俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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世界救済委員会

第276話 昭和の教師

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 武器は使えない。
 武器は悪意の象徴、これ以上罪荷が増えれば流石に地獄に沈んでしまう。代わりに生きて罪を償う代償に俺の生は輝き身体能力は上がっている。
 現に今までに無いほどに繰り出す拳に力とスピードが乗っている。
 なのに殻には当たらない。
 殻は俺とは逆に地獄の責め苦で身体能力が落ちているというのに。
「シッシッシッ」
 短く吐く息に連なるジャブの三連檄、かつて無いほどにスピードが乗っているというのに殻にはいなされてしまう。
「シッ」
 ジャブからの引き手に合わせて踏み込む右のスマッシュ。
「甘い」
「がっ」
 カウンターを合わせられ顎が上がってしまい、晒される喉元に間髪入れずに殻の手刀が突き込まれるが、上がった身体能力にものをいわせて躱してくるっと廻って裏拳を放つ。
 改心のコンビネーションだというのに殻には受けられてしまう。
 身体能力は俺が上、だが殻にはモーションを盗まれ先読みされる。
 これが才能の差か。
 僻みはみっともないな。素直に認めよう才能じゃ無い単純に潜った修羅場の数が違う経験値の差。俺でも殻と同じ場数を踏めば到達出来る極地。
 まあ、生き残る事が出来ればだがな。
 後手に回ったら覆せなくなる、身体能力が上ならその利点を活かす。いつもと逆、小賢しい技術など力押しで潰す。
「シッシッシッ」
 もはや駆け引きもクソも無い、カウンターを恐れるな左右左右のコンビネーションで押すのみ。
「いい判断だ。
 この地獄で動ける胆力、この地獄を活かす発想力。
 素晴らしい。
 その若さでこれだけの力をよくぞ蓄えた」
 殻が俺の連続攻撃を捌きながら味方からもされたことの無いような絶賛を俺にしてくる。
 地獄で味わうくすぐったさに精神攻撃と疑う余地が無いほどに殻から悪意を感じない。
「だが、なぜだ?」
「なにがだよ」
 殻のあまりに真摯に俺を惜しむ声に手は止めずに応えてしまった。
「なぜこれだけの力がありながら人のために使おうとしない。
 お前ほどの男が世界救済委員会に入れば、いやあそこは戻れなくなった人間の吹き溜まりだ。出来るなら入らない方がいい。
 だがお前なら他の道を見いだせる。多くの人を救えるはずだ」
「興味が無い」
 その他大勢のために命を懸けるヒーローなんぞ俺にとっては気持ち悪い。
「大人になれ」
 カウンターのジャブを貰ったが歯を食い縛って殴り返す。
「俺が死の崖の端に自ら立ったとき。
 恋人が俺を慰めてくれたか?
 親友が俺を励ましてくれたか?
 恩師が俺を導いてくれたか?
 正義の味方が俺を引き止めてくれたか?
 否。
 否だ。
 あの時俺は完全に一人、踏み出せば終わっていた。
 そんな俺を引き止めたは俺だった。
 俺を助けたのは俺、だから俺は俺だけは裏切らないで生きるのみ」
 ジャブとストレートの直線的連続攻撃からフェイント気味に回り込む攻撃ハイキックを放つ。
「悲しいぞ。
 踏み止まれる強さがお前にはあった。
 その強さを人の為に使え」
 殻は読んでましたとでもいうようにハイキックで俺の蹴りを迎撃する。
 殻の言葉は誠実だ。
 殻は俺とは逆に少年期に人を信じられる何かいいことがあったのだろう。
 だからこそその後何度も人の醜さを見たはずなのに人はいい方向変われるなんて奇蹟を信じていられる。
 俺にとってみれば寝言だ。
 そんな奇蹟を信じて殻は地獄で戦っている。俺と違って罰と生の等価交換なんてやってないただ単純に地獄の罰に耐えて戦っている。
「お前の方こそ夢から覚めて自分のために人生を使え」
 右足を降ろすと同時に左足のローキック。
「俺は十分やりたいことの為に人生を使って使い切る」
 狂者が、かつてのジャンヌダルクのように神の啓示でも受けたのかというほど覚悟が決まっている。
 まあ説得が無駄なのはどうでもいいとしても、このままじゃまずい。
 こうして俺と殻がじゃれついている間にもセウは休むこと無く産道に近付いていっている。
 時間を稼ぐだけでいい殻にすれば無理に俺に攻撃するより攻撃を流しているだけでいい。
 ただでさえ手強いというのに条件まで相手の方がいいのかよ。
 流石世界にそっぽを向かれている俺だ。
 ならば俺はもっと悪に成る。
 左手の人差し指と中指を重ねて伸ばし親指を立て薬指と小指を曲げて殻の目に突き込む。
「お前こそ、自分のためだけど言いつつ、なぜ地獄に立つ。少女という他人のためじゃないのか」
 殻は俺の攻撃を蹴りで払う。不用意すぎたか。
 俺の正中線が無防備に晒される。
「あれはいい女だ。
 いい女が下らないことの為に犠牲になるのが我慢ならない俺の自己満足よ」
 容赦ない正拳五連突きを気合いで耐える。
「もうよせ。体はボロボロのはずだ。地獄を見た人類の意識は確実に変わる、その後の世界をよりよい方向に向かわせる為に尽力しろ。
 お前なら託せる。そしてお前にもいずれ仲間が現れる」
 昭和の教師ドラマかよ。
「仕事仲間で十分さ」
 辛うじて倒れはしなかったが足が生まれたての子鹿のようにぷるぷる震える。
「意地っ張りが」
 ふと殻の顔が優しく笑ったように見えた。
「今は地獄で眠れ。そして目覚めて生まれ変われ」
 殻は俺の意識を刈り取らんばかりの一撃と大きく振りかぶる。
 そして振り下ろす前に、銃声が響くのであった。


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