俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

文字の大きさ
54 / 328

第五十四話 異端児

しおりを挟む
 俺は左右に視線を走らせる。ざっと見だが普通の大学生しかいないように見えるが、こういう奴らが負けて一人でリベンジに来るわけが無い。どこかに仲間が隠れているのだろう。安全な退路としては今出てきたサークル棟の中に戻るしか無いな。だとしてもだ、どのくらいの仲間を引き連れてきたのか探りは入れておきたい。
「おい、何処を見ている。俺の方を見ろ」
「ああっ悪い悪い。
 めんどくさいから聞くが、仲間は何処に隠れている?」
 武道家じゃ無いんだ殺気を感じて敵の位置を掴むなんてできるか。俺に出来ることといえば、この口で揺さぶりを掛けていくことくらい。
「はあ?」
 ちっ脳筋かと思えば相手もなかなかの役者。音羽は訳が分からなそうな顔をする。
「白を切るな。さっさと出せよ」
「お前俺が仲間を引き連れてお礼参りに来たと思っているのか?」
「その通りだが」
「巫山戯るなっ。俺をそこいらのクズと一緒にするな」
 音羽は激怒して叫ぶ。バレたのが悔しかったのか?
「何を言っている? 弱い一般人に絡んで喧嘩をふっかけるクズじゃ無いか」
「それは時雨のことがあったからだ」
「女が絡んで喧嘩を売るなんてクズそのものじゃ無いのか?」
 クズが因縁を付けるなんて金か女と相場は決まっている。つまり、音羽は自分でクズと宣言したようなものだ。
「ぐっそれについては言いたいことはあるが、今はいい」
「良くはないぜ。認めろよ、お前はクズだ。そんなクズじゃ、前埜さんがいようがいまいが時雨は絶対に振り向いてくれないな」
「欲しいものを手に入れようとして何が悪い。素直に諦めれば、ご褒美でも貰えるというのかっ。この胸が焦がれる想いが晴れるとでも言うのかっ」
「世の中そんな優しいわけ無いだろ」
 諦めれば手に入らないだけのこと。だが諦めなければならない時もある。諦めなければ心とその身が焦がれて暴発する。爆発はそいつ自身だけで無くその周りの人も巻き込み不幸にする。
 俺はあの時時雨さんにきっぱり断られていたらどうしていただろう?
 音羽のことをクズ呼ばわりできないようなことをしでかしていたのだろうか?

 ないな。他人を傷つけるくらいなら己の心を更に壊して諦めていただろう。
 あの行動自体が俺にとって境界を越えた行為だった。
「分かっているじゃ無いか。少なくても俺は正面からぶつかったぞ。闇討ちや数に任せるような真似はしていない。クズという発言だけは取り消せ」
「クズのくせに拘るな。お礼参りに来る時点でクズなんだよ」
「それだ。今日はお礼参りに来たんじゃない」
「じゃあ何だよ。
 タイマン張ったからダチに成りに来たとか、笑わせること言うなよ」
「てめえなんかと誰が友達になるかっ。だから最初に言っているだろ、俺の旋律具を返せっ」
「お前の? それは違うな俺のだ」
「巫山戯るなっ」
「巫山戯てなどいない。
俺は時雨を賭けたんだ、それに見合う物を頂いただけだ。
お前まさか自分は負けても何のリスクもないとでも思っていたのか?」
最も負けたら負けたで、そんな約束した覚えが無いと言うけどな。実際そんな約束して無いし、でも流れ的にはそんな感じだった。空気を読む普通の感覚があれば賭けたと断言されればそう思い込んでしまう。
それにしても旋律具か。確かにバックの中にそれらしい物は入っていたな。どちらかというと同じく入っていたスマフォの方に興味が有ったので忘れていた。スマフォからは此奴のデータは全て抜き出している。もし此奴がお礼参りに来ていたのなら、ここから脱出し次第此奴を社会的に抹殺してやる気だった。
「ぐっ」
「これだから思い上がったお坊ちゃんは困るぜ」
 ほんとに育ちがいいのか根は素直だな。本当の腐った奴なら本当に賭けていてもちゃぶ台を引っ繰り返す。こいつはまあ、多少は話せる奴だな。
「金なら払う」
「端金なんか入らないな。逆にお前はその金を貰えば時雨を諦めるのか」
「ぐう」
 別に旋律具など俺にとっては猫に小判、金の方がいい。だがここで簡単に返してはいけない、如何に代償が大きいかを思い知らせないといけない。でなければ同じ事を繰り返すことになる。かといって追い詰めすぎれば逆ギレされる。此奴がなりふり構わず挑んできたら、俺は逃げる以外に手は無い。
 俺が本当に強ければ、こんな小賢しい駆け引きは入らなが、ないものは仕方ない。あるもので勝負するしか無いのが人生さ。
はてさて、落としどころをどうするかな。
「今夜仕事なんだよ」
「それはそれはご苦労様。でも俺には関係ないな」
「お前っ。俺がユガミの調律をしなければ犠牲者が出るんだぞ」
「なら代わりの奴に頼め。なんなら時雨とキョウに俺が連絡してやろうか?」
「そっそれはやめてくれ」
 まあそんな事したら此奴のプライドずたずただろうな。
 どうする、其処まで追い詰めるか?
「ん? 犠牲者が出なければいいんじゃ無いのか? あれは嘘か?」
「嘘じゃ無い。だが俺にだって旋律士としてのプライドがある。
 頼む、何をしたら旋律具を返してくれる」
「時雨を諦めて、二度と俺達の前に姿を現すな」
「そっそれは」
 くっく、多分口約束だと思って簡単に約束するだろう。旋律具を返した途端掌を返してくることは目に見えている。ところがどっこいぎっちょんちょん、この会話はちゃんと録音してる。
 まあ旋律具は返すしかないだろうが、タダでは返さない。
「それは出来ない」
「はあ」
「守れない約束は出来ない」
 なんだと。此奴思ったよりも誠実? だが誠実な奴が暴力で他人の女を奪おうとするか? いやしないだろ。
「この前の一件でお前が俺のことをクズだと思うのは仕方が無いことだと思う。だがそれ以外のことで俺はクズに成り下がりたくない」
「じゃあ、どうするんだ? お前に時雨に匹敵するほど大事なものを用意できるのか?
時雨も諦められない。旋律士も誇りも捨てられない。あれもこれも捨てられない欲しい欲しいじゃ話しにならないんだよっ。
子供じゃ無いんだ、筋を通せっ」
「そっそれは」
 音羽は唇を噛みしめ拳を握りしめている。
「ああっ誠意がないんだよ。誠意を見せろよっ」
 言ってて何だが今の台詞、チンピラのそのものだな。
 音羽は一言も言い返すこと無く俯いてしまうその姿に既視感を感じているところで怒声が飛んできた。
「辞めなさい」
 見ればいつの間にか俺達を遠巻きに人だかりが出ていた。その人だかりから棒状の包みを持ったロングヘヤーの女が出てきた。
「弱い者は苛めは辞めなさい。恥を知りなさい」
 女は事もあろうに俺から庇うように音羽の前に立つ。
俺が苛めをしているだと。俺がこの世で最も嫌う行為をしているだと。
なんだこの勘違い女は、顔立ちはどこか狐っぽい気の強そうな美人顔。手に持った棒状の包みの中身は何だ? 木刀か? そう思えば体は引き締まっているし、立ち振る舞いが凜として隙が無い。
それにしても周りにいる奴らは俺が音羽を虐めていると思っているか。何となくだが視線が俺を批判している。
けっいつもこうだ。やられたからやり返しただけなのにいつの間にか俺が悪者になっている。
所詮は異端児よ。だが俺に非はあるか? 皆無。
正々堂々と自分に誇れる宣言ができる。
ならば多対一に追い込まれようとも己を貫くのみ。引けば集団リンチが待っている。
こうなったらいい人モードでこちらが妥協するのは無しだ、徹底的にやって白黒付けてやるぜ。
「くっくいいな~イケメンは。お礼参りに来て返り討ちに遭っても女に庇って貰えてさ」
 あ~あ、この台詞で俺の悪役決定だが、止められない。相手の心を剔ってやるよ、俺は嫌な奴だからな。
「きっ貴様」
 多少は自覚があるのか音羽は怒声を上げた。
「おっ怒ったのか。大人の道理は弁えないが子供の矮小なプライド有るのか」
「苛めは辞めろと言ったぞ」
 名も知らぬお節介の女が一歩前に出た。それに呼応して俺は二歩前に出て棒を掴む。
「くっ」
 女は慌てて武器を取られまいと引く呼吸に合わせて俺は足を払った。
「えっ」
 面白いように女はひっくり返って自分でも驚いた。俺こんな事出来たっけ? 
潜った修羅場が俺を鍛えたのか、俺には女の動作が甘々には見えていた。だからといって、こんな技が面白いように決まってしまうなんて。決まりすぎだろ、このままだと女は頭から落ちて大怪我をするぞ。
 慌てて俺は咄嗟に腕を伸ばし女の胸倉を掴み引き上げた。
 ぐんと腕に荷重が掛かったがその手を離さなければ、女の頭は地面にぶつかる寸前で止まった、止まってくれた。
 ひやっとした。下手したら俺は傷害罪が付くところだった。
「男の間に割って入る無謀はあっても心構えが成ってないな。隙だら・・・」
 ビリッ、格好付けた台詞を言っているうちに服が破れる音が響いた。
「えっ」
 見れば破けた服の切れ端を持つ俺の足下には胸をはだけさせた女が蹲っている。
 これって言い訳のしようも無いくらいの状況?
 意地を通している場合じゃ無い。
 俺は女を無視して音羽に向き直って、指差した。
「女に免じて一度だけ返してやるよ。今夜の仕事場を俺に連絡しろ」
 捨て台詞を吐いて俺は、とっととこの場から逃走した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

GATEKEEPERS  四神奇譚

ホラー
時に牙を向く天災の存在でもあり、時には生物を助け生かし守る恵みの天候のような、そんな理を超えたモノが世界の中に、直ぐ触れられる程近くに確かに存在している。もしも、天候に意志があるとしたら、天災も恵みも意思の元に与えられるのだとしたら、この世界はどうなるのだろう。ある限られた人にはそれは運命として与えられ、時に残酷なまでに冷淡な仕打ちであり時に恩恵となり語り継がれる事となる。 ゲートキーパーって知ってる? 少女が問いかける言葉に耳を傾けると、その先には非日常への扉が音もなく口を開けて待っている。

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。 === エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中 【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

都市街下奇譚

ホラー
とある都市。 人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。 多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか? 多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。 忌憚は忌み嫌い避けて通る事。 奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。 そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。

感染

宇宙人
ホラー
福岡県北九州市の観光スポットである皿倉山に航空機が墜落した事件から全てが始まった。 生者を狙い動き回る死者、隔離され狭まった脱出ルート、絡みあう人間関係 そして、事件の裏にある悲しき真実とは…… ゾンビものです。

かなざくらの古屋敷

中岡いち
ホラー
『 99.9%幽霊なんか信じていない。だからこそ見える真実がある。 』 幼い頃から霊感体質だった萌江は、その力に人生を翻弄されて生きてきた。その結果として辿り着いた考えは、同じ霊感体質でパートナーの咲恵を驚かせる。 総てを心霊現象で片付けるのを嫌う萌江は、山の中の古い家に一人で暮らしながら、咲恵と共に裏の仕事として「心霊相談」を解決していく。 やがて心霊現象や呪いと思われていた現象の裏に潜む歴史の流れが、萌江の持つ水晶〝火の玉〟に導かれるように二人の過去に絡みつき、真実を紐解いていく。それは二人にしか出来ない解決の仕方だった。 しかしその歴史に触れることが正しい事なのか間違っている事なのかも分からないまま、しだいに二人も苦しんでいく。 やがて辿り着くのは、萌江の血筋に関係する歴史だった。

処理中です...