見捨てられたのは私

梅雨の人

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「行こう、小雪。」 

「おいっ、亮真。そんな強引に小雪さんを奪うなっ。危ないだろ??」 

「亮真さん、早く戻ってきてね?」 

「ああ、義姉さん。」 

「小雪さん、無理しないようにな。おい亮真、小雪さんを頼むぞ。」 

「琴葉お義姉様、あの、おめでたい席でこのようなことになってしまって申し訳ございませんでした。」 

「いいのよ、小雪さん。無理しないでね。亮真さん、早く戻ってきてね?」 
 

亮真様は琴葉お義姉様に返事をせずに私を抱えたままその場を離れ車に乗り込みました。 

私のほうは車の少しの揺れでも痛みを感じ平常心を何とか保とうと冷や汗が背を伝っております。 

沈黙の車内で痛みに声が漏れないように唇を無意識にかみしめておりました。 

鉄のような味が口内に広まって唇をかみすぎて血が出てしまったことに気が付いた時にはちょうど屋敷に到着した時でした。 
 

「小雪、行くぞ。つかまって。ん?唇から…血が出てるじゃないか…」 

にじむ視界の向こう側に、見たこともないくらい切羽詰まったような顔をされた亮真様が使用人に指示を出しております。 


『先ほど頂いた痛み止めが少しは効いてくれれば後は時間が解決してくれるでしょう。おとなしくしておりますので大丈夫ですよ、亮真様。どうぞ――琴葉お義姉様のもとにお戻りになられてください。』 

――なんて、大人ぶって平然と亮真様にお伝えするなんて今の私にはできそうにありません。出来たら、出来たらこんな時こそ私と一緒にいて頂きたいと願ってしまいます。 

 

あれよあれよという間に寝台の上に慎重に寝かされました。 

「小雪、私の気が回らなくてこのような怪我をさせてしまった。その…すまなかった。」 

「いえ…」 

「大丈夫か?」

「…はい」
 

「そうか…それでは私はこれで。」 

「そう…ですか。」 

去り際にふと何を思われたのか戻ってこられた亮真様は何も言わずに、私の頬をひとなでされてから部屋を出て行かれました。 

パタン、と扉が閉まってからたった一人部屋に取り残された私を静寂が包み込みます。 

外はすでに真っ暗で亮真様が出かけていく様子が車の照明でここからでも伺うことが出来ます。 

きっと琴葉お義姉様のところへお急ぎ戻られておられるのでしょう。 
 

迷惑をかけたいわけでもないのにこんなことになってしまい本当に情けない気持ちになります。 

亮真様の琴葉お義姉様へのお気持ちに気が付いていたからと言って、私が亮真様へ恨みつらみをぶつけようとしているわけではありません。

夫婦として歩み寄っていければ、その先に愛情が芽生えることがあれば…ただそう願っておるだけですのに。

どうしてこうもうまくいかないのでしょうか。 
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