催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武

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大きな戦いに挑もう

指をしゃぶられよう

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「くそが、放せ!」

「……ああ、俺も面倒だからさっさと放してやるよ。しかしさぁ、その反応はダメだろ。俺がこの後お前を用済みにしたとき、どうするかを知っているはずなのに」

「ぱむ、はやくたべたい」

「ッ~~~~!?」

 スキルで潜伏していた集団の中で、一人だけ生かされてここに運ばれてきた。
 その間に、仲間はラームによって胃の中へ収められているのだ……理解するだろう。

 ──自分に選択肢などなく、与えられたのはただの順守しなければならない命令だと。

「お、俺は何も知らねぇ」

「そういうのはいいから。うちの子は俺とは違って優秀でな、食べたヤツから記憶まで回収できる。お前らがどこの国から送られてきたヤツらで、何をしに来たかも知ってる」

「……嘘だ、信じねぇぞ」

「どうぞご自由に。しかしねぇ、いつまでも同じ態度だとこっちも相応の対応をしなきゃいけなくなる……というか、もう面倒だからいいや──『洗脳』」

 せっかくの拷問官ごっこだったが、飽きたのでサクッと目的を果たす二文字を告げる。
 ガクリと項垂れた男の頭に手を載せて、魔力を流して洗脳内容を直接書き込んでいく。

「ぱむ、たべたかった……」

「いっぱい食べただろう? それより、生きてないとダメなのか?」

「うん、せいたいにんしょうがある」

「求められる技術ってのは、魔法でも科学でも変わらないってことか。まっ、そのためのコイツだ。今は仕舞っておくとして……これで準備万端だな」

 地面を軽く踏み鳴らすと、男の姿はズブズブと影の中へ呑み込まれていく。
 従魔の力は俺の力、みたいな契約をしているのでこんなこともできる。

 ラームの捕食による簒奪も同様に真似できるが……好き好んで人肉を喰らうほど、俺も人間を止めてはいない。

「死なないように管理しないとな……ああ、また面倒事が増えた」

「ぱむ、たべておく?」

「それじゃあ、せっかく取っておいた意味が無くなるだろう。あいつは生かしておいて、目的を果たしてもらわないと」

「ざんねん……たべたかった」

 働いた者には相応の褒美を与えるのが常だが、コイツの場合は食費が半端ないのでそれは適応されない。

 自給自足をさせようとしても、環境を破壊するだけの非生産性の無い行動を取るだけなので、我慢させておいた方がいいのだ。

 だが、いつまでもお腹を空かせたと言わんばかりの表情を浮かべられると……こちらも腹が減りそうになるので、それだけは満足させてやることにする。

「……はぁ、魔力をやるからそれで満足しろよ。お前用の魔力は面倒臭いのに……」

「うん!」

「──『精練』」

 魔力系のスキルがいっせいに作動し、俺の体内を弄繰り回していく。
 物凄い虚脱感が俺を襲う中、魔改造された肉体が生みだした魔力が指先に宿る。

 精練とは魔力の圧縮を意味し、量を質へと変換する技巧として有名らしい。
 奴隷の一人にそう教わり、俺なりにできるように暗示を登録していたのだ。

 ラームは即座に俺の指へ口を付けると、それを蛇口に見立ててちゅーちゅーと魔力を根こそぎ吸い取っていく。

 精練された魔力は非常に旨い、そう魔力を食事にしている種族から聞いた。
 ラームも魔力で腹を満たせるので、褒美はこれで済ませている……食費は浮くからな。

 傍から見れば、少女が淫靡な表情を浮かべて指を舐めているように見えるかもしれないが……俺からすれば、酷い魔力枯渇によってお花畑が見えるほどの地獄を見る。

「もう終わりだ、離れろ」

「せめて、もうひとこえ」

「……二度と吸えなくなるのと、少しの我慢とどっちがいい?」

「……ぱむのいうとおり、がまんする」

 指から口がちゅぼんっという音を立てて離れると同時に、俺は地面に倒れ込む。
 支える物を失い、本人は意識が朦朧としているのだから当然の結果だ。

「ラーム、ポーションくれ」

「はい」

「ありがと……って、お前のせいでこうなっているのに感謝するのもおかしいな」

 こちらは被害者、あちらは加害者。
 なのに小さな親切ですべてを許すほど、俺も大人では……と考えるのも面倒だし、飲んだら良くなってきたので許そう。

「ぱむ、おかわり。ぱむ、もうまんたん」

「ポーション飲んだからな。それでやったらまた同じことの繰り返しだろう」

「ざんねん」

「……はあ、俺以外の魔力でもいいなら別にくれてやってもいいんだがな」

 精練ができる奴隷は居る。
 だがラームは俺の魔力だけを好み、魔力による食事は俺の魔力でしか行わない。

 異世界人の魔力だからか、コピーしたスキルにそうなる要因があったのか……理由を調べるのは面倒なのでやっていないが、厄介なことこの上ないことだけは分かっている。

「だがまあ、とりあえず満腹だろう?」

「ぱむ、すごい。らーむ、ぱむすき」

「はいはい、俺も優秀なヤツは好きだぞ。腹も満たされているみたいだし、しばらくは大人しくしているんだぞ」

「……ぱむ、だめだめ」

 ダメダメなのが分かっているからこそ、従魔たちに任せているのだ。
 間もなく中継地点へ辿り着くし、そこで一休みしたら──そろそろ目的地になるな。

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