俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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世界救済委員会

第百九十五話 派閥 その2

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「おっ来たね。ささっ座って」
 陽気そうなおっさんが部下を後ろに控えさせ気楽そうに声を掛けてくる。
 本庁にある五津府の部屋から直接波柴の部屋に来た俺と如月さん。恰幅のいい五津府とは対照的で少々貧相に見える躰付きだが部屋の趣味は成金丸出しだった。見て分かる煌めく高級品ばかりで、来る者に成金社長の部屋にでも来てしまったかと思わせる。
 まあ、分かりやすいと言えば分かりやすい。
「はっ」
 教科書に載せられるような敬礼をする如月さん、先程と形こそ同じに見えるが心が込められてないのがよく分かる。俺も心がどうだとか根性論と馬鹿にしていたが、実際に見ると形が同じでも魂が籠もっているのと籠もってないとで雲泥の差があるのが分かる。
 さてと、俺にしてみれば初めて会う五津府以外の警察幹部。その手腕、カリスマはどうなのだろうか? 場合によっては鞍替えしてもいいと思わせる何かがあるのだろうか?
 初見では波柴には五津府にある何処か相手をかしこまらせる威厳は無い。代わりに何でも相談出来る気さくそうなおっさんに見える。最初に二人を並べられてどちらを選べといわれたら、10人中8人くらいは波柴を選びそうである。まあ警察の幹部にまで上り詰めているんだ、五津府同様腹黒いくせ者なのは間違いないだろうがな。
 如月さんと俺は波柴の対面に座る。そして波柴の側近だろうと思われる男は波柴の背後に直立不動で立ったままでいる。こちらは主人である波柴とは対象で鋭利な剃刀のイメージ、鷹揚なNo1に切れ者の嫌われ者のNo2、理想の組織形態とも言える。
「よう来てくれたな。如月ちゃんは相変わらずべっぴんさんだな、どや五津府なんてむっつりからワイに乗り換えないか?」
 波柴が如月さんの手を握ろうとさり気なく手を伸ばしていく。近今のセクハラがこれだけ世の中を騒がしている中怯む事無い勇気には賞賛する。まあこのオッサンはセクハラをしても仕方ないで許されそうなキャラを持っている。俺だったら速攻訴訟だな。
「今すぐ警視長にしてくださるのなら考えますわ」
 如月さんはさっと手を引っ込めてニッコリと笑う。
「マンションと言わんところが可愛げ無いの~」
 マンションなら買ってやるのかよ。陽気なスケベ親父、俺が苦手なタイプだ。ここは如月さんを盾に大人しくしていよう。
「女の身で警察を生きていくにはそれくらいでないと。
 さあ、お戯れはここまでにして仕事の話をしましょう」
「そやな」
 如月さんの一言でスッと波柴から陽気さが引いていく。
「映像は見たんだろ。ワイの可愛い息子をあんなにした犯人を何としても捕らえろ」
 それはヤクザの親分でも裸足で逃げ出すほど凄みがあった。その凄みにあって如月さんも怯まず物申す。
「私怨ですか」
 幾ら五津府の後ろ盾があるとはいえズバリ言い切って大丈夫なのか?
「私怨が悪いか」
 うわっこっちも開き直っているのか誤魔化すこと無く認めたぞ。
「ああっおのれは身内が不幸にあっても平然としている方が人間らしいというのか」
 如月さんの顔に鼻息が掛かるほど顔を近づけて睨み付けている。
 チンピラみたいだが、波柴の言うことも一理あると言えばある。仲間が殺られて怒り狂う姿は、身内から見れば心強いだろう。五津府なら怒りを腹に呑み込み、表情には一切出さないだろうな。公私混合しない潔癖に見えるかも知れないが、見ようによっては冷たい男とも取れる。
「それにだ。
 ワイはちゃんと筋は通しとるで。息子をこんなにしたのはどうも普通じゃ無いらしい、だから筋を通しておのれ等に依頼したんじゃ。
 これはおのれ等の仕事じゃろっ、のう公安九十九課。
 そして退魔官」
 五津府はどこか傍観していた俺に矛先を向けてきた。
「さっきから黙り込みおって、すかしおって気分良くないの~」
 口を挟む間もなかったと思うが、俺の波柴を見定めようとする態度を見透かされたのなら言い訳のしようが無い。
「貴方のご機嫌取りは仕事じゃありませんので」
 それにクライアントを見定めるのは大事な仕事だ。
「おっその台詞もう飲みこめんぞ」
「撤回する気はありません。
 ですがこの件が退魔官の領分なら、依頼された以上仕事は果たします」
「おっ自分肝が座っているじゃ無いか。若いもんはそのくらいの方がええ」
 何が気に入ったんだ?
 急に笑顔になると波柴は俺の肩をパンパン叩く。
 苦手だ。
 嫌いなら嫌い通す一貫性が無い。合理じゃ無い。
 ある意味五津府以上に腹が読めない。
「よしよし期待しとるで~。ほれこれを受け取れ」
 パチンと波柴が指を鳴らすと、後ろに控えていた男がテーブルの上に札束をどしどしと積んできた。
 100万束が五つはあるように見える。
「これは?」
「捜査費用や。何をするにしても実弾は必要やろ。
 これはワイの権限で動かせる資金じゃ。領収書を持って来いなんてセコイ事は言わん、好きに使えや」
「気前のいい事で」
 口だけ応援するという上司は星の数ほどいるが、いらぬ口を出す前に一番の力強い応援をしてくれる男はそうはいない。
 普通の男なら付いていきたくなるかもな。
 後で何か言ってきても如月さんという証言者もいる。何より、気っぷの良さの男気で部下を惹き付けるタイプと見た。
 なら自分の男を下げるような事はすまい。
 ここで下手な駆け引きとプライドはいらない、俺は札束に手を伸ばす。
「ちょっと果無君」
 俺が躊躇わず札束に手を伸ばすのを見て如月さんは驚く。
「何か問題が? 捜査費用でしょ」
「五津府さんからも貰っているでしょ。二重取りよ」
「どうせ、五津府のことやキッチリ借用者とか書かされとるんだろ。
 ワイはそんなせこくないで」
「現場を分かって貰えて助かります。
 捜査費用は幾らあっても多すぎる事はありませんので」
「私は忠告したわよ」
 ぷいっとそっぽを向いてしまう如月さん、面倒見のいいお姉さんに見捨てられたか?
 それでも仕方が無い。今の俺には落ちている金を拾わないで済むほど余裕が無い。
「この金で一流の旋律士でも何でも雇うがええ。
 その代わり絶対に犯人を挙げろ。しくったら警察におられんようにしたるで」
 その言葉通りしくじったら退魔官を辞めさせられるだろうが、それがどうした。
「逆に成功したら?」
「この三倍の成功報酬を払ったるわ」
 信賞必罰、飴と鞭の落差が素晴らしい。俺が普通だったら惚れちゃうね。
「なるほど波柴さんは、やる気を出させるコツが分かってますね」
 下手な励ましの言葉より金。
 下手なアドバイスより金。
 実に素晴らしい。
「だがなこれだけ資金をだすんや。首輪は付けさせて貰うで。
 黒田」
「はい」
 後ろに控えていた男が歯切れ良く返事する。
「此奴を連れて行け」
「ならいりません」
 俺はテーブルの上の札束を波柴の方に押し返した。
「なっ」
 ノータイムで金を突っ返した俺に波柴の顔が一瞬ぽかんとする。既に受け取りかけた自由に出来る金500万を躊躇いなく返されるとは思わなかったようだ。
「監視を付けられるのは好みませんので。
 あっ成功報酬は貰いますよ」
「待てや。そんな勝手出来ると思っているのか?」
「なぜです。資金を出すから監視を付ける。なら資金はいらないから監視もいらないは通るでしょ」
 俺の横ではしてやったねって顔で如月さん嬉しそうにしているが、別に狙ったわけじゃ無い。波柴が余計な事を言わなければ、躊躇いなく金は貰って躊躇いなく如月さんの不興を買っていた。
「自分裏で何をするつもりや」
「何も」
 五津府と共謀するとでも思っているのか?
 まあ報告はするが、今のところ波柴を敢えて貶めようとは思わない。俺は職務を果たすだけ、五津府がそこから波柴を貶める策を練るのは別の話だ。
「はあ」
「ただ首輪は嫌なんですよ。苦しくて」
 まあ首があると。裏技が使いにくくなるのもあるが、やはり俺の性分として監視されるのは気にくわない。
 やるなら一人自由にやる。
「私が信用出来ないというならこの話は無しにしましょう。
 貴方の手駒を使えば十分調査は出来ます。旋律士もあなたならツテの一つや二つ持っているでしょ」
「はっは、ほんまくそ度胸やな。
 いいぞ、もってけ」
 波柴は再度俺の方に札束を押す。
「ですから」
「監視は無しや。その代わり定期報告はしろ。それが譲歩出来るギリギリや」
 本気だ。これ以上何を言おうが波柴が引かない引かせないのが分かる。きっとここで切れたフリをして出ていっても、後日追い詰められるんだろうな。
 だったらここで折れた方が無駄も遺恨も無いか。
「了解しました。
 報告は其方の黒田さんへ行えばいいのですか?」
「まあ、ワイはこれでも色々忙しい身だ。黒田に相談せえ。此奴は切れもんやで」
「後で俺の直通の番号を教える」
「お願いします」
 男の番号を教えて貰っても嬉しくないな。まあコネ作りと思うか。此奴は利が合えば、色々動くタイプとみた。
「どや自分五津府なんぞ辞めてワイの派閥に来ないか?
 五津府は冷たいで~腹で何を考えているか分からん。無能とみれば直ぐ捨てられるで」
「そんな事は分かってますよ」
 如月さんはどうだか知らないが、俺は掛け値無く心底そう思っている。
「ならこっちに来い。ワイは身内は見捨てない」
「そうなんでしょうね。
 でもね、貴方は私にとって重いんですよ」
 うっとうしい、暑苦しいとは流石に言えない。多少はオブラートに包む。
「重い?」
「無能なら容赦なく捨てられる。その方が気楽なんですよ」
「はあ?」
「情なんて俺には重すぎる。
 ギブアンドテイク。それで十分、十分なんですよ」
 簡単に切り捨てられると言う事は、逆に俺が五津府を切り捨ててもいいということ。
 対等だ。
「流石五津府の部下やな。けったいなやっちゃ」
「では早速仕事に取りかかります。
 報奨金タップリ用意しておいて下さい」
「おう。持ちきれんほど用意しといたるわ」
 波柴はニヤッと笑って返す。

 捜査を始める前にぐったり疲れ切ったが、こうして捜査が始まったのだった。
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