペースで行かせて貰う。
「じゃあ、話を聞こうか」
自信と貫禄を込めて言う。
「信じらんないんですけど。こんないい女を抱けるチャンスを不意にするなんて。
ヘタレ君はインポさんですか?」
何を聞いてきやがると思うが、ギャルが此方を睨み付けてくる顔は真顔。これは答えなくてはならないのか。
「いや、違うが」
何で俺がこんなこと答えなくてはならない。
「じゃあ証拠見せて下さい」
証拠って何だよ証拠って、この場でズボンでも脱いで起たせろとでもいうのかと思ってギャルを見れば目が据わっている。本気だ。
「変態じゃないので無理です」
「じゃあ解脱した聖人さんですか」
「いや凡俗で性欲もあります」
本気で俺は何を言っているんだろうな。
こんな惨めな気持ちは久しぶりだが、勘弁して下さいと言われたときのギャルの絶望に染まった顔を思い出すと心が痛み罪悪感に口が開く。
「性欲があるのに勘弁なんて、すごく傷付いたんですけど~、慰謝料請求するみたいな~」
「ここくらいは奢るぞ」
「傷付いた、アッシーの価値がパフェくらいしか無いんですか」
ギャルがテーブルを叩き顔を伏せる。
マスターとウェイトレスが何事かと此方に視線を寄せてくるが無視だ無視、無視以外何が出来る。
そもそも、お前ただで抱かせようとしてたじゃないか、それに比べればそのスペシャルパフェは2500円もするんだぞ。
「そんなことはない。君は十分に可愛い」
この俺が何でこんなに気を遣わないと行けないんだ、勝手に落ち込ませておけばいいじゃないか。自分でほんと不思議だよ。
「じゃあ、なんで抱かないんですか、とことん問い詰めたいんですけど」
あ~話が進まない。そもそも此奴だってこんな話をしたかったわけじゃないだろうに、なんでこうなった? なんでこうなる?
後悔してもしょうが無い所詮此奴の思考は俺には理解し切れない。兎に角話を前に進めるんだか元のスジに戻すんだか、言い訳を捻り出せ。
悔しいが恋愛関係においては此奴の方が百戦錬磨の上手なのは認め。俺が此奴の言う通り女に相手されないヘタレ小僧としてだ。
この女の心を擽る妙台詞は何だ?
普段恋愛で使わない脳細胞をフル活性化し思い付いた台詞を吟味することなく感性のままに言う。
「いや~俺達知り合ったばかりでまだよく知らないし」
純情青年のままに後頭部の一つも照れ隠しに搔きながらもじもじどもるように言う。
「純情系? なら良く知り合えばいいの?」
半睨みしていた目がパッと見開く。
「まあ」
「ふ~ん、へえ~。その言葉忘れないかんじ。
じゃあ事件が終わったらゆっくり知り合うじゃん」
事件、このときギャルが軽く言った不吉な言葉を聞き逃さなかった。
事件に巻き込まれた?
ウリでもしてヤクザに目を付けられた?
それとも質の悪い男に集られてる?
その程度なら任せろ、国家権力フル動員して一日で処理してやる。一日で綺麗さっぱり縁を切ってやる。
このときの俺はかなり失礼なことを予想し楽観的になっていた。
「っで、アッシーの名前は、水波 あやめ。
っで、ヘタレ君は?」
「果無 迫」
必要最小限だけの紹介で止めておく。足が付くようなことはしない。
「それでね・・・」
・
・
・
「駆け落ちじゃないのか?」
水波から話を聞いた俺の感想だった。
要約すれば、水波の友達が天空のエスカレーターからの連絡を最後に行方不明になったとのこと。より正確には連絡が取れなくなって二日。
それだけ?というのが俺の気の抜けた感想。
「そんなことない。アッシーに一言も言わないでいなくなるなんてあり得ない」
「そうか。意外と嫌われてたんじゃないか?」
「ぐっ」
水波の目に涙がうっすら浮かぶ。
待て、こんな見た目と裏腹に意外と脆いぞ。この程度の皮肉、ギャルらしくギャンギャン言い返せよ。
「あっそうだな、そう。
逆、逆にだ。親しいが故に言えないことだってあるじゃ無いか」
「逆に?」
目に涙を浮かべていた水波が可愛い声で問い返してくる。
「そう、迷惑を掛けたくないとか」
「そんなことない。マブダチだもん、心配掛けたくないって連絡くらいは入れる」
迷惑と心配はどっちの方に天秤が傾くのだろうか?
「たかが二日じゃないか」
「もう二日だよ。半日だって連絡が取れなくなったら、チョープロブレムだよ」
そうかそうなのか?
俺なんか平気で一週間くらい連絡を取り合わないというか、用が無ければ連絡は無い。
西村とだって、ここ一週間ほどは連絡が無いし、恋人のはずの時雨とだって気付けばそのくらいの間隔は普通に空く。
此奴に言われて思ったが、もしかして俺の方が可笑しいのか?
「親はどうした?」
「家に尋ねて聞いたけど二日くらいじゃよくあることって笑って相手にされなかった」
「ほら、親でさえ心配してないじゃないか」
「でもアッシーはダチだよ。親に連絡しなくてもダチには連絡するっしょ」
親よりダチの方が深い絆で結ばれているような口ぶりだが、生活の面倒を見ているのはやっぱり親なんだよな。
「じゃあ警察に行けよ」
「行ったよ。でも全然相手にされなかった」
まあ、そうだよな。警察の怠慢ではあるまい。
でもこの女、簡単に思い付くようなことは全てやっているわけか、意外と行動力があるな。その点では此奴の言う友情も本物に近い。世の中友情と言いつつ、実際の行動は何一つ起こさない奴が大半だからな。
ほんの少しだが、こい・・・水波の好感度が上がった。
「まあ、何の証拠もないんじゃしょうが無いな。そもそも本当に失踪したのかも確定してないぞ」
「してる。何か事件に巻き込まれている。きっと天空のエスカレーターで何かあった」
水波は妙に確信めいたように言う。
「俺も今日見たが、あんな衆人観衆がいる中で何かあれば大騒ぎになるだろ」
「ならない。水族館でアッシー達は経験したよ」
なんだ纏っていた雰囲気が変わった。
そしてここであの事件を持ち出すか。
「あの恐怖を私は経験した。あれ以来私は外を歩けなくなった。そんな私をずっとガワッチは励ましてくれたんだよ。
そんなガワッチが急に連絡が取れなくなったんだよ。何かがあったんだよ。今度は私の番、私がガワッチを助ける」
今までの羽毛のように軽い女が肩にズシリとくる凄みと重みを俺に掛けてくる。
そして驚いたが水波は昨日まで家から出られなくなっていたのか。てっきり次の日くらいからはけろっと日常生活を送っていると思っていたが。
ユガミに遭遇し世界観を根底から覆させられ日常生活を送れなくなった人の話は如月さんから聞いていたが、本当のことだったのか。俺の気を引き締めるための誇張かと思っていたが、壊れた俺を基準に話を受け取りすぎていたか。しかし、ユガミに遭遇しても事実の一つとして割り切ってしまう俺はさぞやこういうのに向いている人材だと思っただろうな。
さて、思考を戻そう。
躰関係は軽そうだが、この件に関しては此奴の真剣さが伝わった。
「そんな憶測だけでは、旋律士は動かせない」
俺は冷たく事実を伝える。
「別にヘタレに其処までは頼まない。連絡先だけでも教えてくれれば」
「駄目だ。おいそれと一般人に教えられるものじゃない。
教えて欲しくば、天空のエスカレータで怪異に出会った証拠を提示しろ」
例外はない。そんな怪しい程度で旋律士を動かしていたら、ただでさえ少ない旋律士はあっちこっちに振り回されて疲弊してしまう。
旋律士ほどの重要人物を動かすなら、匹敵する重さがいる。
「そんなこと馬鹿なアッシーに出来るわけがない」
ほう、意外と自己評価は的確なんだな。
「なら探偵にでも頼め。そのお友達が天空のエスカレーターに乗って、降りてきていない事実を掴め。今回はサービスだ、それだけで動いてやる」
「そんな探偵なんて知り合いにいない」
「なら探せ」
「それにそんなお金」
「お前の友情はそんなもんか?」
カチンという音が聞こえたかと思えば、水波は立ち上がりテーブルの上に財布を叩きつけた。
「アッシー、ヘタレ君嫌い。
でもヘタレ君が一番だとアッシーの勘が告げている。これで買えるだけあんたの時間を買う」
「二万。学生証。スイカ。コンドームか」
俺は叩きつけられた財布を遠慮無く吟味していく。
「どう? 足りなきゃこの躰あんたに売る、ウリでもAVでもデリにでも好きにしな」
「大声出すな。彼方で睨んでいるマスターに通報されてしまう」
横目で見ればマスターとウェイトレスがコソコソ相談しているのが見える。さっきからのやり取りを端から見ていれば、キャバ嬢とキャバ嬢を食い物にするヒモのやり取りに見えても可笑しくない。
そろそろ潮時かな。
「いいだろう。天空のエスカレーター、一往復分の調査料金として受け取ろう」
俺はそう言うと財布を懐に入れ立ち上がるのであった。
「ありがとう、セリっち」
水波は子供の様な笑顔を俺に見せるのであった。
「どうぞ」
良く訓練されたウェイトレスが珈琲カップをテーブルの上に置けば楽器が鳴るように音色が響き俺は珈琲の香りに包まれる。
「ありがとう」
俺もまたこの優雅な一時を与えてくれたウェイトレスにさり気なく礼を言えば、ウェイトレスは静かに頭を下げて優雅に立ち去っていく。
「いい香りだ」
俺は呑む前に珈琲の存分に香りを楽しむ。
「なに気取ってるんですか、ヘタレ君」
此方を睨み付けてくるギャルの雑音を無視して珈琲で喉を湿らす。滑らかに舌に絡みついてくる憩いの時。
「出してもいないのに賢者タイムですか、ヘタレ君」
旨い珈琲に乱れていた思考も落ち着いた。ここからは俺のペースで行かせて貰う。
「じゃあ、話を聞こうか」
自信と貫禄を込めて言う。
「信じらんないんですけど。こんないい女を抱けるチャンスを不意にするなんて。
ヘタレ君はインポさんですか?」
何を聞いてきやがると思うが、ギャルが此方を睨み付けてくる顔は真顔。これは答えなくてはならないのか。
「いや、違うが」
何で俺がこんなこと答えなくてはならない。
「じゃあ証拠見せて下さい」
証拠って何だよ証拠って、この場でズボンでも脱いで起たせろとでもいうのかと思ってギャルを見れば目が据わっている。本気だ。
「変態じゃないので無理です」
「じゃあ解脱した聖人さんですか」
「いや凡俗で性欲もあります」
本気で俺は何を言っているんだろうな。
こんな惨めな気持ちは久しぶりだが、勘弁して下さいと言われたときのギャルの絶望に染まった顔を思い出すと心が痛み罪悪感に口が開く。
「性欲があるのに勘弁なんて、すごく傷付いたんですけど~、慰謝料請求するみたいな~」
「ここくらいは奢るぞ」
「傷付いた、アッシーの価値がパフェくらいしか無いんですか」
ギャルがテーブルを叩き顔を伏せる。
マスターとウェイトレスが何事かと此方に視線を寄せてくるが無視だ無視、無視以外何が出来る。
そもそも、お前ただで抱かせようとしてたじゃないか、それに比べればそのスペシャルパフェは2500円もするんだぞ。
「そんなことはない。君は十分に可愛い」
この俺が何でこんなに気を遣わないと行けないんだ、勝手に落ち込ませておけばいいじゃないか。自分でほんと不思議だよ。
「じゃあ、なんで抱かないんですか、とことん問い詰めたいんですけど」
あ~話が進まない。そもそも此奴だってこんな話をしたかったわけじゃないだろうに、なんでこうなった? なんでこうなる?
後悔してもしょうが無い所詮此奴の思考は俺には理解し切れない。兎に角話を前に進めるんだか元のスジに戻すんだか、言い訳を捻り出せ。
悔しいが恋愛関係においては此奴の方が百戦錬磨の上手なのは認め。俺が此奴の言う通り女に相手されないヘタレ小僧としてだ。
この女の心を擽る妙台詞は何だ?
普段恋愛で使わない脳細胞をフル活性化し思い付いた台詞を吟味することなく感性のままに言う。
「いや~俺達知り合ったばかりでまだよく知らないし」
純情青年のままに後頭部の一つも照れ隠しに搔きながらもじもじどもるように言う。
「純情系? なら良く知り合えばいいの?」
半睨みしていた目がパッと見開く。
「まあ」
「ふ~ん、へえ~。その言葉忘れないかんじ。
じゃあ事件が終わったらゆっくり知り合うじゃん」
事件、このときギャルが軽く言った不吉な言葉を聞き逃さなかった。
事件に巻き込まれた?
ウリでもしてヤクザに目を付けられた?
それとも質の悪い男に集られてる?
その程度なら任せろ、国家権力フル動員して一日で処理してやる。一日で綺麗さっぱり縁を切ってやる。
このときの俺はかなり失礼なことを予想し楽観的になっていた。
「っで、アッシーの名前は、水波 あやめ。
っで、ヘタレ君は?」
「果無 迫」
必要最小限だけの紹介で止めておく。足が付くようなことはしない。
「それでね・・・」
・
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・
「駆け落ちじゃないのか?」
水波から話を聞いた俺の感想だった。
要約すれば、水波の友達が天空のエスカレーターからの連絡を最後に行方不明になったとのこと。より正確には連絡が取れなくなって二日。
それだけ?というのが俺の気の抜けた感想。
「そんなことない。アッシーに一言も言わないでいなくなるなんてあり得ない」
「そうか。意外と嫌われてたんじゃないか?」
「ぐっ」
水波の目に涙がうっすら浮かぶ。
待て、こんな見た目と裏腹に意外と脆いぞ。この程度の皮肉、ギャルらしくギャンギャン言い返せよ。
「あっそうだな、そう。
逆、逆にだ。親しいが故に言えないことだってあるじゃ無いか」
「逆に?」
目に涙を浮かべていた水波が可愛い声で問い返してくる。
「そう、迷惑を掛けたくないとか」
「そんなことない。マブダチだもん、心配掛けたくないって連絡くらいは入れる」
迷惑と心配はどっちの方に天秤が傾くのだろうか?
「たかが二日じゃないか」
「もう二日だよ。半日だって連絡が取れなくなったら、チョープロブレムだよ」
そうかそうなのか?
俺なんか平気で一週間くらい連絡を取り合わないというか、用が無ければ連絡は無い。
西村とだって、ここ一週間ほどは連絡が無いし、恋人のはずの時雨とだって気付けばそのくらいの間隔は普通に空く。
此奴に言われて思ったが、もしかして俺の方が可笑しいのか?
「親はどうした?」
「家に尋ねて聞いたけど二日くらいじゃよくあることって笑って相手にされなかった」
「ほら、親でさえ心配してないじゃないか」
「でもアッシーはダチだよ。親に連絡しなくてもダチには連絡するっしょ」
親よりダチの方が深い絆で結ばれているような口ぶりだが、生活の面倒を見ているのはやっぱり親なんだよな。
「じゃあ警察に行けよ」
「行ったよ。でも全然相手にされなかった」
まあ、そうだよな。警察の怠慢ではあるまい。
でもこの女、簡単に思い付くようなことは全てやっているわけか、意外と行動力があるな。その点では此奴の言う友情も本物に近い。世の中友情と言いつつ、実際の行動は何一つ起こさない奴が大半だからな。
ほんの少しだが、こい・・・水波の好感度が上がった。
「まあ、何の証拠もないんじゃしょうが無いな。そもそも本当に失踪したのかも確定してないぞ」
「してる。何か事件に巻き込まれている。きっと天空のエスカレーターで何かあった」
水波は妙に確信めいたように言う。
「俺も今日見たが、あんな衆人観衆がいる中で何かあれば大騒ぎになるだろ」
「ならない。水族館でアッシー達は経験したよ」
なんだ纏っていた雰囲気が変わった。
そしてここであの事件を持ち出すか。
「あの恐怖を私は経験した。あれ以来私は外を歩けなくなった。そんな私をずっとガワッチは励ましてくれたんだよ。
そんなガワッチが急に連絡が取れなくなったんだよ。何かがあったんだよ。今度は私の番、私がガワッチを助ける」
今までの羽毛のように軽い女が肩にズシリとくる凄みと重みを俺に掛けてくる。
そして驚いたが水波は昨日まで家から出られなくなっていたのか。てっきり次の日くらいからはけろっと日常生活を送っていると思っていたが。
ユガミに遭遇し世界観を根底から覆させられ日常生活を送れなくなった人の話は如月さんから聞いていたが、本当のことだったのか。俺の気を引き締めるための誇張かと思っていたが、壊れた俺を基準に話を受け取りすぎていたか。しかし、ユガミに遭遇しても事実の一つとして割り切ってしまう俺はさぞやこういうのに向いている人材だと思っただろうな。
さて、思考を戻そう。
躰関係は軽そうだが、この件に関しては此奴の真剣さが伝わった。
「そんな憶測だけでは、旋律士は動かせない」
俺は冷たく事実を伝える。
「別にヘタレに其処までは頼まない。連絡先だけでも教えてくれれば」
「駄目だ。おいそれと一般人に教えられるものじゃない。
教えて欲しくば、天空のエスカレータで怪異に出会った証拠を提示しろ」
例外はない。そんな怪しい程度で旋律士を動かしていたら、ただでさえ少ない旋律士はあっちこっちに振り回されて疲弊してしまう。
旋律士ほどの重要人物を動かすなら、匹敵する重さがいる。
「そんなこと馬鹿なアッシーに出来るわけがない」
ほう、意外と自己評価は的確なんだな。
「なら探偵にでも頼め。そのお友達が天空のエスカレーターに乗って、降りてきていない事実を掴め。今回はサービスだ、それだけで動いてやる」
「そんな探偵なんて知り合いにいない」
「なら探せ」
「それにそんなお金」
「お前の友情はそんなもんか?」
カチンという音が聞こえたかと思えば、水波は立ち上がりテーブルの上に財布を叩きつけた。
「アッシー、ヘタレ君嫌い。
でもヘタレ君が一番だとアッシーの勘が告げている。これで買えるだけあんたの時間を買う」
「二万。学生証。スイカ。コンドームか」
俺は叩きつけられた財布を遠慮無く吟味していく。
「どう? 足りなきゃこの躰あんたに売る、ウリでもAVでもデリにでも好きにしな」
「大声出すな。彼方で睨んでいるマスターに通報されてしまう」
横目で見ればマスターとウェイトレスがコソコソ相談しているのが見える。さっきからのやり取りを端から見ていれば、キャバ嬢とキャバ嬢を食い物にするヒモのやり取りに見えても可笑しくない。
そろそろ潮時かな。
「いいだろう。天空のエスカレーター、一往復分の調査料金として受け取ろう」
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