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第4話
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「はる、おはよう」
「おは、よう…壬生…くん」
奏明の顔を見たら、少しでも話してしまったら、ずっとそばにいたくなってしまう気がして、そそくさと距離を取る。
こんな子供じみたことしかできない自分が恥ずかしいし、今までいかに奏明に頼りきりだったのかが身に沁みて分かって、身の置きどころがないような気持ちになる。
「…はる」
「…っ、何?」
「寝癖、付いてるよ」
奏明の柔軟剤だか、香水だかの香りがふわっと漂う。いつも奏明が隣に座ってくれるうちに、すっかり馴染んでしまったこの香り。
「…っ、はる?」
「…うん」
「はる、どうしたの?」
「え…?」
切羽詰まったような奏明の声にのろのろと顔を上げると、奏明の冷たい指が瞼のふちをなぞっていく。
「…何か、あった?」
何かあったといえば、それは奏明が友達なんてひとりも要らないと言ったことだし、それに勝手に自分が落ち込んでいることしか思い当たらない。
「…何も、ないよ」
「泣いてるのに?」
「泣いて、ないよ」
なぜか視界がぼやけてきて、目を思いっきり擦る。なんとなく奏明の顔が見れなくて視線を落とすと、奏明の右手が目に入った。
「…ん?」
ちょうどリングが付いている右手の薬指。ゆっくりと赤い雫が膨らんできて、奏明の白い肌をゆっくりと伝っていく。
「…、血?」
「…」
「っ、奏明、血が…っ」
ハンカチを出して奏明の指を押さえる。やばい、このあとどうしたら良いのか、全くもって分からない。
とにかく血が止まれば良いと必死に押さえていると、不意に奏明が立ち上がった。
「…っ、奏明?」
「…ごめん」
「うん?」
押さえていた手がやんわりと外され、奏明は教室を出て行こうとする。
「ちょっ、奏明? …あっ」
周囲の視線が一斉にこちらを向き、慌てて口を押さえる。そういえば、今は授業中だった。
曖昧な笑みを浮かべてなんとか誤魔化しながら、奏明の後を追って教室を後にする。
「奏明」
「…っ、はる」
ゆっくりとこちらを振り向いた奏明が、無理やり笑顔を作っている。いつもの心から笑っている顔とは、全然違う。
「奏明、怪我は」
「…大丈夫、ありがとう」
「でも…」
「はるのハンカチ、汚しちゃったね」
「っ、そうじゃなくて」
思わず大きい声が出たことに、自分でも驚くけれど、考えるよりも先に言葉が出ていた。
「何かあるなら、っ、俺にも教えてよ」
「…はる」
「俺…っ、俺、奏明の友達じゃないかもしれないけど、それでも、奏明のことが…大事だから、っ」
「はる…」
大きく目を見開いた奏明が、小さく何かを呟くと、俺の眉間に出来たしわを指で伸ばす。
「はる、本気で怒るとそんなに怖いんだ」
「…そこ?」
また深くなりそうな眉間のしわを、奏明は楽しげに親指で伸ばしてくる。
「…っ、俺は、奏明が友達なんて要らないって言ったこと…結構本気で気にしてるのに」
「そんなこと言った?」
「言った、ぜーったいに言ってた」
「それで、はるは怒ってるの?」
「怒るよ。…俺は奏明の友達だって、思ってたのに」
「はる、口が尖ってるよ」
奏明は小さく何かを呟くと、右手を見つめる。
「これ、全然効果なかったなあ」
言うが早いか、奏明は右手のリングを抜き取ってポケットにしまった。
「効果、って…?」
「効果っていうよりも…おまじない、かな」
「おまじない?」
「うん、精神の安定に良いって言われたから」
「精神の、安定…」
そういえば、この間スマホで調べた時に、別の記事に書いてあったような気もする。
「でも、どうして…」
手を洗っているところに近づくと、奏明がこちらに向き直った。
「はるがかわいいから、その度に心が揺さぶられる」
「それ、って」
「いつも…はるとは友達じゃなければ良いのに、って思ってたから。それを無意識に言ったのかもしれない」
「あ、の」
脳みそが急速に回転し始めて、あるひとつの結論にたどり着きそうになる。回転によってたまった熱が、耳の先に集まってくるのが分かる。
「はる、顔が真っ赤」
笑い声とともに、冷たい奏明の手が頬を撫でていく。背中に甘いしびれが走って、肩が震えた。
「…そう、めい」
間近に迫った奏明の瞳に、頬がもっと熱くなる。
「はる、好きだよ」
「…っ」
「はるがいれば、他の誰も要らない」
心臓が口から飛び出してしまいそうなほどに、激しく鼓動を打っている。すぐそばにいる奏明に、聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい、心臓の音がうるさい。
「はるは…友達じゃなくて、恋人でいて」
「こ、い…」
「だめ?」
その表情は、ちょっと困ったように微笑んでくるのは、ずるい。そんな顔を見たら…、いや、そんな顔を見なくても。もう答えはひとつに決まっているけれど。
ひとつの動作も見逃すまいと、じっとこちらを見てくる奏明の瞳を見つめ返す。きっと奏明は、とっくにこちらの気持ちなんてお見通しなんだろう。だからこそ、死ぬほど緊張する。
「そう、めい」
「うん」
続きの言葉の代わりに、そっと背伸びをして奏明の頬に唇を寄せた。
「おは、よう…壬生…くん」
奏明の顔を見たら、少しでも話してしまったら、ずっとそばにいたくなってしまう気がして、そそくさと距離を取る。
こんな子供じみたことしかできない自分が恥ずかしいし、今までいかに奏明に頼りきりだったのかが身に沁みて分かって、身の置きどころがないような気持ちになる。
「…はる」
「…っ、何?」
「寝癖、付いてるよ」
奏明の柔軟剤だか、香水だかの香りがふわっと漂う。いつも奏明が隣に座ってくれるうちに、すっかり馴染んでしまったこの香り。
「…っ、はる?」
「…うん」
「はる、どうしたの?」
「え…?」
切羽詰まったような奏明の声にのろのろと顔を上げると、奏明の冷たい指が瞼のふちをなぞっていく。
「…何か、あった?」
何かあったといえば、それは奏明が友達なんてひとりも要らないと言ったことだし、それに勝手に自分が落ち込んでいることしか思い当たらない。
「…何も、ないよ」
「泣いてるのに?」
「泣いて、ないよ」
なぜか視界がぼやけてきて、目を思いっきり擦る。なんとなく奏明の顔が見れなくて視線を落とすと、奏明の右手が目に入った。
「…ん?」
ちょうどリングが付いている右手の薬指。ゆっくりと赤い雫が膨らんできて、奏明の白い肌をゆっくりと伝っていく。
「…、血?」
「…」
「っ、奏明、血が…っ」
ハンカチを出して奏明の指を押さえる。やばい、このあとどうしたら良いのか、全くもって分からない。
とにかく血が止まれば良いと必死に押さえていると、不意に奏明が立ち上がった。
「…っ、奏明?」
「…ごめん」
「うん?」
押さえていた手がやんわりと外され、奏明は教室を出て行こうとする。
「ちょっ、奏明? …あっ」
周囲の視線が一斉にこちらを向き、慌てて口を押さえる。そういえば、今は授業中だった。
曖昧な笑みを浮かべてなんとか誤魔化しながら、奏明の後を追って教室を後にする。
「奏明」
「…っ、はる」
ゆっくりとこちらを振り向いた奏明が、無理やり笑顔を作っている。いつもの心から笑っている顔とは、全然違う。
「奏明、怪我は」
「…大丈夫、ありがとう」
「でも…」
「はるのハンカチ、汚しちゃったね」
「っ、そうじゃなくて」
思わず大きい声が出たことに、自分でも驚くけれど、考えるよりも先に言葉が出ていた。
「何かあるなら、っ、俺にも教えてよ」
「…はる」
「俺…っ、俺、奏明の友達じゃないかもしれないけど、それでも、奏明のことが…大事だから、っ」
「はる…」
大きく目を見開いた奏明が、小さく何かを呟くと、俺の眉間に出来たしわを指で伸ばす。
「はる、本気で怒るとそんなに怖いんだ」
「…そこ?」
また深くなりそうな眉間のしわを、奏明は楽しげに親指で伸ばしてくる。
「…っ、俺は、奏明が友達なんて要らないって言ったこと…結構本気で気にしてるのに」
「そんなこと言った?」
「言った、ぜーったいに言ってた」
「それで、はるは怒ってるの?」
「怒るよ。…俺は奏明の友達だって、思ってたのに」
「はる、口が尖ってるよ」
奏明は小さく何かを呟くと、右手を見つめる。
「これ、全然効果なかったなあ」
言うが早いか、奏明は右手のリングを抜き取ってポケットにしまった。
「効果、って…?」
「効果っていうよりも…おまじない、かな」
「おまじない?」
「うん、精神の安定に良いって言われたから」
「精神の、安定…」
そういえば、この間スマホで調べた時に、別の記事に書いてあったような気もする。
「でも、どうして…」
手を洗っているところに近づくと、奏明がこちらに向き直った。
「はるがかわいいから、その度に心が揺さぶられる」
「それ、って」
「いつも…はるとは友達じゃなければ良いのに、って思ってたから。それを無意識に言ったのかもしれない」
「あ、の」
脳みそが急速に回転し始めて、あるひとつの結論にたどり着きそうになる。回転によってたまった熱が、耳の先に集まってくるのが分かる。
「はる、顔が真っ赤」
笑い声とともに、冷たい奏明の手が頬を撫でていく。背中に甘いしびれが走って、肩が震えた。
「…そう、めい」
間近に迫った奏明の瞳に、頬がもっと熱くなる。
「はる、好きだよ」
「…っ」
「はるがいれば、他の誰も要らない」
心臓が口から飛び出してしまいそうなほどに、激しく鼓動を打っている。すぐそばにいる奏明に、聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい、心臓の音がうるさい。
「はるは…友達じゃなくて、恋人でいて」
「こ、い…」
「だめ?」
その表情は、ちょっと困ったように微笑んでくるのは、ずるい。そんな顔を見たら…、いや、そんな顔を見なくても。もう答えはひとつに決まっているけれど。
ひとつの動作も見逃すまいと、じっとこちらを見てくる奏明の瞳を見つめ返す。きっと奏明は、とっくにこちらの気持ちなんてお見通しなんだろう。だからこそ、死ぬほど緊張する。
「そう、めい」
「うん」
続きの言葉の代わりに、そっと背伸びをして奏明の頬に唇を寄せた。
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