泣き虫エリー

梅雨の人

文字の大きさ
1 / 11

おまじない

しおりを挟む
「うっ…大丈夫、大丈夫…。」
「あー泣き虫エリーまた泣いてんぞ!やーい泣き虫エリー!」

「うっっうっ…」
「おねえたん、よちよち…」

子供の頃のエリーには二歳年下の弟ダンと、病気の果てに亡くなった夫に代わり一家を懸命に支える優しくも厳しい母がいた。

エリーが4歳の時、父親の病気が判明し、それから数か月のうちに亡くなってしまった。
そのため、それまでの生活は一変してしまった。

それまで家で家族の面倒を見ていた母親は、朝から晩まで外で働き詰めになり、まだ小さな弟の面倒と最低限の家の手伝いをエリーがすることになった。
そうしなければ家族が生きていけなかった。


忙しい一日が終わりようやく夜になって目をつむると、大好きな父親の太陽のような笑顔が目に浮かんでくる。

父親に高く持ち上げられたり、太くて逞しい腕でぎゅっとしてもらうのが大好きだった。

その低くて心地よい声も、音痴だがエリーの為に毎晩歌ってくれた子守唄も、まだ小さな弟を構ってばかりの母親の代わりにいつもエリーを気にかけてくれて一緒にあそんでくれたことも。

嫌いなところなんて一つもないと言い切れるくらいエリーの自慢の大好きな父親だった。

「父ちゃん…会いたいよぅ…」

眠れない夜は父親がいつも歌ってくれた子守唄を自分で歌って気持ちを落ち着かせた。

父ちゃんっ子だったエリーは急な父の死をなかなか受け入れることがしばらく出来ず、それでも家族三人が力を合わせなければいけないのだと思い日々を涙を呑んで過ごした。

弟はまだ小さかったので、父親が亡くなったことがあまり理解できなかったらしくそこまで取り乱すことはなかった。

父親が亡くなる数日前に、エリーはいつものように大好きな父の横に寝そべっていた。

するとエリーの父はその小さな頭を撫でてやりながら、
「幸せになるんだぞ、エリー。でもあまり泣きすぎて母さんを困らせないようにしてくれると嬉しいがなぁ。お前が泣いちまうと父ちゃんも悲しくなっちまう。父ちゃんはいつもお前を見守ってるからな。元気に笑っていりゃあ幸せはどこからでも訪れるってもんさ。エリーは父ちゃんと母ちゃんの子だ。愛してるぞエリー。悲しいことがあったら、大丈夫、大丈夫って唱えるんだ。それで大丈夫じゃなきゃあ、オイッ、父ちゃん!大丈夫って言ったじゃねえかっ!って父ちゃんに文句言っていいからな。」

「きゃははは!なにそれー!大丈夫、大丈夫って言っても大丈夫じゃなきゃ父ちゃんに文句言っていいの?!じゃあそうする!」

そういって、抱きついてきたエリーの頭を優しくなでる父の瞼からは涙が溢れていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】最後に貴方と。

たろ
恋愛
わたしの余命はあと半年。 貴方のために出来ることをしてわたしは死んでいきたい。 ただそれだけ。 愛する婚約者には好きな人がいる。二人のためにわたしは悪女になりこの世を去ろうと思います。 ◆病名がハッキリと出てしまいます。辛いと思われる方は読まないことをお勧めします ◆悲しい切ない話です。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

あなたに何されたって驚かない

こもろう
恋愛
相手の方が爵位が下で、幼馴染で、気心が知れている。 そりゃあ、愛のない結婚相手には申し分ないわよね。 そんな訳で、私ことサラ・リーンシー男爵令嬢はブレンダン・カモローノ伯爵子息の婚約者になった。

勇者の凱旋

豆狸
恋愛
好みの問題。 なろう様でも公開中です。

愛のバランス

凛子
恋愛
愛情は注ぎっぱなしだと無くなっちゃうんだよ。

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

処理中です...