見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
17 / 147

17

しおりを挟む
「失礼いたします、奥様。朝食をお持ちいたしました。-ー小雪奥様っ?」 

使用人のタカさんの少し焦ったような声が隣の夫婦の寝室から聞こえてきました。まさか初夜を終えた夫婦が各自の部屋でくつろいでいると思わなかったのでしょう。申し訳ないやら情けない気持ちで再び夫婦の部屋にいるタカさんに声を掛けました。 

「タカさん、こっちよ。」

「奥様、ああどちらに行かれたのかとびっくりいたしました。朝食でございます。亮真坊ちゃま、…いえ申し訳ございません。旦那様から朝食を奥様にお運びするよう言付かっておりました。つい先程、何か急用ができたとかで慌てて出かけられましたが…。まったく。」 

タカさんは夫婦の寝室に朝食を持ってきたのにそこに私がいなかったことには触れずに接してくれております。 
しかしその後、多くの使用人たちの憐れみの視線がチクチクと刺さってまいりました。 

亮真様と最後にまともに会話をしたのがいつのことだったのかも思い出せません。たいした会話もないまま初夜を終えた朝から亮真様が自宅に戻ってきておりませんでしたので、どちらに行ったのかも何をしているのかも何もわからないのです。

夫婦となりこうして同じ屋根の下に暮らしていくはずですのに、会話もないうえに亮真様がいないだなんて皮肉なものです。 

夫婦になったのだからこれから亮真様と今まで会えなかった分、一緒にいられたならと願っておりましたのに。 

心細く新しい屋敷で過ごして一週間になったその日、亮真様から夕食を共にしようと伝言が届けられました。昼過ぎには戻ってこられるそうです。どうやら太賀お義兄様と琴葉お義姉様もいらっしゃるという事で、とにかくこの屋敷に来て初めてのにぎやかな食卓となりそうです。 

◇◇◇◇

「改めて、小雪さん。亮真をよろしく頼むよ。慣れないことも多いと思うがいつでも私たちを頼ってくれ。」 

「ええ、小雪さん。太賀の言う通りよ。遠慮しないでいつでも私に声をかけてね?」 

「ありがとうございます、太賀お義兄様、琴葉お義姉様。」 

食後、亮真様は太賀義兄様と、私達とは少し離れたところでお酒をたしなまれていて、私は義姉様とお茶を共にしております。 

お姉さまはカップを置くと薔薇の花のように鮮やかに微笑みました。 

「ごめんなさいね、新婚早々あなたと亮真さんを引き離してしまって。太賀があなたたちの結婚式の直後に急用で出かけてしまって今日やっと戻ってきたの。太賀がいなくて心細くって…。

新婚なんだし気にしないでって言ったんだけど、ずっと亮真さんがうちに顔をだしてくれていたの。びっくりしたわ。結婚式の次の日の朝にはもう訪ねてきて。朝食を食べずに来たなんて言うから一緒に頂いたの。もう本当に亮真さんったら心配性なんだから。

昔から亮真さんは変わってないのよね。それで…、今回のことを太賀が知ってしまったらすごく怒りそうだから。太賀に誤解を与えたくないの。だから今日はこうやってこちらに押し掛けてきて先に小雪さんにこうしてお願いしているんだけど…。

初夜が終わってすぐに亮真さんが私のもとに来て、一週間もこちらの屋敷に帰ってきてないなんて絶対に太賀に言わないで頂戴?ね、いいでしょ?小雪さん?…ねえ、小雪さん聞いてるの?」 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

処理中です...