173 / 328
雨は女の涙
第百七十二話 幕間その1
しおりを挟む
どういうことだ?
たった一夜開けただけなのに、三人も連絡が付かなくなった。
朝瑠からは「御免なさい」と短いメールが来た後、此方からの電話は着信拒否に成っている。
逃げたか。
小狡く臆病な朝瑠らしい決断の早さだ。
散々俺のおかげでおいしい思いをしておいて、危なくなったら一番に逃げ出すなんて許せねえ。それ相応の報いを与えてやらなければ気が済まない。捕まえてボコボコにした後知り合いのハードゲイの外人に売り飛ばしてやる。
怒りを噛み締めながら朝瑠の逃走先に心当たりがないかが他のメンバーに聞こうとして、朝瑠の他に二人も連絡が取れなくなっていることに気付いた。
たまたまということもあると何度電話しても繫がらない。
朝瑠は兎も角他の二人にこれだけ早く見切りを付ける決断力はあるとは思えない。二人は俺を心の底から尊敬している。裏切るにしても俺がもう少し追い詰められてからだ。
脳裏にあの獅子のような男の姿が浮かぶ。
草木の養分か魚の餌に成ったか。
そう思いつき寒気に体中が震えた。
本当にそうなら、相手はあんないるか居ないかも分からないような小物二人の所在すら掴んでいることになる。
しかも一夜で二人も消された。
敵は組織的な実行力も情報網も此方の上をいっていると考えて間違いない。この敵を相手にあんな銃を持った程度で何とかなるのか? 銃を持っていたって背後から襲われたら使う暇が無い。
鏡剪に敵の情報を集めて貰っているが間に合うのか?
情報が集まった頃には俺以外いなくなっているんじゃないのか?
なら朝瑠みたいに逃げるか?
都会を離れて田舎に帰る。
冗談じゃねえ。俺が俺がこんな所で終わってたまるか。
今はこつこつ下積みでしけた仕事ばかりだが、俺はもっとのし上がっていくんだ。今じゃ裏で燻っているが、ここで稼いだ金を元に映画史に残るような大作を作って世界に羽ばたくんだ。
鏡剪の言った通りだ。安くない上納金を献上しているんだ、こんな時に役に立って貰わなくてどうするんだ。いつも偉そうにしている分、働いて貰うぜ。
俺はスマフォを取り出すと、一ヶ月ごとに変わるある人物の番号に掛けた。
『私だ』
さっきの勢いは何処に行ったのか、この腹に響く重低音の声を聞いただけで姿勢を正してしまった。
「フォンさんですか、合谷です」
本名なんて知らない。通称「フォン」と呼ばれる名しか知らない。更に言えば、俺は顔すら知らない。
『何の用だ?』
「それが少し厄介なことになりまして・・・・・」
『ふむ、それで』
これが俺が追い込まれている事情を説明し終わったときに返された言葉だった。
まるで人ごとだ。話を聞いていたかと思うほど俺を心配する様子がない。
「いや、だからやばいんですよ。助けて下さいよ。その為に上納金を納めているじゃないですか」
『おいおい、上納金とは物騒な言葉を使うじゃないか。私はヤクザじゃないんだよ。
それは常々言い聞かせている思ったが、私の記憶違いだったかな』
その言葉に背筋にナイフを突きつけられたような思いがした。
「いえ、すいません。コンサルティング料でした」
俺は慌てて言い直した。抗弁するなど思いもしない。
『そう。私はあくまで君のビジネスが軌道に乗るように常々アドバイスをして、その対価としてコンサルティング料を貰っているだけだ』
そのアドバイスとやらを貰った記憶は無い。上納金をちょろまかそうとしたときに受けた詰問くらいしか会話の記憶が無い。
「ですからビジネスがやばいんです。助けて下さい」
『ふむ、それは大変だね。
是非力になろう』
「そっそれじゃ」
そうだそうだよな。何だかんだ言って俺が納める上納金は大したもんだろ。それを失うことはフォンにとっても痛手のはず。
ビビる事は無かったんだ。そう考えれば立場は対等。
『だがそれは月々君のビジネスが順調に行くようにアドバイスしている業務とは別になるな』
「それって」
対等という言葉がたちまち砂となって崩れていくのを感じた。
『当然トラブル対策として別料金を頂く。用意は出来るかね?』
「そっそれは」
ただでさえ月々高い料金を取られているというのに、この上更にぼったくるというのかよ。
機材の用意やなんやかんやで経費は結構掛かっている。これ以上の出費はまずい。
「そっそうだ。代わりと言っては何ですが、面白い奴を紹介します」
そうだ鏡剪だ。俺の代わりに彼奴からぶんどればいい。彼奴だってフォンさんを紹介して貰えるんだ謝礼が欲しいくらいだぜ。
『ほう。それはわざわざ私が契約する価値がある人物なのだね』
「もちろんです」
『分かった。段取りは任せる。まずはその顧客を紹介したまえ、話はそれからだ』
「分かりました。バッチリ段取りします」
『楽しみにしている』
たった一夜開けただけなのに、三人も連絡が付かなくなった。
朝瑠からは「御免なさい」と短いメールが来た後、此方からの電話は着信拒否に成っている。
逃げたか。
小狡く臆病な朝瑠らしい決断の早さだ。
散々俺のおかげでおいしい思いをしておいて、危なくなったら一番に逃げ出すなんて許せねえ。それ相応の報いを与えてやらなければ気が済まない。捕まえてボコボコにした後知り合いのハードゲイの外人に売り飛ばしてやる。
怒りを噛み締めながら朝瑠の逃走先に心当たりがないかが他のメンバーに聞こうとして、朝瑠の他に二人も連絡が取れなくなっていることに気付いた。
たまたまということもあると何度電話しても繫がらない。
朝瑠は兎も角他の二人にこれだけ早く見切りを付ける決断力はあるとは思えない。二人は俺を心の底から尊敬している。裏切るにしても俺がもう少し追い詰められてからだ。
脳裏にあの獅子のような男の姿が浮かぶ。
草木の養分か魚の餌に成ったか。
そう思いつき寒気に体中が震えた。
本当にそうなら、相手はあんないるか居ないかも分からないような小物二人の所在すら掴んでいることになる。
しかも一夜で二人も消された。
敵は組織的な実行力も情報網も此方の上をいっていると考えて間違いない。この敵を相手にあんな銃を持った程度で何とかなるのか? 銃を持っていたって背後から襲われたら使う暇が無い。
鏡剪に敵の情報を集めて貰っているが間に合うのか?
情報が集まった頃には俺以外いなくなっているんじゃないのか?
なら朝瑠みたいに逃げるか?
都会を離れて田舎に帰る。
冗談じゃねえ。俺が俺がこんな所で終わってたまるか。
今はこつこつ下積みでしけた仕事ばかりだが、俺はもっとのし上がっていくんだ。今じゃ裏で燻っているが、ここで稼いだ金を元に映画史に残るような大作を作って世界に羽ばたくんだ。
鏡剪の言った通りだ。安くない上納金を献上しているんだ、こんな時に役に立って貰わなくてどうするんだ。いつも偉そうにしている分、働いて貰うぜ。
俺はスマフォを取り出すと、一ヶ月ごとに変わるある人物の番号に掛けた。
『私だ』
さっきの勢いは何処に行ったのか、この腹に響く重低音の声を聞いただけで姿勢を正してしまった。
「フォンさんですか、合谷です」
本名なんて知らない。通称「フォン」と呼ばれる名しか知らない。更に言えば、俺は顔すら知らない。
『何の用だ?』
「それが少し厄介なことになりまして・・・・・」
『ふむ、それで』
これが俺が追い込まれている事情を説明し終わったときに返された言葉だった。
まるで人ごとだ。話を聞いていたかと思うほど俺を心配する様子がない。
「いや、だからやばいんですよ。助けて下さいよ。その為に上納金を納めているじゃないですか」
『おいおい、上納金とは物騒な言葉を使うじゃないか。私はヤクザじゃないんだよ。
それは常々言い聞かせている思ったが、私の記憶違いだったかな』
その言葉に背筋にナイフを突きつけられたような思いがした。
「いえ、すいません。コンサルティング料でした」
俺は慌てて言い直した。抗弁するなど思いもしない。
『そう。私はあくまで君のビジネスが軌道に乗るように常々アドバイスをして、その対価としてコンサルティング料を貰っているだけだ』
そのアドバイスとやらを貰った記憶は無い。上納金をちょろまかそうとしたときに受けた詰問くらいしか会話の記憶が無い。
「ですからビジネスがやばいんです。助けて下さい」
『ふむ、それは大変だね。
是非力になろう』
「そっそれじゃ」
そうだそうだよな。何だかんだ言って俺が納める上納金は大したもんだろ。それを失うことはフォンにとっても痛手のはず。
ビビる事は無かったんだ。そう考えれば立場は対等。
『だがそれは月々君のビジネスが順調に行くようにアドバイスしている業務とは別になるな』
「それって」
対等という言葉がたちまち砂となって崩れていくのを感じた。
『当然トラブル対策として別料金を頂く。用意は出来るかね?』
「そっそれは」
ただでさえ月々高い料金を取られているというのに、この上更にぼったくるというのかよ。
機材の用意やなんやかんやで経費は結構掛かっている。これ以上の出費はまずい。
「そっそうだ。代わりと言っては何ですが、面白い奴を紹介します」
そうだ鏡剪だ。俺の代わりに彼奴からぶんどればいい。彼奴だってフォンさんを紹介して貰えるんだ謝礼が欲しいくらいだぜ。
『ほう。それはわざわざ私が契約する価値がある人物なのだね』
「もちろんです」
『分かった。段取りは任せる。まずはその顧客を紹介したまえ、話はそれからだ』
「分かりました。バッチリ段取りします」
『楽しみにしている』
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
GATEKEEPERS 四神奇譚
碧
ホラー
時に牙を向く天災の存在でもあり、時には生物を助け生かし守る恵みの天候のような、そんな理を超えたモノが世界の中に、直ぐ触れられる程近くに確かに存在している。もしも、天候に意志があるとしたら、天災も恵みも意思の元に与えられるのだとしたら、この世界はどうなるのだろう。ある限られた人にはそれは運命として与えられ、時に残酷なまでに冷淡な仕打ちであり時に恩恵となり語り継がれる事となる。
ゲートキーパーって知ってる?
少女が問いかける言葉に耳を傾けると、その先には非日常への扉が音もなく口を開けて待っている。
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。
===
エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中
【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
都市街下奇譚
碧
ホラー
とある都市。
人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。
多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか?
多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。
忌憚は忌み嫌い避けて通る事。
奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。
そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
感染
宇宙人
ホラー
福岡県北九州市の観光スポットである皿倉山に航空機が墜落した事件から全てが始まった。
生者を狙い動き回る死者、隔離され狭まった脱出ルート、絡みあう人間関係
そして、事件の裏にある悲しき真実とは……
ゾンビものです。
かなざくらの古屋敷
中岡いち
ホラー
『 99.9%幽霊なんか信じていない。だからこそ見える真実がある。 』
幼い頃から霊感体質だった萌江は、その力に人生を翻弄されて生きてきた。その結果として辿り着いた考えは、同じ霊感体質でパートナーの咲恵を驚かせる。
総てを心霊現象で片付けるのを嫌う萌江は、山の中の古い家に一人で暮らしながら、咲恵と共に裏の仕事として「心霊相談」を解決していく。
やがて心霊現象や呪いと思われていた現象の裏に潜む歴史の流れが、萌江の持つ水晶〝火の玉〟に導かれるように二人の過去に絡みつき、真実を紐解いていく。それは二人にしか出来ない解決の仕方だった。
しかしその歴史に触れることが正しい事なのか間違っている事なのかも分からないまま、しだいに二人も苦しんでいく。
やがて辿り着くのは、萌江の血筋に関係する歴史だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる