10 / 328
第十話 ただのモブじゃいられない
しおりを挟む
「ふう」
タナトスに浸っている場合じゃ無いか。これも歪になった心故か時々破滅感に浸ってしまうことがある。いけないいけない俺は時雨さんの美しさの先を見極めたい、まだまだ終わるわけにはいかない。
となると時雨さんに頼まれたこともしておかないとな。でないとますます嫌われる。これ以上嫌われて時雨さんの限界値は超えないようにしないと。そんなことになったら、時雨さんはプライドも優しさもかなぐり捨てて俺を捨ててしまうかもしれない。逆鱗に触れて時雨さんにあの旋律で殺されるならまだしも、そんなことになったら絶望で俺は気が狂ってしまう。
とは言え時雨さんもモブの俺に無理を言ってくれる。体は先程の無茶の反動で鉛のように重く、水嵩は既に膝まで来ている。まだ溺れるような量じゃないが疲労していれば話は別、人間は水たまりでだって溺れられる。
それでも時雨さんの傍にいる為、俺は動くしかない。
ただのモブにじゃ傍にいられない。
「さてと」
俺はざっと見渡して必死になって水の中に手を入れて泣き叫んでいる少女の側に、泥に取られる足を必死に動かし、ざぶざぶ水を掻き分け突き進む。
「んっ」
近寄った俺を血走った目で少女は見るが構わず、おもむろに水の中に手を突っ込み男を一人引き上がる。
ぐったりしている男の胸に一発掌底を叩き込む。
「ごほげほがふ」
「雅ちゃん」
男は水を吐き出し、少女の顔に喜色が浮かぶ。
「立てるか」
「ああ」
男の返事を聞いて俺は男から手を離すとストンと男は膝立ちとなり、直ぐさま女が傍に寄って支える。
「すまない助かった」
「いいからさっさと立て、また溺れるぞ」
「ああ」
男は女に助けられ何とか立ち上がってくる。こっちはもう大丈夫として、他は?と周りを見渡すべく首を回して逆さまになった女と目が合った。
「くっ」
女はガラスを隔てた向こう側にいる。
そこで恐怖に固まった顔で振り子の如く逆さになってぶーらぶーら揺れている。服は引き剥がされたのか、はだけた白い胸もゆらゆら揺れている。最初に見た女達のと違い肌がまだ死蝋化してないことから、ここに一緒に閉じ込められたカップルの一人だろう。
まさか、もう犠牲者が出ているとは思わなかった。水の手は簡単に倒せるが、数は多く休むこと無く襲いかかってくる。疲れ果てた獲物から向こう側に引きづり込んでいく。もしかしたら、獲物をじっくりいたぶる為に弱いのかも知れない。よく知る悪意の深さに身震いする。
そういえば相手の男はどうしたと探そうとしたところで悲鳴が聞こえた。
「お願い、助けて助けて」
派手なピンクに染めたパーマにでかいイヤリング、ハデ目に飾る少女が水に手に捕まり水槽の縁の辺まで引きづり上げられている。少女は必死になって手を伸ばして助けを求めている。普段なら近寄りたくないギャル系の少女だが、その必死に助けを求める顔は年相応の少女の顔だった。
水槽の高さは4メートルくらい、まともにジャンプしても届かないに、今は足は泥に取られ、水も膝まである。
無理だな。見切りを早くも付けた俺の肩に手が乗った。
「おい、果無どうする?」
「ん?」
さっき助けた男に名前を呼ばれたが名乗ったか?
「おいその顔は何だよ。同じ大学で一般教養同じクラスだっただろ」
「そうだっけ」
用の無い他人に興味の無い俺には記憶に無い。
見た目中々顔は良く、明るいチャラ男タイプ。さっきまで自分も死にかけたクセに他人を助けようとするとは。
「俺は西村。ったく。教室じゃあんなに愛想良さそうだったのに。っが今はそれどころじゃ無い。助けなきゃ」
早々に計算して諦められる俺と違って心が歪んでないんだな。その人間らしい真っ直ぐな心は人を助けようとする。
俺一人なら無理だが、いい人がいるなら何とかなるか。
「それには同感だが、協力してくれるか?」
「おう任せろ」
「言質は取ったぞ」
言った瞬間に俺は西村の肩をぐいっと引っ張り、どんと背中を前に突き押すと、尻を蹴り飛ばした。
「うわっ」
西村は蹴られて倒れそうになり、バランスを取ろうと前屈みになった。前屈みとなったその背中をジャンプ台にして、俺は少女に向かって飛んだ。
「手を伸ばせっ」
俺の叫びに蜘蛛の糸を見つけた少女は必死に手を俺に向かって伸ばす。
掴めた。
運の無い俺が掴んだというより、少女の持つ天運が俺にその手を掴ませたのだろう。
届いて少女の手を掴めた、ここまでは運だが。その先は実力。
掴んだ手をぐっと引っ張り、俺が水槽に向かって引っ張られる。水槽にぶつかる瞬間腰を浮かして足でガラスを受けると、その反動を利用して一気に足を伸ばしてガラスを蹴った。
バシャと少女を掴む水の手は引き千切れ、抵抗がなくなったと思った瞬間俺と少女は真っ逆さまに落下する。普通なら受け身をとっても大けがをするが、幸いにも水が溜まっている。
ウォータースライダーで着水したような衝撃で済んで、俺は直ぐさま立ち上がる。
「おい、大丈夫か」
西村が心配そうに駆け寄ってくる。蹴り飛ばしたことは気にしてないようだ。
「ああ」
それにしてもまずいな、立ち上がって水嵩が腰までに増えていた。
タナトスに浸っている場合じゃ無いか。これも歪になった心故か時々破滅感に浸ってしまうことがある。いけないいけない俺は時雨さんの美しさの先を見極めたい、まだまだ終わるわけにはいかない。
となると時雨さんに頼まれたこともしておかないとな。でないとますます嫌われる。これ以上嫌われて時雨さんの限界値は超えないようにしないと。そんなことになったら、時雨さんはプライドも優しさもかなぐり捨てて俺を捨ててしまうかもしれない。逆鱗に触れて時雨さんにあの旋律で殺されるならまだしも、そんなことになったら絶望で俺は気が狂ってしまう。
とは言え時雨さんもモブの俺に無理を言ってくれる。体は先程の無茶の反動で鉛のように重く、水嵩は既に膝まで来ている。まだ溺れるような量じゃないが疲労していれば話は別、人間は水たまりでだって溺れられる。
それでも時雨さんの傍にいる為、俺は動くしかない。
ただのモブにじゃ傍にいられない。
「さてと」
俺はざっと見渡して必死になって水の中に手を入れて泣き叫んでいる少女の側に、泥に取られる足を必死に動かし、ざぶざぶ水を掻き分け突き進む。
「んっ」
近寄った俺を血走った目で少女は見るが構わず、おもむろに水の中に手を突っ込み男を一人引き上がる。
ぐったりしている男の胸に一発掌底を叩き込む。
「ごほげほがふ」
「雅ちゃん」
男は水を吐き出し、少女の顔に喜色が浮かぶ。
「立てるか」
「ああ」
男の返事を聞いて俺は男から手を離すとストンと男は膝立ちとなり、直ぐさま女が傍に寄って支える。
「すまない助かった」
「いいからさっさと立て、また溺れるぞ」
「ああ」
男は女に助けられ何とか立ち上がってくる。こっちはもう大丈夫として、他は?と周りを見渡すべく首を回して逆さまになった女と目が合った。
「くっ」
女はガラスを隔てた向こう側にいる。
そこで恐怖に固まった顔で振り子の如く逆さになってぶーらぶーら揺れている。服は引き剥がされたのか、はだけた白い胸もゆらゆら揺れている。最初に見た女達のと違い肌がまだ死蝋化してないことから、ここに一緒に閉じ込められたカップルの一人だろう。
まさか、もう犠牲者が出ているとは思わなかった。水の手は簡単に倒せるが、数は多く休むこと無く襲いかかってくる。疲れ果てた獲物から向こう側に引きづり込んでいく。もしかしたら、獲物をじっくりいたぶる為に弱いのかも知れない。よく知る悪意の深さに身震いする。
そういえば相手の男はどうしたと探そうとしたところで悲鳴が聞こえた。
「お願い、助けて助けて」
派手なピンクに染めたパーマにでかいイヤリング、ハデ目に飾る少女が水に手に捕まり水槽の縁の辺まで引きづり上げられている。少女は必死になって手を伸ばして助けを求めている。普段なら近寄りたくないギャル系の少女だが、その必死に助けを求める顔は年相応の少女の顔だった。
水槽の高さは4メートルくらい、まともにジャンプしても届かないに、今は足は泥に取られ、水も膝まである。
無理だな。見切りを早くも付けた俺の肩に手が乗った。
「おい、果無どうする?」
「ん?」
さっき助けた男に名前を呼ばれたが名乗ったか?
「おいその顔は何だよ。同じ大学で一般教養同じクラスだっただろ」
「そうだっけ」
用の無い他人に興味の無い俺には記憶に無い。
見た目中々顔は良く、明るいチャラ男タイプ。さっきまで自分も死にかけたクセに他人を助けようとするとは。
「俺は西村。ったく。教室じゃあんなに愛想良さそうだったのに。っが今はそれどころじゃ無い。助けなきゃ」
早々に計算して諦められる俺と違って心が歪んでないんだな。その人間らしい真っ直ぐな心は人を助けようとする。
俺一人なら無理だが、いい人がいるなら何とかなるか。
「それには同感だが、協力してくれるか?」
「おう任せろ」
「言質は取ったぞ」
言った瞬間に俺は西村の肩をぐいっと引っ張り、どんと背中を前に突き押すと、尻を蹴り飛ばした。
「うわっ」
西村は蹴られて倒れそうになり、バランスを取ろうと前屈みになった。前屈みとなったその背中をジャンプ台にして、俺は少女に向かって飛んだ。
「手を伸ばせっ」
俺の叫びに蜘蛛の糸を見つけた少女は必死に手を俺に向かって伸ばす。
掴めた。
運の無い俺が掴んだというより、少女の持つ天運が俺にその手を掴ませたのだろう。
届いて少女の手を掴めた、ここまでは運だが。その先は実力。
掴んだ手をぐっと引っ張り、俺が水槽に向かって引っ張られる。水槽にぶつかる瞬間腰を浮かして足でガラスを受けると、その反動を利用して一気に足を伸ばしてガラスを蹴った。
バシャと少女を掴む水の手は引き千切れ、抵抗がなくなったと思った瞬間俺と少女は真っ逆さまに落下する。普通なら受け身をとっても大けがをするが、幸いにも水が溜まっている。
ウォータースライダーで着水したような衝撃で済んで、俺は直ぐさま立ち上がる。
「おい、大丈夫か」
西村が心配そうに駆け寄ってくる。蹴り飛ばしたことは気にしてないようだ。
「ああ」
それにしてもまずいな、立ち上がって水嵩が腰までに増えていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
GATEKEEPERS 四神奇譚
碧
ホラー
時に牙を向く天災の存在でもあり、時には生物を助け生かし守る恵みの天候のような、そんな理を超えたモノが世界の中に、直ぐ触れられる程近くに確かに存在している。もしも、天候に意志があるとしたら、天災も恵みも意思の元に与えられるのだとしたら、この世界はどうなるのだろう。ある限られた人にはそれは運命として与えられ、時に残酷なまでに冷淡な仕打ちであり時に恩恵となり語り継がれる事となる。
ゲートキーパーって知ってる?
少女が問いかける言葉に耳を傾けると、その先には非日常への扉が音もなく口を開けて待っている。
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。
===
エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中
【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
都市街下奇譚
碧
ホラー
とある都市。
人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。
多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか?
多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。
忌憚は忌み嫌い避けて通る事。
奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。
そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
感染
宇宙人
ホラー
福岡県北九州市の観光スポットである皿倉山に航空機が墜落した事件から全てが始まった。
生者を狙い動き回る死者、隔離され狭まった脱出ルート、絡みあう人間関係
そして、事件の裏にある悲しき真実とは……
ゾンビものです。
かなざくらの古屋敷
中岡いち
ホラー
『 99.9%幽霊なんか信じていない。だからこそ見える真実がある。 』
幼い頃から霊感体質だった萌江は、その力に人生を翻弄されて生きてきた。その結果として辿り着いた考えは、同じ霊感体質でパートナーの咲恵を驚かせる。
総てを心霊現象で片付けるのを嫌う萌江は、山の中の古い家に一人で暮らしながら、咲恵と共に裏の仕事として「心霊相談」を解決していく。
やがて心霊現象や呪いと思われていた現象の裏に潜む歴史の流れが、萌江の持つ水晶〝火の玉〟に導かれるように二人の過去に絡みつき、真実を紐解いていく。それは二人にしか出来ない解決の仕方だった。
しかしその歴史に触れることが正しい事なのか間違っている事なのかも分からないまま、しだいに二人も苦しんでいく。
やがて辿り着くのは、萌江の血筋に関係する歴史だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる