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第6話
「…どう、だった?」
展覧会が行われている部屋を出ると、大きなソファが置いてあるスペースに出た。絵を見ている間、ずっと無言だった唯斗が、恐る恐るといったふうに口を開いた。
「教えて、想がどう思ったのか。それが一番大切だから」
「うん…」
こちらを覗き込んでくる唯斗の、期待と、不安と、色々な感情が伝わってきて、唇を舐める。
唯斗の絵は凄かった。凄かったけれど、絵の知識なんてまるでない自分が、偉そうにコメントするのは躊躇われる。展覧会の薄暗い空間で、老若男女様々な人が絵を眺めていたけれど、唯斗の絵なんて大人気だった。皆口々に唯斗の絵の技巧の素晴らしさを褒めていて、俺にはその半分だって分からなかった。
こういうとき、ずっとそばにいた唯斗が遠い存在になってしまったことを実感する。その道の人から見ても唯斗は素晴らしい絵を描く人で、それなのに、俺はその唯斗の凄さが半分だって理解できない。
「唯斗…」
「うん?」
「…ごめん」
静かに唯斗が息を呑む気配がする。
「俺、絵の知識なんて全然なくて…唯斗の夢を応援するなら、ちゃんと勉強しなきゃいけないのに…。本当に、口先ばっかりだ」
唯斗は大切な幼馴染で、最近になって、幼馴染兼恋人になった。唯斗の夢を応援したいなんて思っていたけれど、結局絵のことを詳しく知ろうともしないで、耳障りの良いことを言っていただけの自分が情けなくなる。そんなの、本当に応援してるなんて言えるわけない。
「他の人たちも唯斗の絵を褒めてたけど、何を言ってるのか、全然分からなかった」
こういうときに、遠近法がどうだとか、色使いがどうだとか。他の人と同じように、そんな本格的なことを言えたらいいのに。
「…想」
「うん…」
「僕は、大事な幼馴染で、大好きな恋人の想が、何を思ってるか知りたい」
「…唯斗」
唯斗の手が頬に当てられて、俯いていた顔を上げる。
「想の言葉で、教えてほしい。僕が絵を描くようになったのは、想が褒めてくれたからだよ。保育園の時に、想がすごいすごいって、飛び跳ねて褒めてくれたから」
ああ、なんて嘘偽りのない真っ直ぐな言葉なんだろう。唯斗のその言葉だけで、今までもやもやと悩んでいたことなんて、途端に馬鹿らしくなってしまう。
「すごく…すごく、感動した。あの日の廊下が暑かったこととか、ちょっとほこりっぽかったところとか、そういう細かいこと思い出して…あのときに、タイムスリップしたみたいだった」
「うん」
「あの日、西日に照らされた唯斗の横顔がすごく綺麗で…ずっと見ていたいなって、俺、思ったけど…唯斗も、そう思ってくれてたんだなって、なんか…すごく…」
「すごく?」
言っているうちに胸がいっぱいになってきて、言葉に詰まった俺の顔を唯斗がいたずらっぽく覗き込んでくる。唯斗はずるい。何が続くかなんて、絶対に分かっているはずなのに。
「…唯斗の、思いが…伝わってきた、よ」
何故か急に日本語が片言になってしまって、気まずくてまた目線を落とす。じりじりとするような沈黙の後、唯斗が大きく息を吐いた。
「…え? ゆ、唯斗?」
何事かと慌てて顔を上げれば、唯斗はぎゅっと目をつむり、おでこに手を当てていた。
「…今、耐えてるから」
「な、何を?」
「…想を、抱きしめるの」
「だき、しめ…」
その言葉の意味が分かってくると同時に、今度はこちらの頬が熱くなる。
「ゆい、と」
「…想、帰ろう」
「え、ちょっ、…え?」
ぱっと唯斗に手を取られ、冷房の効いているビルから熱気のこもる外へと出る。
「早く、想を抱きしめたいから」
「あ、えっと…」
戸惑う俺を、不意に唯斗が振り返る。
「それで、また続き聞かせて?」
唯斗が微笑み、まばたきをする動きがスローモーションのように見える。視界の端にはきらきらと細かく光が瞬いていて、唯斗以外のことなんて、途端に気にならなくなってしまう。
拝啓、神様。俺は、唯斗のことがとんでもなく好きみたいです。
展覧会が行われている部屋を出ると、大きなソファが置いてあるスペースに出た。絵を見ている間、ずっと無言だった唯斗が、恐る恐るといったふうに口を開いた。
「教えて、想がどう思ったのか。それが一番大切だから」
「うん…」
こちらを覗き込んでくる唯斗の、期待と、不安と、色々な感情が伝わってきて、唇を舐める。
唯斗の絵は凄かった。凄かったけれど、絵の知識なんてまるでない自分が、偉そうにコメントするのは躊躇われる。展覧会の薄暗い空間で、老若男女様々な人が絵を眺めていたけれど、唯斗の絵なんて大人気だった。皆口々に唯斗の絵の技巧の素晴らしさを褒めていて、俺にはその半分だって分からなかった。
こういうとき、ずっとそばにいた唯斗が遠い存在になってしまったことを実感する。その道の人から見ても唯斗は素晴らしい絵を描く人で、それなのに、俺はその唯斗の凄さが半分だって理解できない。
「唯斗…」
「うん?」
「…ごめん」
静かに唯斗が息を呑む気配がする。
「俺、絵の知識なんて全然なくて…唯斗の夢を応援するなら、ちゃんと勉強しなきゃいけないのに…。本当に、口先ばっかりだ」
唯斗は大切な幼馴染で、最近になって、幼馴染兼恋人になった。唯斗の夢を応援したいなんて思っていたけれど、結局絵のことを詳しく知ろうともしないで、耳障りの良いことを言っていただけの自分が情けなくなる。そんなの、本当に応援してるなんて言えるわけない。
「他の人たちも唯斗の絵を褒めてたけど、何を言ってるのか、全然分からなかった」
こういうときに、遠近法がどうだとか、色使いがどうだとか。他の人と同じように、そんな本格的なことを言えたらいいのに。
「…想」
「うん…」
「僕は、大事な幼馴染で、大好きな恋人の想が、何を思ってるか知りたい」
「…唯斗」
唯斗の手が頬に当てられて、俯いていた顔を上げる。
「想の言葉で、教えてほしい。僕が絵を描くようになったのは、想が褒めてくれたからだよ。保育園の時に、想がすごいすごいって、飛び跳ねて褒めてくれたから」
ああ、なんて嘘偽りのない真っ直ぐな言葉なんだろう。唯斗のその言葉だけで、今までもやもやと悩んでいたことなんて、途端に馬鹿らしくなってしまう。
「すごく…すごく、感動した。あの日の廊下が暑かったこととか、ちょっとほこりっぽかったところとか、そういう細かいこと思い出して…あのときに、タイムスリップしたみたいだった」
「うん」
「あの日、西日に照らされた唯斗の横顔がすごく綺麗で…ずっと見ていたいなって、俺、思ったけど…唯斗も、そう思ってくれてたんだなって、なんか…すごく…」
「すごく?」
言っているうちに胸がいっぱいになってきて、言葉に詰まった俺の顔を唯斗がいたずらっぽく覗き込んでくる。唯斗はずるい。何が続くかなんて、絶対に分かっているはずなのに。
「…唯斗の、思いが…伝わってきた、よ」
何故か急に日本語が片言になってしまって、気まずくてまた目線を落とす。じりじりとするような沈黙の後、唯斗が大きく息を吐いた。
「…え? ゆ、唯斗?」
何事かと慌てて顔を上げれば、唯斗はぎゅっと目をつむり、おでこに手を当てていた。
「…今、耐えてるから」
「な、何を?」
「…想を、抱きしめるの」
「だき、しめ…」
その言葉の意味が分かってくると同時に、今度はこちらの頬が熱くなる。
「ゆい、と」
「…想、帰ろう」
「え、ちょっ、…え?」
ぱっと唯斗に手を取られ、冷房の効いているビルから熱気のこもる外へと出る。
「早く、想を抱きしめたいから」
「あ、えっと…」
戸惑う俺を、不意に唯斗が振り返る。
「それで、また続き聞かせて?」
唯斗が微笑み、まばたきをする動きがスローモーションのように見える。視界の端にはきらきらと細かく光が瞬いていて、唯斗以外のことなんて、途端に気にならなくなってしまう。
拝啓、神様。俺は、唯斗のことがとんでもなく好きみたいです。
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