見捨てられたのは私

梅雨の人

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真っ赤な頬をしたままの私を乗せて源太さんが前に歩を進めて行きます。源太さんが前に進むごとに揺れが体に伝わってきますが東吾様が支えてくださっているおかげで最初に感じた恐れがすぐに薄れてきました。 

「よし、ではもうそろそろ旦那様とお二人で遠出に出られても奥様は大丈夫そうですね。」 

東吾様の安定した乗馬の腕前と支えにすっかりと身を委ねるだけになってしまいましたが、この場所を数周させて頂いただけで自信を持つことが出来ました。 

 

「行こうか、小雪?」 

「ええ、東吾様、よろしくお願いいたします。」 

 

「行ってらっしゃいませー、またな源太、頼んだぞ!」 

「では行ってまいりますね。よろしくお願いいたします、源田さん。」 


ゆっくりとゆっくりと進んでいくのどかで新鮮な景色を東吾様と二人きりで堪能できているなんて…少し前の私は考えられなかったことでしょう。 

本当に不思議なものでございます。 

諦めて、嘆いてがまんして、行き詰っていた私がこうして今、東吾様と夢のような時間を過ごせているなんて。
いまだに夢のようでございます。 

 
あの時見切りをつけて前に進めてよかったと心から思います。 

 


「さあ小雪、ちょっと休憩しようか。俺が先に降りるから待っててくれ。よし、小雪おいで。そう、そこに足をかけたまま…大丈夫。おいで小雪。」 

がっしりと私を受け止めて下さった東吾様は心落ち着くにおいが致します。 

抱きとめられたとたんに、待ってましたとばかりの長い口づけが降って参りました。 

 


「昼飯を持ってきてよかった。本当にここは気持ちのいいところだなあ。」 

「本当に…夢のようでございます。それに源太さんにもお会いすることが出来てとても幸せです。」 

「…小雪、馬の名前だとわかってるんだけどなあ。もやもやするんだよな、それ。あー俺かっこ悪い。馬に嫉妬かあ。うん、小雪、源太さんじゃなくてゲンちゃんとか源坊とか呼び方かえてくれない?いや、ゲンちゃんはやばいな。それもだめだ。やっぱ源坊主にしよう。決まりだ決まり。」 

「東吾様…」 

大人気ない東吾様が必死なっているのを見て拒否する術を持ち合わせていない私は源太さんのことを源坊様と呼ばせて頂くことで決着がついたのでした。 



ここでの時間はとても穏やかで、東吾様と二人だけの甘い時間がゆったりと流れて行きます。 

 

手をつないで湖畔を散策してそれから部屋に戻って抱きしめあって。 

気が向いた時にお湯に共に浸かってのんびりして。 

慣れない乗馬で東吾様の支えに安心して身を委ねて。 

大きな東吾様がじゃれてくるたびにかわいくて甘やかしてしまって。 

美味しいものを美味しいな、美味しいですねと幸せな気持ちで一緒に食して。 

お互いの昔話を東吾様の腕枕で見つめあいながら語り合って。 

これでもかというほど東吾様に甘やかされてその心地よさにいつの間にかどっぶりと身も心も委ねておりました。 


頭の中がしびれてしまうほどの幸せがあったことを東吾様が教えてくれるたびに、東吾様と夫婦になれた喜びを心の底から噛み締めさせて頂きました。 
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