催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武

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 第二王女だけでどうにかできるとは思っていなかったし、彼女に何かしらの危険が及んだ際に姉妹が何をするのか分からなかった。

 第三王女フレイアの時と同様、配下を忍ばせて護衛させているので──俺は感覚を共有できる。

「──というわけなのです。どうでしょう、ミネルバさんにもとても利益のある話だとは思いませんか?」

「そ、そうなのか? ……ええ、そうなのかもしれませんわね」

「お分かりいただけて何よりです」

 アキラは巧みな話術を用いて、ミネルバを堕としている……と思っているみたいだ。

 いつまでも中途半端な丁寧語を使っている時点で分かると思うが、彼女は変わらない精神状態である。

 なのにどうしてアキラの話を肯定しているのか──それは単純に、言っていることを理解しないで適当に受け答えしているから。

 だからこそ、これまでは外交の担当にされなかったんだろうな……。

 なんて俺の考えは伝わらないので、自分の思い通りに事が進んでいると勘違いしている二人は、勝手に決めていたシナリオ通りに終わらせようとしている。

「この契約書にサインを。それでこの話は締結されます」

「……あの、一度イムに相談を」

「──『大切なのはミネルバさんの判断ですよ。イムは必要ありません』」

「いや、そういうわけには……えっと、やっぱり相談してきますわね」

 ガタリと椅子を動かし、颯爽と部屋を出て俺の下へ向かおうとする第二王女。
 一瞬呆けた表情を浮かべたアキラだが、すぐに切り替えて声を強めて呼びかける。

「ちょ、『ちょっと待ってください』!」

「ん、どうした……のですか?」

「『席に着いて、サインを──」

「だから、イムと相談するって……してきますので、少々お待ちください」

 アキラはスキルの効力を高めているようだが、それでも第二王女の考えは変わらない。

 物凄く動揺すると思ったのだが、何やらそのことを受け入れたうえで、まだ何かを企むだけの余裕はあるようだ。

「ん、開かねぇな……あの、この扉はどうしたら開くのですか?」

「開きませんよ、絶対に。金剛鉄製アダマンタイトのドアにしていますので」

「絶対? どうしてそのようなことを……」

「決まっているではありませんか……ミネルバ、お前みたいに契約を拒む奴を逃がさないようにするためだよ」

 こういう敬語を取り繕っているヤツって、どうしてワンパターンに作戦が上手くいったり失敗すると、すぐに口調を戻すんだ?

 ゆらゆらと立ち上がるのも、何というか偉ぶっている? 感じがする。
 相手が促した場合ならともかく、変なタイミングでやれば怪しまれるだろうに。

「鑑定しても分からなかったってことは、隠蔽か偽装スキルでも持ってんだろう? 面倒臭ぇ、気づいてりゃあもっと最初からやりようがあったのに……」

「な、何を言って……」

「はぁ、惚けんじゃねぇよ嘘吐きが! 人に見せられないモノを隠して交渉の場に立とうだなんて、風上にも置けねぇな!」

「……バカなのか、コイツ」

 ようやく第二王女も理解したようだ。
 学校に居た頃の記憶はほとんど無いので洗い直してみたところ、どうやらコイツはかなり口調が荒かったことを思いだせた。

 特に人を騙すのがイイとか言ってたな。
 マッチポンプみたいなことをしてから、ネタ晴らしをするときに見せる顔がイイとか友人に語っていた……それを堂々と教室で語っている辺り、バカ話の一つだったのだろう。

 異世界に来て枷を外され、欲望全開でやろうとしていたのがそれだったわけだ。

 高利貸しで誰かを奴隷に落とす寸前で救って恩義を売り、そのあと絶望させてからその様子を哂いまくると……何がしたいのやら。

「誰がバカだ! バカって言うヤツがバカってことだから、テメェがバカなんだよ!」

「なら、今バカって言ったお前もバカってことだな」

「はぁー? んなわけねぇだろ! オレはテメェらみたいな奴らを導く立場にあるんだ、愚鈍なカス共の言葉は関係ねぇよ!」

「……意味が分かんねぇ」

 まったくもってその通りだが、ただそうしてスルーしているわけにはいかないのがこの世界の面倒な点だ。

 バカに刃物を持たせてはいけない、という言葉があるが……異世界も似たもんである。

「にしてもバカにオレのスキルをどうにかする能力を持っているヤツがいるなんてな。ある意味好都合だが、そもそもそんなスキル作るなよ」

「ちょっと待てって、だからオレはそんなスキル持ってない──」

「うわっ、オレっ娘かよ! 本当に居るんだな、都市伝説かと思ってたわ」

「と、都市伝説?」

 なかなか話が進まないな、コイツら。
 ……さっきバカ云々を思いだしたせいで、ついでに思いだした──喧嘩は同じレベルのヤツ同士の間にしか起きないってのがある。

 つまりコイツら、似たような思考レベルでしかないんだろうな。
 片や話術でチートとか思っているヤツ、片や愚直なシスコン。

 ──同族でしかないな、コイツら。

「ま、まあいいや……とりあえずミネルバ、お前はオレの奴隷決定な」

「ハァ? 嫌に決まってんだろう」

「いーや、もう決まったことだ。どうせイムもオレの奴隷に処理させたし、テメェを助けるヤツは誰もいねぇよ」

「?」

 首を傾げる第二王女。
 俺からすれば納得な反応だが、どうしてもそれに納得がいかないのが我がクラスメイトであるアキラだ。

「なんだ、まさかアイツが生きているって信じてんのか? 知ってるか、アイツはクラスメイトの中で二番に雑魚で、寝ることしか考えてねぇアホだぞ?」

「まあ、それは知ってんだが……そうじゃなくてな」

「アイツには魔族でも一滴で眠るような睡眠薬を大量に盛ってあんだよ! 今頃奴隷の首輪を付けられて、どっかの娼館で尻でも掘られてんだろうよ!」

 ああ、そういう作戦だったのね。
 というかアキラ、自分で言っておいて忘れていないだろうか?


「──俺さ、眠りに関することならチート級に強い(という設定)だからさ」


 というわけで、そろそろ登場しよう。
 アキラが最初に座っていた社長イスの上、そこで足を組みながら発言をしてやった。


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