売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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働かせてください!

働かせてください!(3)

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 その日の午前中は洗濯と掃除をし、昼食をふかし芋とスープで簡単に済ませたら、しばらくは休憩だと言われた。ワーグナー夫妻は昼食後は午睡をするのだそうだ。主が家にいてもいなくても、夫妻の生活は普段と変わらないらしい。
 ユリウスは午睡の習慣がないため、庭で草取りをするついでに薬草を育てられる場所を探すことにした。

 草の生えていない土の地面のほとんどは、馬を散歩させているためか、踏み固められていて、薬草を植えるには向いていない。塀の傍の雑草が生い茂っている場所は日当たりが悪い。馬に踏まれないよう、薬草花壇を作るしかないが、花壇のほうは材料が必要なのですぐには難しい。
 まずは土の状態を見てみるか……。
 そんなことを考えつつ塀に沿って歩いていたら、正門が開き、荷車を引いた人が入って来た。

 小走りで近付き、挨拶をすると、相手はすでにユリウスのことを知っていた。
 トマスと名乗った彼は、平民街で商売をしているというワーグナー夫妻の息子だった。ユリウスより一回りほど年上で、柔和な面立ちがエレナによく似ている。今日は食材や馬の干し草を届けてくれたそうだ。
 勝手知ったる我が家よろしく、野菜やお肉を入れた木箱を台所へ運ぶと、荷台に積んでいた干し草を馬に与え、空になった荷台に馬の糞を乗せて帰って行った。馬の糞は、干して肥料にするらしい。
 馬の糞は薬草の肥料にもできるなと、ユリウスも心に留める。

 やがて夫妻が午睡から起き出してきて、午後の仕事はエレナが夕餉の仕度、ギルベルトがラインハルト宛てに届いた書簡の整理や繕い物、といった具合に分担していた。ギルベルトは、元々は仕立て屋で働いていたそうだ。目を悪くして仕立て屋はやめたが、今でも針仕事は基本的に彼の役目らしい。
 ユリウスは今日のところはエレナを手伝うことにした。そのうち繕い物も習いたいが、子供の頃、姉が刺繍をしているのを真似しようとし、何度も針を手に差して指先が血だらけになった記憶がある。あるじの衣服を血だらけにするわけにいかないので、まずは自分の衣で練習しなければならない。

 夕餉の仕度は、井戸から水を汲んできて、かまどに火を起こすところから始まる。ユリウスも、水を汲んできたり野菜を洗ったりして、できることから手を出していく。
 家では「危ないから」と言ってさせてもらえなかった火やナイフを使った作業も、気をつけてやれば全然危ないことはなかったし、実際にやってみたら楽しかった。

 確かに夫妻の一日を見ると、ユリウスがいなくても、二人だけで人手は足りているように思える。でも、手伝えば、今よりは二人が楽になるかもしれないし、邪魔になるようなら、その間は庭の草むしりや馬小屋の掃除をすればよい。
 食い扶持に見合う働きをできるかは自信がないが、真面目にやれば、タダ飯食らいよりマシではないかと思った。

 かまどからパンと肉の焼ける香ばしい匂いがし始めた頃、「そろそろかしら」とエレナが呟いた。
 皿を並べていたユリウスが声につられて顔を向けると、エレナがスープの味見用の器をテーブルに置き、「ユーリ様」と声をかけてくる。
 敬称はいらないと言ったのだが、夫妻はどうしてもユリウスに敬称をつけようとする。そのため、せめて愛称で呼んでもらえるようにお願いした。

「洗濯物を取り込むのをお願いしてもよろしいかしら? そろそろライニ様がお戻りになる頃だから、乾いた洗濯物の中から殿下の部屋着と湯布を持って、水浴びのお手伝いをして差し上げてください」
「水浴びですか?」

 聞けば、ラインハルトはいつも、帰宅すると馬の散歩をし、それが終わったら井戸端で頭から水を浴びるのだそうだ。さすがに真冬はお湯を使うが、湯桶に湯を溜めて浸かるのは、年に一、二回らしい。

「いくら春になって暖かくなってきたとは言っても、水浴びはさすがに風邪を引いてしまうのではないでしょうか……」
「わたくしたちも何度も申し上げたのですが、ライニ様がお聞きにならないのです。それほどやわな体じゃないと仰って……。そうだわ!」

 エレナはふいに、何かよいことでも思いついたかのように、目を輝かせた。

「ユーリ様から仰って頂けたら、ライニ様も耳を傾けてくださるかもしれませんわ」

 母君の代から仕えている侍女が言っても聞かないのだから、これまでほとんど縁のなかった自分が言ったところで、聞いてもらえるとは思わなかったが。
 どうせ湯浴みを勧めるのなら、一つ試してみたいことがあった。


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