仲良くなったと思った相手は、どうやら友達なんて作りたくないらしい

たけむら

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第1話

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「ねえねえ、奏明」
「何?」

湯気の立つ青椒肉絲に箸を伸ばしながら、目の前に座る友人に話しかける。

真っ直ぐな姿勢のまま麻婆豆腐をレンゲで掬っていた友人、もとい、壬生みぶ奏明そうめいが顔を上げた。

癖のない黒髪がさらりと流れ、切れ長の瞳がこちらを捉える。おまけの白い肌と薄い唇も相まって、一見冷たい印象を与えるけれど、そんなことは全くない。

「なんで他の人は奏明そうめいに話しかけないのかな、って」
「そう?」
「そうだよ、みんなして遠巻きに眺めてばっかでさ」

話しかけにくいタイプの奏明はしかし、友人としての贔屓目を差し引いても非常に美形で、それゆえにとんでもなくモテる。だからこそ、奏明には静かな、それでいて熱い視線が送られ、奏明に届けられることのない想いはひそひそとファン同士で共有されるという珍妙奇天烈な事態が起こっている。

「はるはどうしてそんなに怒ってるの?」
「怒っては…、怒ってるように見える? ごめん、怖くて」
「はるが怒っても怖くないよ、大丈夫」

そう言って、奏明はごく自然な動作で俺の口元を拭いてくれる。使い終わった紙を畳む指先まで洗練されているというか、無駄が一切ない。

紺色の襟付きシャツに、細身のパンツ。右手薬指に銀色のリングをしているのは、ファンにとってたまらないギャップらしい。ちなみに、近くで見なければ分からないけれど、ピアスの穴も空いている。風が吹いたか何かで偶然見えた時には、水色の石のピアスと銀色のイヤーカフを付けていた。知ってしまったのは俺だけだろうけれど。

「まあ、あまり愛想が良いほうじゃないから。仕方ないね」
「そうだけどさあ…」

奏明の出で立ちと、その由緒正しそうな名字も相まって、一時はヤの付く家の子ではないかなんて、とんでもない噂が流れていた。当の本人は全く気にしていなかったけれど、ろくに奏明と話さないくせにしっかり噂話だけはしている同級生に少し腹を立ててしまった。あの噂は、時間とともに薄れていき、今ではすっかり忘れ去られている。

「はーる、そんなに膨れないで」

楽しそうに頬をつついてくる奏明が、表情を緩める。笑うと、普段の凛とした雰囲気が少しだけ変わる。

「もったいないよ、奏明はこんなに良い奴なのに」

感情の高まりに任せて、青椒肉絲を次々に口へ運ぶ。

「ふふっ。はる、りすみたいになってるよ」
「りふ?」
「そう、ほっぺたがすごい膨らんでる」

こう、とほっぺたを膨らませて見せる奏明に噴き出してしまいそうになる。

「…っちょ、奏明!」
「ほら、杏仁豆腐あげる」
「もう…」

なおも楽しそうに笑っている奏明に、なんだかうまく丸め込まれてしまった気もしなくもない。
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