俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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雨は女の涙

第百七十二話 幕間その1

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 どういうことだ?
 たった一夜開けただけなのに、三人も連絡が付かなくなった。
 朝瑠からは「御免なさい」と短いメールが来た後、此方からの電話は着信拒否に成っている。
 逃げたか。
 小狡く臆病な朝瑠らしい決断の早さだ。
 散々俺のおかげでおいしい思いをしておいて、危なくなったら一番に逃げ出すなんて許せねえ。それ相応の報いを与えてやらなければ気が済まない。捕まえてボコボコにした後知り合いのハードゲイの外人に売り飛ばしてやる。
 怒りを噛み締めながら朝瑠の逃走先に心当たりがないかが他のメンバーに聞こうとして、朝瑠の他に二人も連絡が取れなくなっていることに気付いた。
 たまたまということもあると何度電話しても繫がらない。
 朝瑠は兎も角他の二人にこれだけ早く見切りを付ける決断力はあるとは思えない。二人は俺を心の底から尊敬している。裏切るにしても俺がもう少し追い詰められてからだ。
 脳裏にあの獅子のような男の姿が浮かぶ。
 草木の養分か魚の餌に成ったか。
 そう思いつき寒気に体中が震えた。
 本当にそうなら、相手はあんないるか居ないかも分からないような小物二人の所在すら掴んでいることになる。
 しかも一夜で二人も消された。
 敵は組織的な実行力も情報網も此方の上をいっていると考えて間違いない。この敵を相手にあんな銃を持った程度で何とかなるのか? 銃を持っていたって背後から襲われたら使う暇が無い。
 鏡剪に敵の情報を集めて貰っているが間に合うのか?
 情報が集まった頃には俺以外いなくなっているんじゃないのか?
 なら朝瑠みたいに逃げるか?
 都会を離れて田舎に帰る。
 冗談じゃねえ。俺が俺がこんな所で終わってたまるか。
 今はこつこつ下積みでしけた仕事ばかりだが、俺はもっとのし上がっていくんだ。今じゃ裏で燻っているが、ここで稼いだ金を元に映画史に残るような大作を作って世界に羽ばたくんだ。 
 鏡剪の言った通りだ。安くない上納金を献上しているんだ、こんな時に役に立って貰わなくてどうするんだ。いつも偉そうにしている分、働いて貰うぜ。
 俺はスマフォを取り出すと、一ヶ月ごとに変わるある人物の番号に掛けた。
『私だ』
 さっきの勢いは何処に行ったのか、この腹に響く重低音の声を聞いただけで姿勢を正してしまった。
「フォンさんですか、合谷です」
 本名なんて知らない。通称「フォン」と呼ばれる名しか知らない。更に言えば、俺は顔すら知らない。
『何の用だ?』
「それが少し厄介なことになりまして・・・・・」
『ふむ、それで』
 これが俺が追い込まれている事情を説明し終わったときに返された言葉だった。
 まるで人ごとだ。話を聞いていたかと思うほど俺を心配する様子がない。
「いや、だからやばいんですよ。助けて下さいよ。その為に上納金を納めているじゃないですか」
『おいおい、上納金とは物騒な言葉を使うじゃないか。私はヤクザじゃないんだよ。
 それは常々言い聞かせている思ったが、私の記憶違いだったかな』
 その言葉に背筋にナイフを突きつけられたような思いがした。
「いえ、すいません。コンサルティング料でした」
 俺は慌てて言い直した。抗弁するなど思いもしない。
『そう。私はあくまで君のビジネスが軌道に乗るように常々アドバイスをして、その対価としてコンサルティング料を貰っているだけだ』
 そのアドバイスとやらを貰った記憶は無い。上納金をちょろまかそうとしたときに受けた詰問くらいしか会話の記憶が無い。
「ですからビジネスがやばいんです。助けて下さい」
『ふむ、それは大変だね。
 是非力になろう』
「そっそれじゃ」
 そうだそうだよな。何だかんだ言って俺が納める上納金は大したもんだろ。それを失うことはフォンにとっても痛手のはず。
 ビビる事は無かったんだ。そう考えれば立場は対等。
『だがそれは月々君のビジネスが順調に行くようにアドバイスしている業務とは別になるな』
「それって」
 対等という言葉がたちまち砂となって崩れていくのを感じた。
『当然トラブル対策として別料金を頂く。用意は出来るかね?』
「そっそれは」
 ただでさえ月々高い料金を取られているというのに、この上更にぼったくるというのかよ。
 機材の用意やなんやかんやで経費は結構掛かっている。これ以上の出費はまずい。
「そっそうだ。代わりと言っては何ですが、面白い奴を紹介します」
 そうだ鏡剪だ。俺の代わりに彼奴からぶんどればいい。彼奴だってフォンさんを紹介して貰えるんだ謝礼が欲しいくらいだぜ。
『ほう。それはわざわざ私が契約する価値がある人物なのだね』
「もちろんです」
『分かった。段取りは任せる。まずはその顧客を紹介したまえ、話はそれからだ』
「分かりました。バッチリ段取りします」
『楽しみにしている』
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