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おまじない
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「うっ…大丈夫、大丈夫…。」
「あー泣き虫エリーまた泣いてんぞ!やーい泣き虫エリー!」
「うっっうっ…」
「おねえたん、よちよち…」
子供の頃のエリーには二歳年下の弟ダンと、病気の果てに亡くなった夫に代わり一家を懸命に支える優しくも厳しい母がいた。
エリーが4歳の時、父親の病気が判明し、それから数か月のうちに亡くなってしまった。
そのため、それまでの生活は一変してしまった。
それまで家で家族の面倒を見ていた母親は、朝から晩まで外で働き詰めになり、まだ小さな弟の面倒と最低限の家の手伝いをエリーがすることになった。
そうしなければ家族が生きていけなかった。
忙しい一日が終わりようやく夜になって目をつむると、大好きな父親の太陽のような笑顔が目に浮かんでくる。
父親に高く持ち上げられたり、太くて逞しい腕でぎゅっとしてもらうのが大好きだった。
その低くて心地よい声も、音痴だがエリーの為に毎晩歌ってくれた子守唄も、まだ小さな弟を構ってばかりの母親の代わりにいつもエリーを気にかけてくれて一緒にあそんでくれたことも。
嫌いなところなんて一つもないと言い切れるくらいエリーの自慢の大好きな父親だった。
「父ちゃん…会いたいよぅ…」
眠れない夜は父親がいつも歌ってくれた子守唄を自分で歌って気持ちを落ち着かせた。
父ちゃんっ子だったエリーは急な父の死をなかなか受け入れることがしばらく出来ず、それでも家族三人が力を合わせなければいけないのだと思い日々を涙を呑んで過ごした。
弟はまだ小さかったので、父親が亡くなったことがあまり理解できなかったらしくそこまで取り乱すことはなかった。
父親が亡くなる数日前に、エリーはいつものように大好きな父の横に寝そべっていた。
するとエリーの父はその小さな頭を撫でてやりながら、
「幸せになるんだぞ、エリー。でもあまり泣きすぎて母さんを困らせないようにしてくれると嬉しいがなぁ。お前が泣いちまうと父ちゃんも悲しくなっちまう。父ちゃんはいつもお前を見守ってるからな。元気に笑っていりゃあ幸せはどこからでも訪れるってもんさ。エリーは父ちゃんと母ちゃんの子だ。愛してるぞエリー。悲しいことがあったら、大丈夫、大丈夫って唱えるんだ。それで大丈夫じゃなきゃあ、オイッ、父ちゃん!大丈夫って言ったじゃねえかっ!って父ちゃんに文句言っていいからな。」
「きゃははは!なにそれー!大丈夫、大丈夫って言っても大丈夫じゃなきゃ父ちゃんに文句言っていいの?!じゃあそうする!」
そういって、抱きついてきたエリーの頭を優しくなでる父の瞼からは涙が溢れていた。
「あー泣き虫エリーまた泣いてんぞ!やーい泣き虫エリー!」
「うっっうっ…」
「おねえたん、よちよち…」
子供の頃のエリーには二歳年下の弟ダンと、病気の果てに亡くなった夫に代わり一家を懸命に支える優しくも厳しい母がいた。
エリーが4歳の時、父親の病気が判明し、それから数か月のうちに亡くなってしまった。
そのため、それまでの生活は一変してしまった。
それまで家で家族の面倒を見ていた母親は、朝から晩まで外で働き詰めになり、まだ小さな弟の面倒と最低限の家の手伝いをエリーがすることになった。
そうしなければ家族が生きていけなかった。
忙しい一日が終わりようやく夜になって目をつむると、大好きな父親の太陽のような笑顔が目に浮かんでくる。
父親に高く持ち上げられたり、太くて逞しい腕でぎゅっとしてもらうのが大好きだった。
その低くて心地よい声も、音痴だがエリーの為に毎晩歌ってくれた子守唄も、まだ小さな弟を構ってばかりの母親の代わりにいつもエリーを気にかけてくれて一緒にあそんでくれたことも。
嫌いなところなんて一つもないと言い切れるくらいエリーの自慢の大好きな父親だった。
「父ちゃん…会いたいよぅ…」
眠れない夜は父親がいつも歌ってくれた子守唄を自分で歌って気持ちを落ち着かせた。
父ちゃんっ子だったエリーは急な父の死をなかなか受け入れることがしばらく出来ず、それでも家族三人が力を合わせなければいけないのだと思い日々を涙を呑んで過ごした。
弟はまだ小さかったので、父親が亡くなったことがあまり理解できなかったらしくそこまで取り乱すことはなかった。
父親が亡くなる数日前に、エリーはいつものように大好きな父の横に寝そべっていた。
するとエリーの父はその小さな頭を撫でてやりながら、
「幸せになるんだぞ、エリー。でもあまり泣きすぎて母さんを困らせないようにしてくれると嬉しいがなぁ。お前が泣いちまうと父ちゃんも悲しくなっちまう。父ちゃんはいつもお前を見守ってるからな。元気に笑っていりゃあ幸せはどこからでも訪れるってもんさ。エリーは父ちゃんと母ちゃんの子だ。愛してるぞエリー。悲しいことがあったら、大丈夫、大丈夫って唱えるんだ。それで大丈夫じゃなきゃあ、オイッ、父ちゃん!大丈夫って言ったじゃねえかっ!って父ちゃんに文句言っていいからな。」
「きゃははは!なにそれー!大丈夫、大丈夫って言っても大丈夫じゃなきゃ父ちゃんに文句言っていいの?!じゃあそうする!」
そういって、抱きついてきたエリーの頭を優しくなでる父の瞼からは涙が溢れていた。
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