305 / 328
傘
第303話 傘は天下も回り物
しおりを挟む
ぽつぽつ
日が沈むと共に今にも落ちそうな曇天の空模様に変わっていったが、とうとう堪えきれず雨粒が落ち始める。
最初こそ堪えていたが降り出せば水を溜めたシーツが裂けたように一気に激しい雨になり、建物やアスファルトに叩きつけられる。
「あ~あ、振ってきちゃったか」
「そうだな」
飲み屋の暖簾を潜って外に出てきた中年男性の酔客二人。軒下から空を見てほんのり赤く出来上がって楽しげな顔から溜息が零れ落ちる。
「全く天気予報も当てにならない、傘用意してなかったよ。
綿柴は傘持ってきたか?」
酔客の一人がアスファルトで跳ねてスーツのズボンに跳ね上がってくる水飛沫を払いながら言う。
「俺もない」
そもそも天気予報すら見ていない。見なくても何とかなるからな。
「止むまで呑むのもいいが止みそうも無いし、駅までの距離でタクシーを呼ぶのもな~。
ええい、覚悟を決めた。走って駅に行くか。
綿柴はどうする?」
学生時代の友人と久しぶりに呑んだが相変わらずせわしない奴だ。
俺は慌てずチラッと横を見る。
此奴はこれに気付いてないのだろうか?
さり気なくこれを友人から目から隠す。
「俺はもう少し様子を見る」
「そうか、また呑もうな」
そう言うが早いか旧友は駅に走って行き、その背中が人混みに紛れて消えるまで先程の言葉通り様子を見る。
そして完全にいなくなってから横を見る。
飲み屋の入口の脇には傘立てがあり、降り出してから店に入った客の傘が一本刺さっているのが見える。
「傘は天下の回り物」
俺は遠慮無く傘を引き抜いた。
これに気付かないとは愚かな奴だ。もし彼奴もこれを見付けていたら今頃一本しか無い傘の取り合いだったろうな。
男二人で相合い傘何て冗談じゃない。そんなことしたら俺の折角のスーツが濡れてしまうしな。
傘を広げてみる。
うむ、破れてないし綺麗で問題ない。
破れている傘なんて使いたくないからな。
「そうだ」
俺の家はここから数駅離れたところ、駅から家まで雨の中傘を差して歩くのも鬱陶しいしタクシーをわざわざ使うのも勿体ない。
迎えに来させるか。
スマフォを取り出すともう直ぐ帰るから駅まで車で迎えに来いと妻にメールをしておく。
流石俺手配も抜かりなし。
気分良く俺は傘を差して繁華街を歩き出した。
傘を手に入れることが出来ない愚か者共が小走りに駅に向かう中俺は悠々と歩いて濡れること無く駅に着く。
駅に入ると、まずは丁寧に傘に付着した水を払う、幾ら傘が濡れる物でも濡れたままだと気持ち悪いからな。
十分に水を払うと、傘を閉じこまを丁寧に畳んでバンドで締める。
ぽたぽたと傘の石突きから水を垂らすようなみっともない真似をすること無く電車に乗り込む。
最初こそ人が多く温度と湿度が高かくむわっとしたが、駅を通過していく度にだんだんと減っていき。都内を離れ家々より山々の方が窓からの風景を占めるようになる頃にはガラガラになっていた。
そして駅名すら忘れ去れているような無人駅に電車は停車する。
こんな駅で降りる酔狂な者は一人だけのようで、俺が降りると同時に電車は直ぐさまドアを閉めて発車しホームに一人取り残された。
電車が遠くに過ぎ去れば、都会と違い音は木々に雨粒が当たる音だけになる。
静かになってポケットが鳴っているのに気付いた。
ポケットからスマフォを取り出すと同じ人間からの無数の着信といつ帰ってくるのとメールがあった。
今帰るさ。
スマフォを投げ捨て駅舎から出るとまだ雨は降っていたので傘を差し歩き出す。
街灯すら無いような山道を一人歩いて家路に着く。
舗装されてない細道。
泥道に足を滑らせれば木々生い茂る斜面に滑落してしまう、運悪く木々にぶつかって傘の骨が折れたら一大事にだ、気を付けないと。
誰一人すれ違うことの無い山道を登っていけばやがて我が家が見えてきた。
燈も付いていない家だが、やはりほっとする。
庇の下に入り傘の水をさっと払い、戸を開けて土間に入るとここで丁寧に水気を取る。下手に残すと骨が錆び付くから手は抜けない。
いい加減払うだけの水気が無くなったところで部屋を暖めるために囲炉裏に火を入れる。
ばっと火は付き家の中が明るくなる。
戸を開けると土間がありそのまま部屋になっているような時代劇にでもでてきそうな古い造りの家。
土壁に裸の人間の雄雌が三人ほど掛かっているだけの何も無いような家だが、我が家だ。
よく乾くように傘を広げ土間に干す。
これで一息付いてしまいたいが、ものぐさはいけない。
手入れは大事、手入れ次第で長く使える。
まずは服を脱ぐと、良く水を払って部屋の上に通してある棒に掛けて干す。
素っ裸になったら土壁の方に歩いて行く。
土壁にはフックがあり、口を大きく開けるとフックを銜え込んでぶら下がったところで放置した。
これで囲炉裏の火で暖められ、風邪を引くこと無く長持ちする。
さて、今日はもう終わった。
明日はどの人間で出掛けようかな?
今日は久しぶりに新しい人間が手に入ったし、暫くこの新しい人間を使ってもいいかもしれない。
はあ~こまが乾いていくのが気持ちいい。
今日はもうゆっくり休もう。
明日が楽しみだ。
日が沈むと共に今にも落ちそうな曇天の空模様に変わっていったが、とうとう堪えきれず雨粒が落ち始める。
最初こそ堪えていたが降り出せば水を溜めたシーツが裂けたように一気に激しい雨になり、建物やアスファルトに叩きつけられる。
「あ~あ、振ってきちゃったか」
「そうだな」
飲み屋の暖簾を潜って外に出てきた中年男性の酔客二人。軒下から空を見てほんのり赤く出来上がって楽しげな顔から溜息が零れ落ちる。
「全く天気予報も当てにならない、傘用意してなかったよ。
綿柴は傘持ってきたか?」
酔客の一人がアスファルトで跳ねてスーツのズボンに跳ね上がってくる水飛沫を払いながら言う。
「俺もない」
そもそも天気予報すら見ていない。見なくても何とかなるからな。
「止むまで呑むのもいいが止みそうも無いし、駅までの距離でタクシーを呼ぶのもな~。
ええい、覚悟を決めた。走って駅に行くか。
綿柴はどうする?」
学生時代の友人と久しぶりに呑んだが相変わらずせわしない奴だ。
俺は慌てずチラッと横を見る。
此奴はこれに気付いてないのだろうか?
さり気なくこれを友人から目から隠す。
「俺はもう少し様子を見る」
「そうか、また呑もうな」
そう言うが早いか旧友は駅に走って行き、その背中が人混みに紛れて消えるまで先程の言葉通り様子を見る。
そして完全にいなくなってから横を見る。
飲み屋の入口の脇には傘立てがあり、降り出してから店に入った客の傘が一本刺さっているのが見える。
「傘は天下の回り物」
俺は遠慮無く傘を引き抜いた。
これに気付かないとは愚かな奴だ。もし彼奴もこれを見付けていたら今頃一本しか無い傘の取り合いだったろうな。
男二人で相合い傘何て冗談じゃない。そんなことしたら俺の折角のスーツが濡れてしまうしな。
傘を広げてみる。
うむ、破れてないし綺麗で問題ない。
破れている傘なんて使いたくないからな。
「そうだ」
俺の家はここから数駅離れたところ、駅から家まで雨の中傘を差して歩くのも鬱陶しいしタクシーをわざわざ使うのも勿体ない。
迎えに来させるか。
スマフォを取り出すともう直ぐ帰るから駅まで車で迎えに来いと妻にメールをしておく。
流石俺手配も抜かりなし。
気分良く俺は傘を差して繁華街を歩き出した。
傘を手に入れることが出来ない愚か者共が小走りに駅に向かう中俺は悠々と歩いて濡れること無く駅に着く。
駅に入ると、まずは丁寧に傘に付着した水を払う、幾ら傘が濡れる物でも濡れたままだと気持ち悪いからな。
十分に水を払うと、傘を閉じこまを丁寧に畳んでバンドで締める。
ぽたぽたと傘の石突きから水を垂らすようなみっともない真似をすること無く電車に乗り込む。
最初こそ人が多く温度と湿度が高かくむわっとしたが、駅を通過していく度にだんだんと減っていき。都内を離れ家々より山々の方が窓からの風景を占めるようになる頃にはガラガラになっていた。
そして駅名すら忘れ去れているような無人駅に電車は停車する。
こんな駅で降りる酔狂な者は一人だけのようで、俺が降りると同時に電車は直ぐさまドアを閉めて発車しホームに一人取り残された。
電車が遠くに過ぎ去れば、都会と違い音は木々に雨粒が当たる音だけになる。
静かになってポケットが鳴っているのに気付いた。
ポケットからスマフォを取り出すと同じ人間からの無数の着信といつ帰ってくるのとメールがあった。
今帰るさ。
スマフォを投げ捨て駅舎から出るとまだ雨は降っていたので傘を差し歩き出す。
街灯すら無いような山道を一人歩いて家路に着く。
舗装されてない細道。
泥道に足を滑らせれば木々生い茂る斜面に滑落してしまう、運悪く木々にぶつかって傘の骨が折れたら一大事にだ、気を付けないと。
誰一人すれ違うことの無い山道を登っていけばやがて我が家が見えてきた。
燈も付いていない家だが、やはりほっとする。
庇の下に入り傘の水をさっと払い、戸を開けて土間に入るとここで丁寧に水気を取る。下手に残すと骨が錆び付くから手は抜けない。
いい加減払うだけの水気が無くなったところで部屋を暖めるために囲炉裏に火を入れる。
ばっと火は付き家の中が明るくなる。
戸を開けると土間がありそのまま部屋になっているような時代劇にでもでてきそうな古い造りの家。
土壁に裸の人間の雄雌が三人ほど掛かっているだけの何も無いような家だが、我が家だ。
よく乾くように傘を広げ土間に干す。
これで一息付いてしまいたいが、ものぐさはいけない。
手入れは大事、手入れ次第で長く使える。
まずは服を脱ぐと、良く水を払って部屋の上に通してある棒に掛けて干す。
素っ裸になったら土壁の方に歩いて行く。
土壁にはフックがあり、口を大きく開けるとフックを銜え込んでぶら下がったところで放置した。
これで囲炉裏の火で暖められ、風邪を引くこと無く長持ちする。
さて、今日はもう終わった。
明日はどの人間で出掛けようかな?
今日は久しぶりに新しい人間が手に入ったし、暫くこの新しい人間を使ってもいいかもしれない。
はあ~こまが乾いていくのが気持ちいい。
今日はもうゆっくり休もう。
明日が楽しみだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
GATEKEEPERS 四神奇譚
碧
ホラー
時に牙を向く天災の存在でもあり、時には生物を助け生かし守る恵みの天候のような、そんな理を超えたモノが世界の中に、直ぐ触れられる程近くに確かに存在している。もしも、天候に意志があるとしたら、天災も恵みも意思の元に与えられるのだとしたら、この世界はどうなるのだろう。ある限られた人にはそれは運命として与えられ、時に残酷なまでに冷淡な仕打ちであり時に恩恵となり語り継がれる事となる。
ゲートキーパーって知ってる?
少女が問いかける言葉に耳を傾けると、その先には非日常への扉が音もなく口を開けて待っている。
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。
===
エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中
【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
都市街下奇譚
碧
ホラー
とある都市。
人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。
多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか?
多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。
忌憚は忌み嫌い避けて通る事。
奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。
そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
感染
宇宙人
ホラー
福岡県北九州市の観光スポットである皿倉山に航空機が墜落した事件から全てが始まった。
生者を狙い動き回る死者、隔離され狭まった脱出ルート、絡みあう人間関係
そして、事件の裏にある悲しき真実とは……
ゾンビものです。
かなざくらの古屋敷
中岡いち
ホラー
『 99.9%幽霊なんか信じていない。だからこそ見える真実がある。 』
幼い頃から霊感体質だった萌江は、その力に人生を翻弄されて生きてきた。その結果として辿り着いた考えは、同じ霊感体質でパートナーの咲恵を驚かせる。
総てを心霊現象で片付けるのを嫌う萌江は、山の中の古い家に一人で暮らしながら、咲恵と共に裏の仕事として「心霊相談」を解決していく。
やがて心霊現象や呪いと思われていた現象の裏に潜む歴史の流れが、萌江の持つ水晶〝火の玉〟に導かれるように二人の過去に絡みつき、真実を紐解いていく。それは二人にしか出来ない解決の仕方だった。
しかしその歴史に触れることが正しい事なのか間違っている事なのかも分からないまま、しだいに二人も苦しんでいく。
やがて辿り着くのは、萌江の血筋に関係する歴史だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる