催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武

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企みが漏れる

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 ヴァ―プル

 夜な夜なしていたはずの会議、だが本日は特別ゲストを迎えて日中に行われていた。

「ま、魔族と!?」

「……非常に残念なことだが、これは確定事項のようだ」

 召喚者。
 異世界より招かれた、強力なステータスとスキルを持つ者たち。

 その中でも、特殊な力を宿し一騎当千すらも可能とする──『選別者』と呼ばれる者たちが、緊急に招集されていた。

「そ、そんな……イム君が……」

 召喚者たち、選別者たちの中でも最高峰の力を宿す【勇者】ユウキ。
 クラスの代表として仲間たちを導いてきた彼は、ヴァ―プルの王から聞いた情報に驚愕していた。

 イム・トショク。
 クラスメイトの一人である少年。
 この世界では『睡眠士』という眠りに関する力を高める、ハズレ職業と呼ばれる才を与えられた……と思いこませた男だ。

 誰も彼に期待せず、何も望まない。
 そのため、もっとも僻地にある『バスキ』という国に送られ、使えない召喚者として国の足を引っ張る鎖になると……ただ惰眠を貪るであろうと……そう思われていた。

「間違いなく、彼は魔族と手を組んだ。残念なことだが、これはバスキから正式に抗議を受けたことだ……」

 悔やむような表情を勇者たちに見せる王。
 そんな姿を見て、ユウキもまた拳を強く握り締める……。

「いったい、どうして彼が……」

「何度か魔族から接触があったらしい。初めは彼も国に報告し、魔族の陰謀を暴こうとしていたらしいのだが……『影を追う者はドッペルゲンガーに遭う』がごとく、逆に魔族に取り込まれたのだろう」

 地球で言うところの『ミイラ取りがミイラになる』ということわざを出し、イムの現状についての推測を伝える。

 バスキに送った密偵によれば、魔族の領土に向かったイムが帰ってこないらしい。
 偶然・・、彼が残した一枚の手紙を見てそのことについて話していたことを王は知った。

「魔王の力だろう。かつての魔王の中には、洗脳に長けた者も居た。おそらく今代の魔王もまた、そうした力を使えるのだろう」

「そ、そんな……」

「勇者様、その洗脳も本人が止めるか本人を止めることで治ったとされています。救うためには、魔王を討つ必要があるようです」

 かつて、魔王と認定された・・・・・者が居た。
 あらゆる国の男たちを手玉に取り、魔王すらも手懐けた『傾国』と呼ばれた女。

 ──異世界より招かれたその少女を、当時のヴァ―プルは魔王として討ち滅ぼした。

「どうか、ご決断を……」

 その他にもいくつか情報を提供し、会議は終了する。
 王城から出る彼らからは、複雑な感情が見て取れた。

「イム君、いったいどうして……」

 ユウキはクラスメイトの大半に向ける、同情めいた心情を。

「ったく、魔族に協力するとか……ふざけた真似しやがって」

 前衛を務めるコウヤは、魔族に手を貸したイムへ怒りを。

「イム君、イム君か……そういえば、そんな人も居たような?」

 そもそもイムについて覚えていることの少ない、回復役のアユミはただ疑問を。

「…………」

 遠距離攻撃を担当する、ツルネ。
 彼女だけはただ、沈黙を貫く。

「ねぇ、どうしたのツルネ?」

「……別に、なんでもないわよ」

「ふーん、もしかしてイム君のこと?」

「……どうしてアイツなのよ」

 不機嫌そうに訊ねるが、アユミはニヤニヤするだけで答えは返さなかった。

「ふんっ……」

 彼女は話を信じていなかった。
 自分の知るイムと話に出たイムとでは、明らかに不自然な点があったからである。

(そんな殊勝なこと、アイツがするわけないでしょう!)

 惰眠を貪る、と称されたようにイムは面倒臭がりな性格だ。
 日本に居た頃も、暇さえあれば寝ていたような男である。

 ──人様のために働くなんてこと、天地が引っ繰り返ってもありえないだろうと。

「まったく、何をしているのよアイツは」

 その小言を聞いた者は誰も居なかった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 ???

 ここではないどこか。
 また、真っ白な地平線が広がる場所。

『当代の召喚者たちはどうだ?』

『いつも通りな感じですね、例の国が洗脳して魔族にぶつける』

『そして、全滅か……やれやれ、干渉しないと決まっているが、ここまでテンプレな展開となると、関わりたくもなるな』

『……いえ、そうでもないんですよ』

 木霊する二つの声。
 その話の先に、一つのホログラムが映しだされた。

『今回の特異点か?』

『はい。【怠惰】、そして【嫉妬】です』

『……どちらも覚醒していないようだが?』

『だから面白いんですよ──こっちを見てもらえると、それも分かるかと』

 切り替わる映像。
 そこに映しだされるのは、迷宮に潜る召喚者たちの動向であった。

『シナリオ02か……だが、これに問題があるのか?』

『はい、こちらを見てください』

『【怠惰】と【嫉妬】が接触……しかも、これは……!』

『このときにもう格差があったようで、種を封じているようです』

 ──『呪い』と称されたそれによって、シナリオと呼ばれる展開は変わる。
 想定していない事態であり、また待ち望んだ光景でもあった。

『すでにシナリオを度外視した動きを、彼らは取っております』

『ほお、どういった具合にだ?』

『【嫉妬】は迷宮詩篇を。あの国の迷宮には例のヒントがありますので』

『そういえばそうだったな……なるほど、墜ちたのは【嫉妬】だったか』

 召喚者のうち一人は、必ず迷宮の奥底へ叩き落される……これは決定事項だ。
 その先をどう選ぶかによって、シナリオが大きく変化する。

『それで、【怠惰】は?』

『た、【怠惰】は……その、世界詩篇と魔王詩篇、それに聖人詩篇と無数の種族詩篇を』

『…………はっ?』

 想定していなかった言葉に、その者はただ息を漏らすことしかできなかった。

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