催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武

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 瞳を開けば、そこには知らない光景が映しだされた。
 いやまあ、空しかないんだけど……雲の形とか、そういう部分。

「……んー、上手く切り替われたか」

「イ、イムさーん! わ、わたし、できることはやったつもりなんです! け、けど、全然上手くできなくって……」

「あーはいはい、ちょっと待てろ。今傀儡君の状態を視るから」

 ヤりの勇者と奴隷少女の甘いイチャラブに飽きたので、主導権を分身に返して再び本体へ戻ってきた。

 相も変わらず、サリスが【爆脚勇者】で人形ごっこをしているはずだったんだが……なぜか彼は白目を剥いていたのだ。

「うーん……魔力の籠め過ぎだな。神経に多大な負荷が掛かって、それに耐えられなくて気絶したんだろう。まあ、戦闘中に敵対者へ使うならちょうどいいだろう」

「た、たしかに、(過剰供給)なんてスキルが得られました。なるほど、それが理由だったんですか」

「ちょうどいいな。爆弾でもなんでも投げる時に、魔力を多めに籠めればそれだけ威力を向上させられる。アイテムの損傷を気にしない使い方ができるなら、使えるスキルだ」

「貴重な魔道具には使えませんが……と、とりあえずやってみます!」

 傀儡君の神経を回復魔法で治し、改めて代わりに魔力循環を行い調律を行う。
 あとは精神魔法で元の状態に戻せば……傀儡君が復活する。

「はい、それじゃあもう一回な。俺はもう少し寝ることに──」

「ま、待ってください! せめてもう少し、何かヒントでも……」

「そういうのはダメだと思うんだが……まあいいか、面倒だし。失敗した理由が、魔力の籠め過ぎなのは分かるな? かといって、少な過ぎれば供給が足りなくて抵抗される。ならどうするか、その答えがカギだな」

「分かりました……少な過ぎず多過ぎずを見定めればいいんですね?」

 そこは小さく笑みを浮かべるだけにして、肯定はしないでおく。
 それでは五十点であり、確実に操作をするためには足りないものがある。

 ……どうやら、もう一眠りは必要そうだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「今回は……当たり、なのかな?」

 次に起きた先の分身体が持っていたのは、聖剣や魔剣が作れる(聖魔創具)というスキルなのだが……消費魔力が尋常ではない。

 大量のスキルや【停導士】の導きによって身力補正を得ている俺でも、十全に使用するのは数回程度という高燃費のスキルだった。

「ただでさえ分身体、切り取った魔力の分しか活動できないんだ。回復はできるけど、底が尽きれば確実に死ぬ……戦場だしな」

 自らに施した催眠があるので、常在戦場の意識を強制的にインストールできる。
 使える物は何でも使い、生き残るべし……この分身体も必死に足掻いていたようだ。

「魔力回復の速度を上げたみたいだな……やるなぁ、俺の分身なのに」

 根っからズボラな人間でも、命の危機的状況にあれば、多少の改善ができるようで。
 大気から魔力を取り込むことで、どうにか消費と供給を釣り合わせたらしい。

 この戦場は所々で魔力が消費されているので、それを上手く変換できれば自らの物として還元できる。

「試してみるか──“聖魔創具”」

 名を告げた途端、ごっそりと魔力をスキルが奪っていく。
 代わりに予めイメージした武器が、目の前に顕現する。

「やっぱりテレビで観た物とか、そういうイメージしやすいヤツの方が簡単だな。うん、むしろ主人公たちってどうやってこんなくっきりと創ってんだろう?」

 イメージ力で強くなるとか、そういう設定のアレ……どんだけ強い妄想力があれば、可能になるのか俺にはサッパリだった。

 並速思考スキルで過去に観たアニメや漫画から聖魔剣っぽい絵を取りだし、それを創造することだけに意識を傾けてようやくだし。

「あとはこれを上手く使いこなせるかどうかなんだが……試す前に本番かよ」

「──貴殿も剣士であるか?」

 遠くから歩いてやってきたのは、まんま着物を纏ったお侍さんだ。
 腰には刀っぽいヤツもあるし……何かいいスキル持ってないかな?

「いーや、ただの遊び人でーす」

「その剣、それをただ着飾るために持っているのであればたしかにそうだろう。だが──どうやら違うようだな?」

「……っと、危ない危ない。さすがに急過ぎやしませんか? まだ俺たち、お互いのご職業も知らないじゃないっすか」

 会話の途中で放たれた高速の抜刀術。
 並速思考を使っていたこともあって、どうにかそれを補足して剣で防いだ……この侍、いきなり首を狙ってきやがったよ。

「申し遅れた、某は【首狩英雄】を与えられし者。貴殿は?」

「そんな大層な身分は与えられていない、ただの加護持ちだよ。職業は【睡眠士】だ」

「……聞いたことのない職業ではあるが、睡眠でどのような戦いをすれば某の抜刀を防ぐことができるのか。ふっ、興味が湧いてきたぞ、若人よ」

「俺もですよ。あなたのそれ、ただの刀じゃないですか。なのにあの速度と鋭さ……相当な腕ですよね」

 コピーできたスキルは(神速抜刀)。
 ただこれ、抜刀する速度に補正が入るだけで他にはなんにも効果がない。

 なのでさっきの一撃は本人の技量が物を言わせただけ、武器の特殊効果とかでもなんでもない達人の技ってわけ……俺には真似できない厄介な相手だよ。

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