俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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雨は女の涙

第百六十九話 正義はその身を蝕む毒

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 声の方を見れば見れば、少女が三つ編みを旗の如く靡かせてこちらに走り寄ってくる。
 冬服のセーラー服に今時黒縁眼鏡を掛けた一切染めていない烏の濡れ羽色の髪、素材はいいのにどこか野暮ったい少女。そんな文学少女のような見かけのくせに意外と好戦的、悲鳴を上げるか警察でも呼べばいいのに真っ先に自ら自分で変質者だと断定した俺に挑んでくる。更には運動神経がいいのか走りに馬のような躍動がある。
 このままこの少女に抱きついたままでは、蹴っ飛ばされる。かといって離してしまえば千載一遇のチャンスで捕まえた魔人の少女を逃がしてしまう。このまま行けば、林野殺害事件は早期解決するというのに、そうか終わってしまうのか。それはそれで拙いな。かといって逃がしてしまえば、次はない。今回は少女の経験不足で何とか勝負になったが、経験を積まれ次は同じ土俵に上れるかする怪しくなる。ワンサイドゲームで俺が始末される可能性が高い。
 どうする?
 葛藤は一瞬だがその一瞬で三つ編み少女は間合いを詰めつつ容赦なく振り上げた足で俺をサッカーボールのように蹴り飛ばそうとしてくる。
 唸りを上げて迫る靴の爪先。何処まで好戦的なんだよ、殺意ありまくりじゃないか。
 バシッと鈍い音が唸った。
「あなた、大丈夫」
 三つ編み少女は容赦なく蹴り抜くと、解放された魔人少女の手を握って立ち上がらせる。
「後ろに隠れて」
 三つ編み少女は魔人少女を自分の背に庇う。ほんとそこらの男より勇ましい。
「ありがとう」
 魔人少女は三つ編み少女の耳元で囁く。
「へへん、私が来たからにはもう安心よ。こんな女の敵、とっととけいさ・・・。
 あれは何?」
 得意気に胸を張る三つ編み少女の視界に何かが映る。
 それはまさしく何か。初見では何がなんだが分からない。ぶよぶよに白く爛れて潰れている肉塊。例えるなら雨の日にタイヤに轢かれてふやけた蛙のような。
「えっへっあれは何。もしかして・・・。
 ちょっと、あれは何なの?」
 三つ編み少女が振り返れば、その背に庇ったはずの魔人少女はもういない。
「ちょっと、何処に行ったの?
 これは一体何なの?
 誰か説明してよ」
 慌てふためく少女の細い手首に鋼鉄の輪がガチャリと嵌まる。
「へっ」
「公務執行妨害で逮捕する」
 このまま魔人少女を連れて逃げてくれればいいものを、朝瑠の死体を見られたからには可哀想だが帰すわけにはいかない。
 大人の都合で悪いが、正義はその身を蝕む毒でもあることを若い内に知るのはいい勉強だと思って貰おう。
「あんた、何でもう動けるの!」
 俺の顔を見て三つ編み少女はゾンビにでも会ったかのように驚くが、そもそも死んだら終わりと咄嗟に拘束を諦めて手でガードしたからな。それでも首がガクンといって数瞬だが意識が飛んだぞ。
「大人しくしろ。これ以上の抵抗はお前の心証を悪くするだけだぞ」
「何言っているの私は女の敵から少女を助けただけで」
 三つ編み少女が必死に抗弁してくるし、その気持ちも分かる。
 正義を成したと思って褒められるどころか逮捕されるなんて納得がいかないだろう。
 ならば現実を教えてやろう。
「そこに転がっているの物体は死体だ」
「えっ」
 あれを元人間だと思いたくない少女の思考に現実を突きつける。
「そして、お前が助けた少女が殺した。
 ではその少女を捕まえようとしていた俺は何だと思う」
「そっそんなの嘘よ」
「オケ-オケ-。君がそう思うのは自由だ。ならば俺は現実を見せてあげよう。
 警察を呼ぶ」
 俺はスマフォを取り出す。
「ふっふん、あんたこそ今のうちに逃げ出さなくていいの。
 私に下らないハッタリは効かないんだから」

 二時間後、少女は警察署の取調室にぽつんと居た。
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