俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

文字の大きさ
183 / 328
雨は女の涙

第百八十二話 中道

しおりを挟む
 流石の雨女も不意打ちの上に網が相手では躱しようがなかった。網が雨女の上に覆い被さりスパークするのが見えた。
「きゃあっ」
 雨女は地面に倒れた。体術は凄くても、体の強度自体は普通の少女のようだ。
 雨女がぴくぴく痙攣している中近くの家の塀の扉が内から開かれた。そして網の元を持った男達二人が出てきて雨女に近寄っていく。
 くそっ家の塀の裏に隠れていたのか、死角になっていて分からなかった。
 今日この時間この場所で仕掛けるのを決めたのは俺、つまり成り行きで合谷を追いかけてここまで来たフォンとは違って、俺は入念な事前調査と準備することが出来る圧倒的に有利なホーム戦だった。俺はここでの勝負に賭けて町中の要所要所に監視カメラやセンサーを仕掛けておいた。その上で様子が肉眼で見れて臨場感を感じられる場所に柔軟且つ高速に移動出来るように小型電動式折り畳みバイクを使用していた。更には、いざという時の為に静音性の高い偵察用ドローン三機を別途待機させている。
 それだけの事前準備をしていたというのに結局フォンの影を捕らえることすら出来なかった。少し疑心暗鬼になったようにいなかったんじゃない、ファンはいた。ファンは俺を嘲笑うようにここまでやった監視の目を回潜って一連の事態をどこからか観察し、必殺のタイミングで刺客を放った。
 完全に俺の上手を行っている。
 俺では勝てないというのか。
 いや違う。自分のミスを相手が手が出せない格上だったと言い訳するな。
 これは俺の油断だ。フォンは大友の方を奪回するだろうと其方の周りには気を遣っていたが、雨女の方を奪取に来るとは思ってなかった。確かに賭の内容は、合谷達を襲う犯人の確保なのだから正しいといえば正しいが、この状況で大友を奪いに来た獅子神の方で無く未だ合谷とも大友とも接触していない雨女に狙いを定めないだろうと思い、本当は来ていないのではないかと心の片隅で思っていた俺の油断と怠慢。
 フォンはいる。フォンはどこからか見ている。同じ土俵に乗っている。
 それが分かっただけでも大収穫で、ここからが巻き返し。
 一体何処で事態を見ている? 俺が事前準備したよりも広い範囲をカバーする監視網を構築しているというのか? ドローンが飛んでいる様子はない、偵察衛星でも持っているというのか?
 俺は必死に暗視カメラを使って周りを観察する。
 
「へへっ可愛いじゃないか。後で少しくらいなら楽しんでもいいよな」
 前歯の幾つかが欠けた腹の出た中年が涎を垂らしながら雨女を見詰めている。
 雨女は陸に打ち上げられた魚みたいに柔らかくぐったりとしている。その純白の肌は魚の腹の白を連想し、妙に性的興奮を誘う。
「フォンさんに聞いてみるんだな。それよりもまずはフォンさんに指定された場所まで運ぶぞ。しくじったら消されるぞ」
 此方は神経質そうな会計士でもやっていそうな男で、落ち着かないのか頻りに眼鏡の位置を直している。
 どうにもちぐはぐなコンビで見るからに質の悪そう、本当にフォンの部下なのか?
「そっそうだな」
「お前足を持てよ」
「分かった」
 二人の男が一人が上半身一人が下半身を持って雨女を持ち上げ運び出す。そして近くの裏手に路駐していたワゴン車まで運んでいく。
「来たか。うまくいったようだな」
「ああ、さっさとずらかろう」
 車から顔を出した運転手はニット帽を被ったラップでもやっていそうな若者だった。後部座席を空けると二人は雨女を放り込み、途中で暴れないように拘束をし出す。
 ここが合流地点ではなく、ここから三人でどこかに運ぶようだ。

 どうする?
 後を追跡するべきなのだろうが、ここまで裏を搔かれたんだ俺のことも把握されている可能性がある。単独での追跡は危険か。
 獅子神達を呼び寄せるかと思った俺のスマフォが震えた。見ると八咫の文に工藤からの緊急のメッセージが入っている。
『近くの警察署に通報があって、女性が誘拐されたということで検問が引かれることになった。何をしているか知らないが、問題があるようなら直ぐに逃げろ』
 なんだと! そんな通報一本で検問が引かれるか? やはり警察の上の方に協力者がいるということなのか?
 だがよく考えると、獅子神達もワゴン、雨女を誘拐したグループもワゴン、獅子神達も女性を拉致、雨女を誘拐したグループも少女を拉致。類似性がありまくり、どちらか一方だけを対象にするのは難しいだろう。つまり両方捕まる可能性がある。
 検問の網を抜ける穴でもあるというのか?
 まさか、どちらも捕まえさせるとか、なっ。いや笑って流すべき思いつきじゃない、悪くない。
 自分の部下も潰すが、俺も部下を潰される。そしてフォンの部下が見た目通りの使い捨てなら、有効的すぎる。俺と大友雨女争奪戦を繰り広げるより、一旦警察に捕まえさせてしまう。大友と雨女、二人とも形の上では被害者だ、どちらも解放されるのは当然のこと。解放される過程で自分の手元へ来るように少し細工、家まで送ると言いつつ自分の手元に運ばせるとか、してしまえばいい。警察の上の方に協力者がいれば、そう難しいことじゃない。
 またしても向こうが上手だというのか、それともまたしても俺の被害妄想。
 だがもし被害妄想じゃないのなら。このまま流れに乗って捕まえさせて、警察内部の怪しい動きを突き止めればフォンに辿り着けるかもしれない。
 一見相手の策を逆手に取った名案。だがこの程度のことフォンなら想定内のことじゃないのか? 俺を欺く何かしらの手段を用意していると思った方がいいのか?
 だがこれもフォンが俺の正体を見抜いていることが前提。
 見抜かれている?
 そこまで恐ろしい敵か?
 いやそもそも見抜いているなら、こんな事しないでさっさと影に潜めばいい。
 やはり、ばれていない。なら策は有効か?
 駄目だ。思考の無限ループに陥る。答えを出せる根拠がなさ過ぎる。
 思考が空回りしている中、敵の策に乗るのは危険か? 一発逆転の妄想に取り付かれてないか?
 くそっ司令官として失格だが、こうなったら脳筋となって敵の策を片端から潰していく、戦略的敗北を戦術的勝利で覆してやるか。
 荒々しさに惹かれる策。だが戦術的勝利の積み重ねが戦略的勝利に結びつかないことなどよくある。
 今回の件で言えば、フォンの策を片っ端から潰した結果、フォンが逃げてしまったら努力は全て水の泡、作戦は失敗となる。
 そういった意味では、戦術的に全て負けてもフォンを引っ張り出せたのなら勝利だ。
 どうする?
 ・
 ・
 ・
 凡人は凡人らしく、中道を行くのが似合っているか。
 俺は獅子神に直ぐさま逃げるように指示を出した。フォローは出来ない、上司として獅子神なら何とか切り抜けると信じるしかない。
 そして俺。
 やっぱり俺は体を張る現場の人間なのか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。 === エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中 【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

GATEKEEPERS  四神奇譚

ホラー
時に牙を向く天災の存在でもあり、時には生物を助け生かし守る恵みの天候のような、そんな理を超えたモノが世界の中に、直ぐ触れられる程近くに確かに存在している。もしも、天候に意志があるとしたら、天災も恵みも意思の元に与えられるのだとしたら、この世界はどうなるのだろう。ある限られた人にはそれは運命として与えられ、時に残酷なまでに冷淡な仕打ちであり時に恩恵となり語り継がれる事となる。 ゲートキーパーって知ってる? 少女が問いかける言葉に耳を傾けると、その先には非日常への扉が音もなく口を開けて待っている。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

都市街下奇譚

ホラー
とある都市。 人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。 多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか? 多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。 忌憚は忌み嫌い避けて通る事。 奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。 そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

感染

宇宙人
ホラー
福岡県北九州市の観光スポットである皿倉山に航空機が墜落した事件から全てが始まった。 生者を狙い動き回る死者、隔離され狭まった脱出ルート、絡みあう人間関係 そして、事件の裏にある悲しき真実とは…… ゾンビものです。

かなざくらの古屋敷

中岡いち
ホラー
『 99.9%幽霊なんか信じていない。だからこそ見える真実がある。 』 幼い頃から霊感体質だった萌江は、その力に人生を翻弄されて生きてきた。その結果として辿り着いた考えは、同じ霊感体質でパートナーの咲恵を驚かせる。 総てを心霊現象で片付けるのを嫌う萌江は、山の中の古い家に一人で暮らしながら、咲恵と共に裏の仕事として「心霊相談」を解決していく。 やがて心霊現象や呪いと思われていた現象の裏に潜む歴史の流れが、萌江の持つ水晶〝火の玉〟に導かれるように二人の過去に絡みつき、真実を紐解いていく。それは二人にしか出来ない解決の仕方だった。 しかしその歴史に触れることが正しい事なのか間違っている事なのかも分からないまま、しだいに二人も苦しんでいく。 やがて辿り着くのは、萌江の血筋に関係する歴史だった。

処理中です...